男の嫉妬はカッコ悪いと言うのなら、最高にカッコ悪い男におなりなさい、と誰かが言った BYトーリ
トーリ視点です。
「はっ、なーにが金色の巻き毛に青い瞳だ」
どうせ俺の髪は針金のように真っ直ぐで、赤茶けてますよ。
それに綺麗な青い瞳でなくて、汚くて薄い水色で悪かったな。
それにしても。
「誰だ、マシューって」
リネン室に潜んでいた時にリーナ達が入って来た時も驚いたが、リーナの口から出た男の名前にそれ以上に驚いて、棚の角にぶつけてしまった足の小指が痛い。
今は爺の部屋のソファに足を組み、ふんぞり返って座っている。
ソファの肘掛けを人差し指でコツコツ叩くのが止められない。
そもそも。
なぜ当主がコソコソ隠れなきゃならないんだ? 自分の屋敷なのに。
なぜリーナがこのタウンハウスへ?
ちらと見ただけだったが、少し痩せたか?
だが、そんな心配はあの言葉を思い出して一気に吹き飛んでいく。
私、彼が大好きなんです!
ふん! どうせ俺は嫌われてるよ。
そう思ったら、貧乏ゆすりまで加わってしまった。
ああ、腹が立つ!
「トーリ様、お出でになるなら、前もって連絡を入れていただかないと」
「爺! どういうことだ! 説明しろ!」
「説明も何も。トーリ様がリーナ様を見張れと仰ったから、そのようにしたまでです」
「見張るんじゃない! 見守れと言ったんだ! くそジジイ!」
「ですから、マロとダラハーの間の村にツナギ(連絡係)を数人配置いたしまして、その者たちから逐次報告を受けております。今回は何やら現金収入を得るためにドレスを売りに来られたようで。ツナギから報告を受けたのですが、あまり評判の良くない地区の店でしたので私が直接赴きました。ま、結果としてリーナ様をお助けすることになった次第でして」
「現金収入? ダラハーは陛下の直轄領だった所だぞ。役人が管理しているだろう」
「その役人が役に立っていなかったようですな」
「でも暮らす分には困らないはずだが」
「リーナ様は自分の生活のためではなく、村を豊かにするために何やら起業をお考えのようです。トーリ様に下賜された土地だからなのではないかと思われます。健気なものですな。あんなに一生懸命になられて」
「ふん! どうせマシューとかいう優男のためだろ? 大体な、女ってのは贅沢で賑やかなコトが好きなんだ。クマとタヌキしかいない村に飽きて、思い付きで始めたに違いないだろ。その内、また違うことに飛びつくに決まってる。爺、お前ともあろう者が振り回されてどうする」
爺がドン、と壁を殴った。
「そのコツコツと貧乏ゆすりをおやめなさい! トーリ様!」
ガスパールの伝説の騎士と呼ばれた人物の本気に触れて、俺は黙った。
もちろん、コツコツと貧乏ゆすりも。
「トーリ様、あなたは思い付きで始めたことのために、帳簿調べで夜更かしをしたり、台所の床で寝たりできますか? いくら陛下から見放されている王女とはいえ、一国の王女が自分のドレスを売って商売の元手にしようなどと考えるとお思いですか? 二万ガレごときであんなに喜んで……。それこそ、陛下に泣きつけばマロの街ごと買い取れるような資金を調達できます。なぜそれをしないのかを、よくお考えください」
爺は疲れたように俺に向かって笑った。
「それに、本当はよくわかっていらっしゃるのでしょう? トーリ様」
そうだ……
本当はわかっている。
リーナはおっちょこちょいだが、気まぐれを口にするような子じゃない。
頑固な所があるけど、誰かを利用したり、誰かを騙して何かをしようとする子じゃない。
真っ直ぐなんだ。
ザッカリー家の紋章がその良い例だ。
獅子の周りは竜なのに、『つる草』だと冗談で俺が言ったら、リーナはそれを信じた。
それから、いくらあれは嘘だったと言っても、リーナは信じてくれなかった。
トーリが嘘を言うわけないもの
そう言って。
俺はそのことを心に深く刻みつけて忘れてはいけなかったのに。
だけど、やっちまったんだ。
自分もリーナが好きだと認めるのが恥ずかしくて。
男勝りのリーナのブス、少しは女らしくしろ
そして、今だ。
顔も見たことのない男に嫉妬している。
何てカッコ悪いんだろうと思う。
自分のカッコ悪さを棚に上げて、リーナを貶すことで自分を正当化しようとした。
リーナはカッコ良い。
俺はカッコ悪い。
「爺……、嫉妬したんだ。マシューってヤツに。俺は何て、何て」
爺はニヤニヤ笑ってやがる。
「それでいいんですよ。やーっと認めましたね、トーリ様。最高にカッコ悪いですなあ。あ、リーナ様たちの飲まれたお茶に遅効性の睡眠薬を入れておきましたから、今頃はぐっすり眠っておられます。面と向かって言えないなら、今が謝るチャンスですよ。ただし、ヘンなことをしようものなら、爺が成敗させていただきますので、そのあたり、お含みおきくださいませ」
「……くそジジイ……」




