序章 シチューの味
「はい葉月……あーん?」
私の前に差し出される、クリームシチューの乗った銀のスプーン。
それを持って、こちらを見ながらいつもの様ににこにこ笑っている、私の親友……黒森時雨<クロモリシグレ>。
黒髪のロングヘア―。
女子高生離れした、モデル顔負けのスタイル。
文武両道に品行方正。
絵に描いた様なスーパー美少女である彼女だが、たった一つだけ致命的な欠点がある。
それは……ただひたすらに『過保護』って事。
今日だって、私のお母さんが仕事で不在って事を一体どこから嗅ぎ付けたのか……夕飯を作りに押しかけて来やがった。
「時雨……シチュー位、一人で食べれるから……!」
「だーめ。葉月は病み上がりなんだから、少しでも身体を休めないと。ほら、あーん?」
(まーた始まった……)
幼馴染だからね。
一度過保護モードのスイッチが入っちゃうと、もうこいつは止められないって事はよく分かってるのさ。
(食べるしかないか……はあ)
ここが家で本当に良かったよ。
これで衆人環視の中だったらと思うと恥ずかしくて身震いしちゃうね。
まあ今でも十分恥ずかしいんだけどさ。
「あ、あーん……」
口を開いて、スプーンをぱくり。
「どうかな? 美味しい?」
「うん、美味しいよ……」
「そう? 良かった」
時雨は料理が滅茶苦茶に上手い。
今すぐお店が開ける位には上手い。
だからシチューは確かに美味しいんだ。
でもさ……。
「おかわりもあるからね? ほら、ふーふー……」
「ちょ、ちょっとそんなに……!」
そんなに一生懸命息を吹きかけなくても大丈夫だっての!
「だめだよ。まだ熱いからしっかり冷まさないと火傷しちゃう……ふーふー……はい、あーん?」
「……あ、あーん…………」
時雨の吐息がたっぷりかかってすっかりぬるくなったシチューを、目を瞑って無理矢理口に放り込む。
どうしよ……味が全然分かんね……。
「でも、良かった。葉月が爆発に巻き込まれたって聞いた時は、目の前が真っ暗になった様な気がしたけど。どこも怪我してなくて……本当に良かった」
(爆発……か)
今から丁度、一週間前。
私達の通う学校で、爆発事件が発生したんだ。
爆発により校舎の一部が破損。
旧校舎に至っては完全に崩壊しちゃった。
私はこの時、旧校舎にいたんだよね。
爆発の衝撃で気絶した私は、すぐに病院へと搬送され検査の為に一週間……つまり今日までずっと入院生活をしてきたのだ。
…………と、『世間的には』そういう事になっている。
「警察の人が言っていたよ。爆発の中心にいたのに無事だったなんて奇跡だって」
「へ、へーそーなんだー……た、助かって、よかったなー……!」
我ながら完璧な演技である。
これなら如何に時雨とて、絶対見破れないだろう。
(ばれる訳にはいけないからね……実はあの日、『変身ヒーロー』になって世界を救う為モンスターと戦ってます……なんてさ!)




