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お友だちになりました

 親衛隊の制服を着ていましたね。

 アリは。

 どこに行けば会えるのでしょうか。

 剣の鍛錬場へ行けばいいのかしら。

 まだ子どものような顔をしていましたから、きっと見習いみたいなものでしょうね。

 でも、陛下に親し気な口調でした。

 陛下は堅苦しいことは嫌いだと仰っていましたから、アリにもざっくばらんに話しかけているのでしょうね。

 ケレム様では考えられません。

 ケレム様は上下の関係をきっちりと分けるタイプです。

 人によれば煙たい人物かもしれませんが、こと組織の中においては有能な人材であるに違いありません。

 味方に着ければこれほど役に立つ人はいないでしょうが、敵には回したくない人です。



 鍛錬場に着きました。

 でも……

 くさっ!

 汗と革とが混じり合って、それに体臭をトッピングした生乾きの雑巾のような激臭がいたします。

 体に悪いですわ、この臭さ。

 病気になりそうです。

 思わずハンカチを鼻に当ててしまいます。

 それに……

 開いた扉の隙間から覗き込んだ私の目に飛び込んできたのは……

「き、きゃああああああああっ! いやあああああああっ!」

 汗を拭う、半裸の男の集団なのでした。

 気絶しそう……

 でも、でも、こんなところで気を失ってはダメよ、リーナ!

 首切り姫よっ! あなたは!

 しっかりして!

 自分を叱咤激励いたします。

 私の悲鳴で、半裸男の集団が一斉にこちらを見ます。

 彼らも女性にあられもない恰好を見られたことに気が付いたのでしょう。

 咆哮があがりました。

「うおおおおおおおっ!」

 獣ですっ! 野獣ですっ! 怖い!

 脳貧血でしょうか、頭がクラクラいたします。

「聖女様? 陛下はここにはいらっしゃいませんよ?」

 けろっとした口調で私に話しかけてきたのは。

「アリっ! やっぱり、ここにいたのですね! 良かった! 服を着てる……」

「嫌だな、聖女様。男の裸を覗きに来るなんて。欲求不満ですか」

「ば、馬鹿馬鹿しい! なぜ私がそのような下品なことをしなければならないのです!」

「もしかして、陛下の裸を……」

「お黙りなさい! 私はお前を探していたのです!」

 少し、興味はありますが。

「先日、お前は私をワガママ者だと揶揄しましたね。そのことでお前に話があるのです」

「へー、不敬罪で首でも刎ねるんですか?」

 全く、可愛くありませんね。

「親しくお話しがしたいのです。どこか二人きりになれるところはありませんか?」

「え? 僕を襲うつもりなのですか? 僕はまだ十五なので、未成年……、いたたたた、耳を引っ張らないで聖女様!」

「さっさと案内しなさい!」



 親衛隊の当直室にやってまいりました。

「お前は私が嫌いですね? アリ」

「ええ、そうですよ? あのケレムの一味なんでしょ?」

「ふふん、お前はまだまだ子どもですね、アリ」

「何だと?」

「大人は味方、敵方など、立場を明確にはいたしませんよ?」

「それは汚い大人のやり方だろ! 陛下は違う!」

「そう、あの方は特別です。あの方は汚れていません。アリ、陛下を守る手伝いをして欲しいのです」

「ふん、ケレムの手先が何を言う!」

「私はそれでいいのです。ただ、陛下を守りたいだけなのですから」

「……あなたの言うことはオカシイですよ! 聖女様!」

「私は大人ですよ? アリ。でも、陛下を守りたいというのは真実です」

「……そんなこと言っていいの? ケレムに殺されちゃうよ? 聖女様」

「もともと私の命でハトゥーシャを救うために召喚された聖女のようですからね、仕方ありません。でも、私、死にませんし、ハトゥーシャも救いますからね。そのために協力して欲しいのです、アリ」

 アリの顔が真面目な表情になりました。

「ハトゥーシャを救うためには、陛下を守らなくてはなりません。そこで、アリ、あなたに頼みがあるのです」

 アリは何か考えているようです。

「僕がケレムの仲間だって思わないの?」

「あの方のお仲間はそんなに単純な輩では務まりません」

「僕が単純だって言うの!」

「素直だと言っています」



「この薬草を煎じて陛下に飲ませて欲しいのです。今、陛下が飲んでいるのはケレム様が調達した、お体に良くない薬草です。薬種商が言うには、薬草を変えてすぐは二、三日熱が出たりするそうですが、止めてはいけないと。アリ、あなたにお願いできますか?」

「これが毒草じゃないと証明できる?」

「もちろん」

 乾燥した薬草をアリの目の前でちぎり、口に入れます。

「あっ!」

 アリの驚く声を無視して、咀嚼して飲み下します。

「にっがーい! 美味しくはありませんね」

 後で、ハチミツを垂らしたお茶でもいただきましょう。

「……無茶苦茶する聖女様だな……」

「とにかく、陛下をケレム様の魔手から守ることが第一だと思うのです。陛下はご自分の顔が醜いと気にされていますから、まずはそれを良くしましょう」

 ケレム様の本性を暴いていくのはそれからです。

「では。アリ、歯を食いしばりなさい」

「ええっ! 何で?」

「私とあなたは敵対しているのですよ!」

「ああー、なるべく手加減してくださいよ。ああー、嫌だなー」

「アリ!」

「はい、聖女様! どうぞ!」

 ばっちーんんん!

 久し振りのヒットですわ。

 ガラガラ、ガッシャーンと、アリが机や椅子を倒して吹っ飛びます。

 おおう!

 当直室の外がにわかに騒がしくなってきました。

 扉が物凄い勢いで開きます。

「何事ですか!」

「ふん! 口の利き方を知らない駄犬に躾をしてやったのですわ!」

 ごめんね、アリ……


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