かれえらいす
「お母さん、今日の晩ごはんはなに?」
「今日はカレーライスよ」
「やったあ!」
……熱い、熱い。助けてくれ……!
一体俺たちが何をしたってんだ……!
いくらなんでもこの仕打ちは酷くはないかっ!
これは、鍋の中での会話。
茶色くドロリとした、かれえらいす。
「まだ意識はあるか? ジャガイモ」
「ああ、なんとかな。ニンジン」
「しかし、なんでこんなことになっちまったんだ」
「俺が知るかよ……」
薄黄色とオレンジ色の野菜たちには、その色をかき消さんとする茶色い液体が絡みついていた。
「しかし人間は、なんでこんなことを」
「あの頃は、絶対的に俺たちの方が立場が上だったというのに、一体何があったんだ……」
あの頃は、あの頃は――。
俺は、動かなかった。動かなくても大丈夫だったから。
物心ついたときからふかふかの土。適度な量の水は常に与えられる。
大きくなってきた頃には肥料を撒かれたり。そう、人間によって。
ここまでうまく育ってくると、虫害なんかをいつも気にしていたが、どうやら人間によって防がれているようだった。
そう、その人間は俺に仕えていたはずだった。
しかしある朝のこと、変化は急に訪れた。
遠く離れた所から仲間の悲鳴が聞こえ始めたのだ。なんだ、なんだ!? そう思っている間に悲鳴は近づいてきた。
そしてすぐ隣のヤツの悲鳴が聞こえた頃に気づいたのだ。人間がいるということに。
そして、私は――引っこ抜かれた。
外は酷く眩しかったし、何が何だか分からないままでいる間にカゴに入れられた。仲間がいっぱいいた。
そしてカゴがいっぱいになると、カゴごと更に大きな箱の中に入れられた。
そしてカゴがいくつか並んだ頃、箱が動き出した。ガタン、ガタンとときおり揺れていた。
そこから先はよくわからない施設をいくつか通ってきた。そして、最後の施設で、俺は葉っぱを切られた。
痛かった。なんでこんなこと……と、そう思った。
そう思ってるうちに、俺は袋に入れられた。私も合わせて四本だった。
そしてどこか明るいところに並べられた。同じような袋がたくさんあった。
人間は私たちを持ち上げては置いて、持ち上げては置いて。いつの間にかカゴの中だった。
そして、気づいたときにはこの家についていた。私は木の板に乗せられていた。
わけがわからなかった。水で洗われ、そして。
痛いっ、痛いっ! 皮を剥かれる。
もう、やめてくれ。何度も思った。けど、終わらなかった。
銀色した、鋭い何かが降りてきた。トン、トン。軽快な音で私は切り分けられてしまった。
痛みしか感じてなかった。どうしてこんなことに。いったい、どこで間違え――。
ジャー、ジュー。
痛みが消えた。代わりに身が焼けるような熱さを感じた。いや、実際に熱かった。
地面が木の板から、鉄板に変わっていた。それもどこか油分が表面にあって、かつ熱い。
周囲を見回せばジャガイモや牛肉なんかがあった。
助けてくれ、このままでは熱さで干からびてしまう。誰か……水を……。
「あのときは水が欲しかった。けど、水がこんなにも熱くなるだなんて。知っていたなら欲しくはなかった」
「ニンジン……俺もだいたい同じ感じだった。俺らは無性生殖だからな、親芋と同じように、たくさんの芋をつけられるようになると思っていた」
「ジャガイモ……。クソッ、なんでこんなことに」
「……お前らも、人間に騙されたのだな」
「お前は……牛肉!」
俺は、悠々と暮らしていた。広い草原で、草を食べながら。たまに人間が来て、ブラッシングしにくる。まさに召使いのようだった。
ただ、ときおり仲間がいなくなる。いつの間にか。
そんなとき、俺は、人間に連れられていった。どこに行くのだろうかと思ったら、とても狭い箱に何匹も仲間と一緒に詰められ、そしてその箱が動き出した。
よくわからないところに連れて行かれ、気づいたときには屠られていた。
そのまま体はバラバラにされ、部位ごとに切り分けられると、とても冷たいところに入れられた。
冷たくて、冷たくて。凍ってしまうほどに。
意識が遠のいた。微かに残ったそれが感じていたのは、やはり移動している感覚だけだった。
気がついた頃には、白くて柔らかな床の箱に入れられていた。よく見ると、天井は透明の膜があるようだった。
さっきよりかはマシだったけど、そこやっぱり寒かった。
そこから先は、ニンジンと同じような感じだ。人間に手に取られ、置かれ、手にに取られ、置かれ。
木の板の上でぶつ切りにされ、鉄板の上で焼かれ。
そして――。
「みんな、人間に優しくされて、いい気になって、裏切られた」
「なんて、卑劣なんだ」
「クソッ……クソッ」
ニンジン、ジャガイモ、牛肉。それぞれが悔やんでいた。
「おい、アレは何だ!」
そう叫んだのはニンジンだった。
鍋の上から降りてきたのは、銀色の円形した何かだった。
それが茶色の液体へと入ってきて、液体を掬っていく。
「わかったぞ、アレに掬われれば、助かるんだ!」
「そうか、きっとそうだ!」
とても、喜んでいた。
「はい、カレーライスよ」
「わーい!」
私はカレーライスが大好きだ。
だっておいしいもの。
「しっかり味わって食べなさい、この家で食べる最後の食事なのだから」
「……? 引っ越すの?」
「ええ、あなたはとってもゴージャスな家に引っ越すの」
「やったあ!」
「ほら、早く食べてしまいなさい」
お母さんにそう急かされ、私はスプーンを手に取る。
カレーライスを掬って、口に運ぶ。ちょびっと辛い。けど、ニンジンは甘いし、ジャガイモはホクホク。お肉もじゅうしい? でとってもおいしい。
「お姉ちゃんのこと覚えてるかしら?」
「覚えてるよ、随分と前に引っ越したのよね」
「そうよ、あなたもお姉ちゃんと同じように引っ越すの」
「そうなのかー、はむっ」
私はカレーライスを食べる。うん、おいしい。
しばらく食べてると、外から車の音がした。
「お父さんが来ちゃったわ、ほら、早く食べて」
「うん」
私は残っていたカレーライスを全部頬張った。
「じゃ、行くわよ」
「はーい!」
新しい家、楽しみだなあ!