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可愛い町娘の危機に、剣の達人が助けに入るのは、時代劇のお約束です

 マロの街に着きました。

 ダラハーからは一番近い、大きな街です。

 メラニーさんに無理を言って一緒に来てもらっています。次からは私一人でも来れるようにしたいです。

 とりあえず、ドレスを二着、持ってきました。念のために、私もドレス姿です。

 なぜって。

 仕事は形から入れというではありませんか。

 特に、今日は初営業なんですから。

 久し振りに着たドレスですが、痩せたのでしょうか、胸の部分が少し緩いです。

 気合を入れておかないと、アブナイ感じがしますね。

 馬車は街の入口に止めました。番役人に小銭を渡しておきます。

 メラニーさんの後について、市場の中の洋品店を訪ねます。そこで買取をしている店を紹介してもらいました。

 私のドレス姿が良かったのか、思ったより高額で買い取ってもらえたので、メラニーさんと顔を見合わせてしまいました。

 店を出て、裏通りに入ってから、二人で抱き合って、お互いの健闘を称え合います。

「良かったですね! リーナ様!」

「メラニーさんの交渉の仕方が良かったのよ! ありがとう! ありがとう!」

「いいえ! リーナ様が私の後ろから援護射撃をしてくださったからですわ!」

「私、立っていただけよ?」

「首切り姫が黙って立っているなんて、最高の恐怖ですわ! リーナ様!」

「そうよね! 次回はもっと睨んで立つことにするわね!」

「もうっ! リーナ様ったら!」

「ずっと睨んでいたから、目がつりそうだったのよ! メラニーさん!」

「やめてくださいったら! 笑い死にしそうです! もう! 早く帰らないと真夜中になってしまいますよ、リーナ様!」

 きゃっきゃっとはしゃいでいたのが悪かったのでしょうか。

 知らぬ間に、私たちの周りを人相の悪い男たちが取り囲んでいたのです。

「随分、楽しそうじゃねえか、お姉さんたち。うるさくて寝られねえんだ。頭が痛くてよう。こりゃ仕事には行けねえなあ」

「そりゃ、大変だ。兄貴が仕事できないとなると、大損ですからねぇ」

「なに、無茶を言おうってんではないんだ。治療代と今日の分の手間賃、二万ガレ、払ってもらったらいいんだよ、お姉さん方」

 テレビの時代劇によく出てくるパターンです、これは。

 親分、腰巾着、交渉係、といったところでしょうか。テレビなら、ここで颯爽とイケメンの若侍が助けに来てくれるのですが、望みようもありません。

 それにお金ならあります。二万ガレ。

 こいつら、買取の店から私たちをつけてきたに違いありません。

 お金を渡して済むのならそのほうがいいです。怪我をしてもつまりませんからね。

 そう言いかけた時でした。

「随分、お酒臭いですよ、あなた! 頭が痛いのはそのせいではありませんか!」

 メ、メラニーさん?

 メラニーさんは、私をかばって前に出てきます。

 その背中からひしひしと訴えるものが響いてきました。

 メラニーさんは私の苦労を一番身近で見てきた人です。

 首切り姫が噂通りではないことを今ではよく知っています。

 自分の持ち物を売ってまで、村を良くしようとしている、その事情を知っているがための、この行動なのでした。

 でも、私も言わせてください、メラニーさん。

 私はメラニーさんに庇われるような良い人間じゃないんです。

 村のことを頑張るのも、全てトーリ様のため。

 少しでも豊かな村にして、トーリ様に渡したい。

 ただそれだけの、厭らしい考えからなんです。

 メラニーさんを危険な目に遭わせるわけにはいきません。

「お金はこれに入っています。道を開けなさい!」

 私はメラニーさんを押しのけて前へ出ます。

「帽子くらい取れや!」

 かぶっていた帽子が乱暴に払いのけられて吹っ飛び、中へ入れていたアッシュグリーンの髪がばさりと落ちて露わになってしまいました。

「ほうほう、こりゃあ、中々」

「ほうほう、いいですね、兄貴」

「ほうほう、これなら」

 ほうほう、としか言えないこいつらの前世はフクロウだったようです。

「お姉ちゃん、あんたには新しい仕事をお世話してやるよ」

「ドレスを売っ払うより、金になるぜ」

「やっぱり、私たちをつけていたのね!」

「金に困ってんだろが! さっさと来い!」

 急に、手を引っ張られ、転びそうになりました。

 メラニーさんが悲鳴をあげます。

 私も膝をつき抵抗しながら叫びます。

「早く逃げて! 早く! 誰か呼んできてちょうだい!」

 その時でした。

 暗い路地を走ってきた人影があったのは。

 その人影は男たちに近づくなり、たった三太刀浴びせただけで倒してしまったのです。

 手品のショーでも見せられたかのようでした。

 でも、イケメンの若侍ではありません。

「お爺さん!」

 私をダラハーへ送ってくれた御者のお爺さんです。

 木の実をくれたあの優しい人でした。

 お爺さんは息も乱していません。

「騒ぐ声がするから来てみれば……、リーナ様ではありませんか。なぜこのような裏通りに? この辺は物騒なんですよ」

「ありがとうございました、本当にありがとうございました」

「お強いのですね。私はメラニーと言います。ありがとうございました」

「ヒュージェットです。強いことはありません。こいつら酒を飲んでいたようでフラフラでしたから、こんな年寄りでも大丈夫だっただけです」

「でも、この人たち、まさか、死……」

「ははっ! 大丈夫! 刃を潰してある剣ですからね。打ち身と骨折くらいでしょう。気絶しているだけで生きていますよ」

 私はメラニーさんに抱きつきます。

「ふえーん、メラニーさん、良かったああ」

「リーナ様、泣かないでください、リーナ様が泣くと私も泣けてくるじゃありませんか」

 しばらく抱き合って泣いた私たちはお爺さんのところへ泊めていただくことになったのでした。

 膝も擦り傷ができていましたし。



 ヒュージェットさんのお住まいはかなり大きなタウンハウスでした。

 ヒュージェットさんて、実はお金持ちなのでしょうか。

「いえいえ、私はここの管理を任されているだけで。年金と色々な仕事をして暮らしている普通の年寄りなのですよ」

 管理人さんですか。それなら。

 私は尋ねます。

「ヒュージェットさん、私にもできるような仕事、あるかしら?」

「仕事? リーナ様はダラハーの領主さまではないのですか?」

「領主代理ですよ、ヒュージェットさん。一年経ったらただの無職ですから。今から、就職の準備をしておこうと思ってるんです」

「でも、リーナ様は、その、ザッカリー団長と結婚されたのじゃ……」

「一年経ったら離婚するって言われてますから。あ、ザッカリー様が悪いんじゃないんですよ? 私のせいで団長は結婚する羽目になっただけですから。婚約者様もいらっしゃったというのに。ですから、離婚した後のために、就職の準備をしておこうと思ってるんです」

 メラニーさんは俯いています。

 ヒュージェットさんも気の毒そうに私を見ています。

「え、やだ、二人とも、そんな深刻な顔しないでくださいな! 私、平気ですから! 何てったって、首切り姫ですからね!」

「……」

「……」

 え、地雷、踏んだ?

「あの、あの、そうだ! 前向きの相談もあるんですよ!」

「おお、どんな!」

 気を取り直したヒュージェットさんが身を乗り出してきます。

「手っ取り早く、お金を稼ぐ方法はないでしょうか?」

「……リーナ様……、もっとご自分を大切になされませ……」

 ヒュージェットさんは拳を握りしめ、それがプルプルと震えています。

「違ーう! ヒュージェットさん、誤解ですっ!」


「商売を始めたい、ということですか? リーナ様」

「そうなんです、ヒュージェットさん。村に現金をもたらすには、やはり商売を始めることだと思うんです」

 誤解を解くことができて、今はヒュージェットさんの部屋で、お茶をいただきながら作戦会議中です。

 管理人のものとは思えない広くて贅沢なお部屋です。そして、部屋の壁には使い古した傷だらけの盾や防具、幾つもの剣がかかっています。

 ヒュージェットさんは騎士オタクなのでしょうか。

「たとえば、村の特産物を街で売る、とかはどうでしょう? リーナ様。メラニーさん、何かありますか、ダラハーの特産物」

「特産物と言われても、すぐには思いつきませんねえ。何しろ、今まで注目もされなかった土地なので」

 と、メラニーさん。

 私も考え込んでしまいます。無意識にお茶のカップに手を伸ばし、あ、と気付きました。 

 ありました、ありました。

「お茶ですよ、メラニーさん。ダラハーのお茶は金色の環っかができる、とても癒されるお茶じゃないですか!」

「そういえば、初めてダラハーに来られた時にもそんなことを仰っていましたね。でも、私たちが昔から飲んでるお茶ですよ? 特に優れた所とか、ないですから。リーナ様は人恋しい時に飲まれたから、そう感じただけじゃないんですか?」

「でも……、金色の環ができるお茶……、売り方を工夫すれば女性受けしそうですが」

 と、ヒュージェットさん。

「売り方……」

 宣伝、ということですね。

 前の世界では、人気のある女優さんが『これ、おススメ!』とかSNSで呟けば、結構売れたものですが。

 広告塔……

「そうよ! 私がいるわ!」

「ええっ?」

「ポスターを作りましょう!」

「ポスターとは何ですか? リーナ様」


 持てる知識を総動員して、メラニーさんとヒュージェットさんに説明しました。

「要するに、首切り姫も飲んでるダラハーのお茶、みたいな文句を入れたリーナ様の絵姿を商品の横に置く、ということですね?」

「そうよ! メラニーさん! そのキャッチコピーは今一だけど!」

「その、きゃ、何とかとは何ですかな、リーナ様」

「ヒュージェットさん……、要するに、人目を引く宣伝文句のことよ」

 キャッチコピーは後で考えることにして、ポスター制作の費用を検討することにいたしました。

 ヒュージェットさんによると、画家に頼むと、絵姿の制作には日数も費用もかかるというのです。

「あの……、紙と絵の具を用意していただければ、アンリさんが、ダラハーのアンリさんがかなりの腕前なんですが……。田舎の画家じゃ嫌ですよね……」

「素晴らしい情報だわ! メラニーさん!」

「それに市場で商売をするなら許可がいりますよ、リーナ様。よろしければ私が代行いたしましょうか?」

「ありがとうございます! ヒュージェットさん!」

 その時でした。

 タウンハウスの表で馬車が停まり、荒い足音が聞こえてきたのは。

 そして、大きな声。

「爺! どこだ! 爺!」

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