1
ポカンと口を開けて聳え立つ大きな門を見上げる。
目の前には何度もプレイさせられたゲーム【BLOOM】の主人公達が通う学校、通称”天逢学園”があった。
姉の部屋でいつも無理やりやらされたな……あの人、自分でプレイする時も真顔だから楽しいのか楽しくないのかよく分からないんだよなあ、なんて思ったがそんな姉も今はいない。
現実世界でうっかり足を滑らせて階段から転げ落ちた先は、乙女ゲームの中でした?
……って。
え?強くてニューゲーム状態?強くどころか弱体化してんじゃねーか!
前の世界では25歳。酸いも甘いも少しは知りながら生きてきたが、今の年齢は覚えている限り16歳。見た目も知識も力も幼くなっている。それだけじゃない、問題はもう一つある。それは……
「何で俺が乙女ゲームに転生してんだあああーーーーーー!!」
俺が男だと言うことだ。
---------------------------------------------------------------------------------------
あの叫びの後、周囲の人たちから奇異な目で見られたがそんな事は構っちゃいられない。
なんで姉じゃなく俺なんだよ……まあ足滑らせたのは俺なんだけど。
正直に言って、かなり大変だった。
まず、転生したら女だったこと。これはかなりキツい。
スカートのせいでスースーする足には慣れないし、自分の姿を確認しようにも……そう、女子用トイレに行かなければならないからだ。
可愛らしい女子高生がきゃいきゃいとトイレに出入りするもんだから、何度も諦めそうになった。
だが、しかし。このくらいで挫けている様じゃ先が思いやられる。俺は覚悟を決めて個室へと飛び込んだ。
そこで確認しましたよ、ええ。悲しいかな俺の大事な息子(通称:ビッグボーイJr.)はそこに居なかった。どうやら遠くへ旅に出たみたいだ。
人が居なくなったのを見計らって個室から出ると、手入れが行き届いた鏡の前に立つ。
姿を確認してみるとこれまた王道な平凡+++くらいの女の子が立っていた。髪の毛は青みがかったグレーで、顔は正直タイプです。
結構胸もあるし、これを平凡と呼ぶにはいかがなものかと思ったが…まあいいだろう。そもそも【BLOOM】の主人公はこんな顔じゃなかったはずだから、俺が転生したのはモブってことか。え?ソレ、転生する意味無くない?
一応、自分と家族と友人の名前くらいは記憶があるようで、名前は西原伊織。歳は16になったばかりの華の女子高生である。
天逢学園はお金持ち学校なので、モブといえどこの学園に通えるレベルの家柄で、6つ離れた弟がいる。
まあ、モブだろうが、悪役だろうが転生してしまったものは仕方がない。あっちの世界の俺は死んじゃったのかな?生きていれば戻れる希望もあるのだけれど。
少しだけ寂しくなったが、それなりに楽観主義でもあった為涙は全く出なかった。