表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/52

嫌われ者って、結構、使えそうですわ?

 いつもながら、王都から遠く離れた辺境の地ですね、ダラハーって。

 一番近いマロの街でさえ馬を飛ばしても半日、子ども連れで馬車ならほぼ一日、つぶれてしまいます。

 何かいい方法はないのでしょうか。

 それに、宰相には特別会計をねだりましたが、まあ、早くて一年後でしょう、予算がつくのは。

 その頃には、私はいないかもしれません。間に合えばいいのですが。

 なので、やはりお金を稼ぐ方法を編み出さなければならないのです。

 考え事をしていると時間のたつのが速いです。領主館が見えてきました。


「リーナ様! お帰りなされませ!」

「りーなさまぁ!」

「メラニーさん! マシューくん! ただいま!」

 二週間ぶりです。

 やっと我が家へ帰ってきたような気がします。

「リーナ様、お帰りなされませ」

 領主館ではヒュージェットさんが奥から出てきました。

 でも、なぜかお顔が渋くなっています。

「もうお帰りになるとは。トーリ様が何か不埒な振る舞いに及んだとか? 弟子のしでかしたことは師匠である私の責任。何でしたら、私の剣のサビにしましても」

「違います、違います! ヒュージェットさん! 早まらないで!」

 宰相家の件をかいつまんで話します。

「そうでしたか、ローリ様が。私もローリ様を助けるように言ったことはあるのですが、聞く耳もたずで。リーナ様の言うことは聞くのですな」

 最後に、むふふ、と笑ったように思ったのは気のせいでしょうか。


 いきなり、領主館に走りこんできた人がいます。

 背が高く、長い黒髪を後ろで一つにしばっています。白衣を着て、腕まくりをしているところを見ると、この方がダラハーへ来てくださったお医者さまなのでしょうか。

「ヒュージェット、頼んでいた薬品がまだ着かないんだが、どうなってる?」

 やっぱり、そのようですね。切れ長の、これも黒い瞳が魅力的な方です。

 そして、私と目が合いました。

「お、カワイ子ちゃん! どこから湧いてきたんだい? 後で村の案内をしてあげよう」

「え、村の案内はいりません。多分、私の方が詳しいと思いますよ」

「ほう、では君が噂のリーナ様? 僕はレネ。専門は外科だが、クマだって診てあげられるからね!」

「頼もしいわ! よろしくレネさん!」

 レネさんは、手を振りながら診療所へと帰って行かれました。

 はきはきと喋る、気持ちの良い方です。

「レネは、元々、王宮の医師だったのですよ。ただ、あんまり愛想がないんで貴族の方々に嫌われましてな。ヒマそうにしていたので誘ったんですよ」

「愛想が無さそうには見えませんでしたが」

「おお、これは失礼した。ご機嫌をとるお世辞が言えないということですよ。でも腕はピカ一ですからな、リーナ様」

「嫌われ者なんて、誰かと同じですね、ヒュージェットさん!」

「ま、私も中央の人々からは嫌われた、言わばハグレ騎士ですからな。リーナ様と同じですよ」

「嫌われ者にハグレ者ですか? ここはとんでもない者たちの集まるところのようですね、ヒュージェットさん! 何だか楽しくなってきたわ!」


 その夜。領主館に人々が集まりました。

 メラニーさん、アンリさん、ヨゼフさん、ヒュージェットさん、レネさん、そして私です。

 それぞれが、現在、気にかかっていることを話していきます。

 メラニーさんとアンリさんはお茶の売れ行きです。ついにマロのアンテナショップで売り出すのです。私も楽しみな反面、どうなるか不安です。ヨゼフさんは生産者の立場から、売れ行きもですが、その後のフォローの仕方ですね。お茶の質は落としたくないけれど、生産量が少なすぎては儲けになりませんから。

 レネさんは、まだダラハーへ来てから日も浅いこともありますが、住民の栄養状態を気にしておいででした。

 ヒュージェットさんからは、少し驚くような言葉が出てきました。

 ダラハーの防衛問題です。

 元騎士だからなのか、山岳地帯が気になると言うのです。

 ダラハーはガスパールでもかなり辺境にあり、村の後ろに聳える高い尾根を境界にして隣国と接しています。

 隣国は騎馬民族として有名な国です。最近、特にあちこちで小競り合いを繰り返しており、いくら険しい峰であるとはいえ、そこから攻め込まれては人数も少ない農村であるダラハーはひとたまりもない、援軍も頼めないというのです。そして、ダラハーは隣国にとってはガスパール攻略における足掛かり、つまり前線基地として重宝する土地なのだそうです。

 王都から遠いからです。

「でも、いくら何でもあの斜面を、ほとんど崖ですよ。あそこを降りてくるでしょうか? 人間は何とか降りてこれても、馬は無理ですよ。馬がなければ戦うこともできないじゃありませんか」

 メラニーさんが言います。

「それに、今まで、あの斜面を降りてきた者などいませんよ」

 アンリさんとヨゼフさんも口を揃えます。

 でも、私は思い出します。義経の一の谷の戦い。日本史は好きでした。

 あれも奇襲でしたよね。

 それにヒュージェットさんの騎士の勘も侮れませんから。

「見回りを増やしましょう、ヒュージェットさん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ