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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第三話 三人目の適応者と動き出す世界
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二章 女子高生、全国デビューを果たす


…… 葉月と時雨がダンジョンを攻略した次の日の朝 ……

『杠家 葉月の部屋』




 鬱陶しい目覚ましのベルが、朝が来てしまった事を教えてくれる。

 いつもいつもありがとうねひよこくん(私の目覚ましの名前。デザインがひよこだから)。


 たまには休んでてもいいんだよ?


「よいしょっと……痛! いったたたあ~……!」

 

 ベッドから起き上がろうと身体を起こすと、バキバキっと音が鳴る。


「ちょっと無理しすぎたかなあ……」

 

 昨日、私はワークベンダーが探知した負のエネルギーの反応に従い、学校の弓道場に倒れていた女の子……弓美春さん(後で時雨から聞いた)の精神世界……ダンジョンに“冒険<ギルドライブ>”した。

 

 そこで出てきた通常の三倍を誇る性能を持つユニークモンスター“究極合体『マシンロボ』機械兵マークⅢ”。


 ふざけた名前と、ふざけた強さを併せ持つロボにかなり追い詰められた私は、一度は死を覚悟した。


 だけど妖精の悪魔じみた機転によって、私と同じ様にジョブ・パスに選ばれていた時雨が、ギルドライバー“アサシン”に“変身”。


 時雨と力を合わせて、何とかダンジョンの攻略に成功したんだよね。


 その後、わりとフラフラだった私は、倒れている弓さんの介抱を時雨に任せて、一人帰宅。

 お風呂に入ってベッドに飛び込んだら、泥の様に眠ってしまった。


 色んなところにぶつかったせいか、それとも無理やり力を引き出したせいか全身が絶賛、筋肉痛状態。


 本当は一歩も動かずに寝ていたい所だけれど、恨めしい事に学校の休校は昨日まで。

 今日からは普通に授業が始まるのだ。




☆☆☆ ☆☆☆




「うー……だるい……」

「起きてきて一番最初に言うのがそれ?」


 頑張って一階まで下りると、優雅にコーヒーを飲みながらお母さんが呆れたような眼差しでこちらを見てくる。

 なにさ、こっちの苦労も知らないで!


 ……まあ言える筈ないよね。勇者のコスプレしてモンスターと戦ってます……なんてさ。

 

「葉月あなた……おでこ、どうしたの?」

「え?」


 マグカップを置いて、お母さんが近づいてくる。

 手を伸ばして、私の額に触れる。


 あったかい。さっきまでカップに触れていたもんね。

 

 お母さんの手が、ある一点を撫でると、ぴりっと痛みが走った。


「すりむいて……痣があるじゃない。どうしたの?」

「これは……えっと」


 うーん……多分昨日、壁に激突した時についたやつかなあ。

 正直に時雨のせいですって言っちゃう? ……なーんか変な誤解されそう。


「あー……電柱にぶつかっちゃって」

「……最近、生傷が多いわね」


「え?」

「こないだも腕を怪我して帰ってきたし……」

「あーそれはえっとお……」


「ねえ、葉月。ひょっとして……あの、何か辛いことがあるんなら、一人で抱え込まないで、お母さんに相談して。お母さんに言い辛いなら時雨ちゃんでもいいから」


「……大丈夫だって! 心配しすぎだよーお母さんは! そんな事より朝ごはん朝ごはん!」

「そう……顔洗って待ってな。今、卵焼くからさ」




…… 十分後 ……




 マグカップを回しながらダージリンの香りを楽しんでいると、焼き立てのトーストと、ケチャップのかかったスクランブルエッグがテーブルに置かれる。


「はい、お待ちどお」

「いただきまーす!」


 サクッ! と良い音をたてて口に入るトースト。

 流石だね、絶妙の焼き加減だ。


 私はバターを手に取ると、一口かじったトーストの上に満遍なく塗る。

 

 そしてバターの上に、スクランブルエッグを乗せる。

 トーストを二つに折りたためば、即席卵サンドの完成だ。


「あーむ……んん~! んましゅぎる~! しあわしぇ~!」

「それは、良かった……じゃあ私はもう行くから。鍵かけてってよ?」


「はーい。いってらっしゃーい」

「ああそれとテレビも消しといて?」

「んー」


 生返事を返して仕事に行くお母さんを見送る。

 テレビのチャンネルは朝のニュース番組になっていた。


『では、続いてのニュースです。……東京に、驚くべき生物が現れました』


「驚くべき生物?」


 なんだろう……?

 ツチノコでも見つかったのかな?

 はたまた東京湾に首の長い竜でも出てきたのかな?


 テレビの映像が、スタジオのニュースキャスターから、誰かがスマホで撮影したようなものに切り替わる。

 

 そこは何の変哲もない都会の街並み。

 撮影者の人は、友人と話をしながらスクランブル交差点を渡ろうとしてる。


 ……気のせいかな? なんかあそこ、見覚えあるぞ。

 なんだろ、妙に嫌な予感が……。




『グルアアアアアア!!!』

「やっぱりいいいいいいい!!!???」


 画面一杯に登場したのは先日、私が倒したドラゴン。

 ぎゃあああ撮影されてたなんて!


 こ、これは結構まずいんじゃない?


『見ての通り、東京に突如として現れた巨大な竜。決してCGではありません。SNS上では、数多くの目撃証言も寄せられており、現場には竜の仕業と思われる、焼け跡の様なものが今も残っております。番組の調査の結果、数日前から似たような不思議な生物の目撃情報もあり、現在、この交差点は封鎖され、自衛隊が国の指示のもと調査を行っております。この事態に、各国のメディアは──』


「あわわわわ……な、なんかとんでもない事になっちゃってる……」

「なっちゃってるねえ、ハヅキ」

「うわあああ!?」


 視界の上から一杯に覆いかぶさる、みどりの羽の生物。

 逆さまになった妖精と目が合い、私は悲鳴を上げる。


「い、いきなり登場するな! 朝から見かけないなあって思ってたら……!」

「えへへーごめんごめん! ちょっと色々調べててね……」


「調べる……ってなにを──」

「あ! 見てみて! ハヅキが映ってるよー! テレビ!」

「え!?」


 急いで見てみると、画質は悪く、背中だけだけども、確かに私。

 ドラゴンを倒した後、剣をしまい飛び去って行く様子が映っている。


「う……うそ……!」


『映像では、この人物が剣をしまうのと同時に、竜が消えている事が確認出来ます。また、僅かな目撃しかないものの、この人物が竜を倒したという情報もあり、現在、事件に大きく関わる重要な参考人物だとして──』


「あ……ああ……」


 だ、駄目だ……めまいが……。

 

「やったねハヅキ! 夢の全国デビューだよ!」

「人の夢を勝手に決めるな! ど、どうすんのさ! 重要参考人物……って私、捕まっちゃうんじゃあ──!」


「この世界の人間がギルドライバーを? ないない! ありえないよ! 動きについてこれないもの。武力行使するにしてもどんな兵器を持ってきたって傷一つつけられないね。核兵器ならダメージを与える事は出来るかもしれないけど……スピードが遅すぎる。まず当たりゃしないよ」


「そーいう問題じゃないわ、馬鹿!」

「分からないなあ……別にいーじゃないか、テレビに出るくらい。むしろ堂々と言っちゃえばいいのに。『私が皆の平和を守る、正義の味方! ギルドライバー“ユウシャ”です!』ってさ」


「い、い、言える訳ないでしょーが!」


 やっぱりこのお馬鹿妖精には人の気持ちなんて微塵も分からないに違いない。


 そんな事言ったら、周りから白い目で見られるってちょっと考えたら分かりそうなものなのにね。

 次の日から、学校やご近所さんから頭のおかしい子ってレッテルを貼られて、井戸端会議ではきっと……


『ねえ奥さん、聞きました? 杠さんとこの娘さん、ちょっとおかしいんですって!』

『ああ聞きました! 自分の事、勇者だとか言ってるって!』


『怖いわあ……ああいう子が犯罪を犯すのよねえ、隠れてなんかやってるんじゃないかしら?』

『嫌だわあ……あそこの家、どういう教育してるのかしら?』


『怖いわあ……』

『嫌だわあ……』


 みたいになるに違いない!


 百歩譲って私の悪口言うのはいいとして、もしお母さんにまで飛び火したら……!

 うん、やっぱり言える筈が無い。


「ハヅキー。時間大丈夫? そろそろ出発しなくていいのー?」

「時間……? ああああ! や、やばい! 遅刻するー!」


 私は手に持っていたサンドイッチを急いで胃の中に詰め込むと、着ていたイチゴ柄のパジャマを五秒で脱ぎ捨てて制服に着替え、三十秒で歯磨きをし、計五分足らずで、全ての準備を整える。


 カバンを引っ掴んで外へ!

 さあ急げ……っと、危ない。

 鍵を閉め忘れる所だった。


「危ない危ない……よし。これで大丈夫!」


 さあ急ごう! 走ればまだ間に合う!


『──では続きまして、大人気女優、海野美玲さん主演の映画、“ときめきを伝えて”についての最新情報をお届けします。この映画は、海野さん演じる生まれつき心臓の無い架空の病気を持つ女子高校生、“桜”が、一人の少年と出会い──』


 おかしいな……なーんか忘れてるような気が……?


「ハヅキ……テレビ消した?」


 あ。


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