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担任からさして心の籠っていない祝辞を聞かされ、校舎内での注意事項や、登下校時の安全について事細かに話された後HRは終了した。こういうのは普通の学校とそんなに変わらないらしい。
今日は始業式のみなので、午前で帰宅だ。時刻はまだ11時30分過ぎ。
少し早いけど、雫ちゃんをあまり待たせる訳にはいかない。席を静かに立つと鞄を取っ手から外して両手で握る。視線を感じ顔を上げると、鷹司と一緒に話していた2人の女の子が不適な笑みを浮かべてこちらを見ていた。うお、吃驚した。鷹司響は口元に手を添えて何とも言えない表情を浮かべていたが。
ゲームで取り巻きがいるって言ってたけど、もしかしてこの子達なのかも?
俺は居心地悪さを感じたが、まあでも、3人ともイジメをするとかそういう描写は全く無かったし、そこは正直安心している。俺よりも雫ちゃんが心配だったから。
俺はその3人に小さくお辞儀をすると「皆様、ごきげんよう」と声をかけ、教室のドアへと向かった。後ろから相変わらず視線を感じたが気づかないフリをする。
そのまま扉へと手をかけた瞬間、反対側から誰かが扉を開けたみたいで、急いで手を引っ込めた。
……ってアレ?視界には誰もいない。
俺は少しだけ頭を下に向ける。そこにはとても可愛らしい、背の低い女の子が立っていた。
「あ! ご、ごめんなさいっ」
か細い声で言うその子は、少しピンクがかった髪の毛を2つで縛り、吸い込まれそうなほど大きくて丸い目をした、リスのような女の子だった。
かっ…………!!
「………………わいい」
「えっ?」
「あ、い、いえ、何でもありません」
俺は慌てて笑顔を作る。やっべぇ、あまりにも好きなタイプど真ん中すぎて思わず口に出してしまったぞ。女の子は少し固まった俺を見て、不安そうにしていた。俺はすぐにコホンと小さく咳払いして道を開ける。
「こちらこそ、きちんと前を見ていなかったようで失礼致しました。」
どうぞ、と言いながら手で道を記してあげれば、恥ずかしそうに「す、すみません」と言いながら教室へと入って来る。クラスに友達でもいるのだろうか。
俺は今日イチ良い笑顔を向けると「それでは、ごきげんよう」と言って通り過ぎる。女の子は慌てて「ご、ごきげんよう」とかなりぎこちなさそうに返事をした。もしかするとあまり慣れていないのかな。
バクバクと高鳴る心臓を悟られないよう、飄々と廊下へと急ぐ。扉を後ろ手で閉めると、ヨッシャと小さくガッツポーズを決めた。
どうしよう、初日から相当な幸運だ。雫ちゃんにも出会えたし、さらにはあんな、あんな……
「(あんなに可愛い子と出会うなんて!!)」
俺は胸の前で組み、瞳を閉じながら天を仰ぐ。まるで神に感謝を捧げるようなポーズになってしまったが、あながち間違ってない。神様、二人と出会わせてくれて有難う!!!
ちなみに、あの可愛らしい女の子は一条桜子ちゃんと言うらしい。あの一瞬で名札を盗み見た俺に抜かりは無かった。
雫ちゃんも桜子ちゃんも同じクラスでは無い事がとっても悔やまれる。2人が一緒に居たらマイナスイオン感じれそうなのにな~。本当に残念だ。
だが、諦めるのはまだ早い。俺の方からアピールして桜子ちゃんとも仲良くなれば、雫ちゃんと桜子ちゃんも仲良くなってくれるんじゃないか?
仲良くなった暁には、3人で一緒にお昼食べたり、遊びに出掛けたり……ムフ、何だか学校生活が断然楽しみになってきた!
俺は周りにバレないよう少しだけニヤケると、絶対に3人仲良くなってやるぞ!と心に誓ったのだった。