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第2話 君は一人で



 この事実が有るとするなら、美空の言っていた記憶は何だったのかと考えたが。きっと何かの覚え違いで記憶が混乱していたに違いない。僕はそう思いながらも美空の情報を調べ続けた。


―――――今日より1年前


 その日、高山美空はこの部屋で亡くなり。その一ヶ月後に異臭騒ぎから警察により発見された。携帯のやり取りから、この街の花火大会の前々日に亡くなっている事が判ったようだ。


『君は一人で死んだのだ』


僕は心の中でそう呟きながらも、掲示板を巡回して美空に関する情報を探し続けた。そうこうしているうちに、風呂場から寝間着に着替えて頭にタオルを巻いたエリが出て来て。テレビを点けた。


 僕はエリが風呂場から出てくる前に美空に関する検索履歴を削除した。


 エリはいつも静かに美しい整った顔の表情を崩さずにニュース番組を観ている。その日に世の中で起こった出来事や、可愛らしい動物が愛想を振り撒く内容や、目を覆いたくなる様な悲惨な内容や、コメンテーターが熱く語るスポーツニュースを淡々と無表情なままに観ているので、僕はエリがいつも何を考えて居るのか解らなかった。


 しかし、この日のエリはニュースではなく。お笑い番組を観ていた。僕が知っている限り初めての事であった。相変わらずエリは無表情のままで。僕は時折、芸人達の動きや文言に笑ったがエリはそれでも無表情なままで観ていた。


 エリは急に立ち上りテレビの電源を落として風呂場へ行くとドライヤーで髪を乾かし始めた。僕はその隙にまた美空に関する事を調べようとスマホの画面をタップした。


「人間の様な幽霊と、幽霊の様な人間と。まあ、不思議なもんだな。」


そう呟くと目の前に美空が首だけ現れて


「呼びました?何かわかりました?」


と言って来たので、僕は一瞬


(今まで調べてきた事を話せば、美空は記憶が戻るのではないだろうか?だけどそれは美空の信じてる優しい記憶を壊すだけではないか?)


そう考えた結果、僕はもう少し調べてから、ちゃんと美空に話そうと思い。


「いや。呼んで無いし。まだ全然わかんないし。エリに見付かるから隠れてよ。」


「エリさんは幽霊が見えない人だから大丈夫ですよ。声も聞こえないし。じゃあ何か解ったら教えてくださいね。」


僕の言葉に美空はそう返事をすると。頭の横に右手だけを出して手を振るとそのまま消えてしまった。そんなやり取りが終わると風呂場のドライヤーの音が止みエリが出てきた。エリは


「私、明日早いからもう寝るよ。」


そう言うと、布団を拡げて寝床の準備をしだしたので。僕はシャワーを浴びて来ることにした。僕は頭を洗い身体を擦ると一気にシャワーで流した。身体を拭いてパジャマに着替えて僕は風呂場から出るとエリはもう布団の中だった。


 僕は気を使い、ソッとエリの寝ている布団に入るとエリは上を向いたまま。


「ねえ。マーくん聞いてる?私明日から出張で2泊なんだ。」


「うん。」


「ご飯、冷蔵庫の中に有るから食べてね。」


「解ったよ。」


そう言うとエリは僕に背中を向けて寝た。僕はその華奢な背中を少し撫で、これ以上やると怒られそうなのでそのまま寝た。



―――――翌朝起きると、エリはもう出勤していた。


 

 僕は起きると一度布団から出て流し台へと行き、電気ケトルへ水を入れお湯を沸かした。エリとお揃いで買ったマグカップへインスタントコーヒーを入れお湯を注いだ。安っぽい味がすると言う人間も居るが僕はインスタントコーヒーの味が一番落ち着く事を考えて居ると。


「おはようございます。」


その挨拶と共に美空は部屋へと現れた。僕は何となく美空がこの場に出て来る気がしたので僕は


「おはよう。オバケって朝も大丈夫なの?」


「オバケじゃなくて幽霊ですよ。特に何時がダメとかそんなルールみたいなのは無いですね。あたしの意思が大事みたいです。」


「へー。つまり出て来ようと思えば何時でも出てこれるし。隠れようと思えば何時でも隠れられる訳なんだね。」


そう答えると僕は先程注いだコーヒーをひと口啜り唇に熱さと鼻腔にコーヒーのスモーキーな薫りが抜けると目の前の美空が物凄く僕の顔に顔を近付けて見ているので僕は固まった。


 その事に気付くと美空は慌てながら


「あのっ!そのっ!すみません!あたしそのっ!コーヒーの匂いを嗅いだらなんだか凄く美味しそうで!」


と手をバタバタとさせながらそう言って来たので僕はもう一つのエリのマグカップへとインスタントコーヒーを入れてお湯を注いぎ。美空の前に差し出した。


 すると美空は今にもコーヒーに食い付きそうな程に顔を寄せたが、一歩引いて僕の顔を恥ずかしそうに見ながら


「凄く飲みたいしありがたいのですが、あたし物を持てないのです。」


そう言った。僕は親切でやったつもりが、美空を傷付けてしまったのかもしれない。そう思うといたたまれない気持ちになって咄嗟に僕は


「ごめん!どうにかしてでも君にこのコーヒーを飲ませて見せるよ!何でもするから言ってくれ!」


そんな台詞を吐いてしまい。僕は少し後悔したがコーヒーを飲ませるぐらいきっと簡単な事だと思った。


「さあ、どうやったら君にコーヒーを飲ませる事が出来る?」


「あの...えーっとですね。。。無理にやんなくても良いんですけど......。」


「僕はやるって言ったんだ。早く言ってくれよ飲ませる方法を。」


「あのー。大変言いにくいのですが...」


「良いから。」


「コーヒーをあなたが口に含んで移してもらえば...」


「えっ!?移すって?」


美空はそう言うと右手の人差し指を自分のやわらかそうな唇へと当てた。


僕は


エリの事が頭に浮かびながらも、何か嬉しく成りながらも罪悪感が共存し得たことの無い心持ちに紅潮し


(困っている人を助けるためだ仕方がない)


と自分に都合が良いように言い聞かせた。そして僕はもう一度


「そんな事をやっても良いのかい?」


そう尋ねると美空は頬を赤らめながら


「あなたが嫌でなければ...」


そう言い固まった。時間にして何秒かの事ではあるが僕の中では大変長い時間止まったような気がした。







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