表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

No.9




 No.9




 「なんて言ったが、実は俺が一番儲けたかもな」


 交渉が終わり店を出ると日が暮れ始めていた。

 俺は売ったスーツの代金が入った。ずっしりと重い袋をバックの中に入れる。


 「スーツ四点セット。買い取り総額金貨六十枚。買い取り価格効果20%増加の効果で金貨十枚プラスっと」


 金貨は一枚10万。スーツの売り値段が金貨五十枚で500万。それで上乗せ価格が100万って、どう考えてもおかしな話だ。ホントどっから出てきたと問いたい。


 だが俺の懐には600万円が転がり込んできたと考えるとすると。あのスーツを買ったのが20万円。その分を差し引いても580万円だ。そう思えば、いきなり俺はプチ成金となったって感じだ。


 革靴も売っていれば一体いくらになったんだろうと、売り終わってからちょっと邪な考えも浮かんだ。


 「今度新しい靴を買って、この革靴は必要になるその時まで保管しておくか」


 単品で売ると買い取り効果は無くなるが。この世界ではスキルで作られた品物以外は、高く買い取られると言うことがわかった。それが分かっただけでもやはり自分はかなり儲けたと思える。

 そうして大金を手に入れた俺は、当初の目的地であった宿屋の方面へと向かっていく。

 宿屋へは道に迷うことも、何かしらのトラブルが起こることもなく。日が暮れる前にアルヒロに教えてもらった宿屋へと到着した。


 「文字は読めないが、看板にある木に止まった鳥の姿。ここが『止まり木亭』だな」


 木造作りのクラシックな感じのする三階建ての建物。

 その建物の扉を開くとチリッンと、ドアベルの音が鳴る。


 「いらっしゃい。止まり木亭にようこそ。宿泊かい?」


 扉を開けてすぐのカウンターから低い声が聞こえてくる。そちらを目を向けると驚いた。


 「リザードマン!?」

 「おや? 亜種族はダメかい? ならうちでの宿泊は無理になるよ。それと俺は海人族(マーブル)種族だ。よく間違えられるけどね」


 苦笑しているような表情をするファンタジー世界でもお馴染みのリザードマンに似た姿をした者。

 いままで人間タイプしか見ていなかったから、リザードマンの様なファンタジー世界特有の存在(タイプ)が居たことに心底驚いた。


 「……失礼しました。ぱっと見たときに思わず似てたからつい……」

 「だろうね。陸地に上がると海人族(マーブル)陸人族(トーラル)種族に見えるらしい。見分けがつく奴なんて、それこそ両種族をよく知ってる人くらいだろう。それで、宿泊でいいのかい?」


 たいして気にしていないと海人族(マーブル)と言う種族の受付の男性、で良いんだよな? よくわからん。が、宿泊するのかと聞いてきた。


 「ああ、一泊いくらになる?」

 「うちは前払いで一人一泊青銅貨一枚。食事はなし。お湯とカンテラもなし。ただうちは朝昼夜と食事が付けることが出来る。もし食事付きを望むなら一食に付き銅貨一枚。それからお湯とカンテラ付きは片方で鉄貨五枚だ」

 「連泊は可能か?」

 「金があるならいつまでも」

 「なら取り合えずは一週間で。食事は朝と夕食付きを。お湯とカンテラも有りにしてくれ」

 「一人分で?」

 「ああ」

 「じゃあ前払いの前に、先ずはイデアレコードの確認をさせてくれ」


 手を差し出して受付の男性が呪文のような言葉を唱える。すると手の甲からイデアレコードが出てくる。

 こちらでも犯罪者かどうかの確認していると言うことだそうだ。

 まあ経営側からすれば犯罪者を泊めようとは思わないな。


 「あんた人間族(ヒューム)なのか!? 霊人族(エレメント)とのハーフか何かか?」

 「いや純粋な人だけど? なにか変か?」

 「そうなのか。いや人それぞれだからな。悪い問題ないよ。ええっと、一週間で朝夕の食事とお湯とカンテラが付いて、1万4560リーエンだから……銀貨一枚にーーー」


 イデアレコードを確認すると、誰もが自分を見て驚きの表情をする。

 もしかして体の筋肉量が減った他にも、何か体に変化が起きて、何かしらの見た目が変わったのだろうか? と首を捻るトウマ。

 しかし今は分からないと言うことで、この疑問を先伸ばしにする。

 鏡があればあとで確認するか。

 それと物でなくとも二割引の効果は効くのか。これも知り得て良かった情報だな。

 あとは、聞いていた通り少し割高か? 他の宿との比較してないからわからん。でもまあ金はあるし問題ないな。

 見ていたら受付の男性は数字はすぐに出てきたが、数字を貨幣に変えるので手間取っていたので。


 「青銅貨四枚。銅貨五枚。鉄貨六枚」

 「おっ貨幣に変えるの早いな。もしかしてお前さんは商人かい?」

 「いや、こう言う計算にはいくらか慣れてるだけだよ。ほら銀貨一枚と青銅貨五枚」

 「そうか。うらやましいな。ぬっ、つりだな。いま渡す」


 困ったような表情をしたので。


 「つりは良いよ。その代わりにうまい飯を頼む」


 俺がそう言うと海人族(マーブル)の男はほっとしたような顔をしてから、にやっと笑って。


 「わかった。料理番には必ず伝えておくよ。これが部屋の鍵だ。部屋は二階の一番奥部屋。部屋には鍵付きのタンスがあるが、貴重品とかは出掛ける際は持っていくようにしておいてくれ。無くなってもこっちじゃ責任は取れないからな。

 それと外へ出掛けるときは必ず鍵はこの受け付けに渡してくれ。帰ってきたらまた渡す。

 食事の時間は朝の食事は朝の六つの鐘が鳴ってから九つの鐘が鳴り終わるまで、夕食の始まりは日暮れの六つの鐘から九つまでだ。

 そこの食堂にはメニューが二種類あるからカウンターで、鍵に付いているこの札の注文する方と同じ色を見せてからもらってくれ。

 お湯とカンテラが欲しいときはここに言ってくれ。すぐに持っていくようにする。

 何か分からないときにもここに言ってもらえれば対応する。

 それと最後に、もうすぐ夕食の時間になるだろうから、食べに行くなら早めに荷物を置いてから行くと良い。込み合うからな」

 「わかったありがとう。荷物を置いたら食べに行くとするよ」


 俺は宿の説明を受け。それから宿帳に名前を書いてくれと言われ書く。


 日本語で書いたが疑問に思わないみたいだな。形式だけか?

 兎に角チェックインを済ませ。鍵を受け取る。しかし受付の男は出て来て、部屋に案内するような素振りは見せない。

 どうやら客を部屋まで案内すると言うことはしないようだ。

 客への案内サービスとかはないのか?

 無いのだと思い。仕方ないので二階へと続く階段を登っていく。

 そして通路の一番端にある部屋に向かう。


 「人の気配がしないな。気力探知を行っても、一階部分のみにしか人が居ない。もしかして不人気の宿屋なのか?」


 もしかして知り合いのところで経営難だから紹介されたのだろうか?

 廊下を歩きながらそんな思いが過った。


 「行き止まり。んで、この部屋か」


 木造の扉に真鍮のドアノブ。持っていた鍵をドアノブに差し込み。鍵を開け。中へと入る。


 「ワンルームか……」


 入ると右手に窓と一人用の机と椅子。奥に木のシングルベッド。左手側に洋服タンスが置かれている八畳ほどの広さを持つ部屋だった。

 トイレは部屋にないのかと荷物を置き。下の受け付けに聞きに行くと。一階の階段の近くに共用トイレがあると言われた。

 見に行ったら汲み取り(ボットン)式じゃなく。大きな壺がポンと置いてある感じのものだった……。


 「これで用を足すのか……」


 綺麗にされているがなかなか嫌な気分になる。

 因みに紙は備え付けではなく。各部屋に置いてあるそうで、それを持ってトイレに行く。無くなったら受け付けに言ってくれと言われた。


 「うん……そうだよな……異世界ファンタジーにはこう言うのがあるよな……」


 海外の田舎町よりマシだと考えよう。下手をすると外で目隠し用の敷居があって、その中には穴があるだけと言うのもある。

 あとはどれだけ日本が綺麗好きかとか。いつ掃除したんだって言うトイレもあったな……。

 懐かしい苦労話にほろりとして、食堂へと向かった。


 「まだ誰も来てないのか……六つの鐘って言ってたけど、時計は……なさそうだな。メニューらしきものもないし、もう注文して良いんだろうか?」


 厨房の向こう側に人、いや違う。人の頭にあんな獣の耳は生えてない。


 「リザードマンの次は獣人か……なんかファンタジーらしくなった来たな」


 先程の受付の男性よりは驚きはないものの、それなりに驚き。違うの向こう側にいる獣人の男性か? 少年のような背格好の人に声を掛ける。


 「すみません。もう料理の注文をしても良いんですか?」


 俺が声を掛けると中に居た獣人の少年はびっくっとしてから振り返り。それからぶつ切りの、辿々しい言葉使いで話してきた。


 「ゴメンナサイ。リョウリノ、チュウモン。デキル。ナニスル?」


 おお、習いたての言葉遣いって感じだな。


 どこか怯えた感じのように聞こえてきたので、怒っていないと言うように優しく。こちらも分かりやすいように、言葉を切って伝える。


 「なんの、料理が、あります?」


 俺の返し方に相手は驚いた表情をした。

 しかし直ぐに返答を返す。


 「イロ。シロ。パント、ニクト、ヤサイノスープ。イロ。クロ。パント、サカナノ、ニモノ。ノミモノ。ワインカ。ハーブ、エラベル」


 パンは同じで主菜が違うってことか。白色が肉と野菜のスープ? 黒色が魚の煮物か。両方とも何の肉で何の魚かと聞いたら相手困るかな?

 どっちを選んでも分からないものは分からないので、札を見ずに相手に渡す。


 「ノミモノ。ナニスル?」

 「ああそうか。ええっとそうだな……じゃあ、ワイン、の方で」


 頷くとすぐに厨房の方に引っ込み。トレーにコッペパンの様なパンが一個と、肉と野菜が入ったスープの皿。そして木のジョッキに並々と注がれたワインが出された。


 「パン。ホシケレバ、イッテ、クダサイ。リオール、イッテタ。オキャクサン、ニハ。スコシ、リョウオオメ」


 おおっ! ここでサービスか! あの受付の人リオールって言うのか。早速言ってくれたんだな。


 「ありがとう。なら、パンをもうひとつ、貰えるかな?」


 俺は人差し指を立て。パンをもう一個追加して貰う。

 料理が出揃ったら俺はトレーを持ってテーブル席で食事を取ることにする。


 「……ワインは違うが、見た目だけなら小学校の給食だな」


 コッペパンに肉と野菜のスープ。ファンタジー世界定番なら不味い料理となるんだが、さて味の方は。


 「…………固いな」


 パンはカッチカッチである。時間のたったフランスパンのようだ。歯で噛みきれる自信がない。千切ってスープに浸してから、柔らかくして食べよう。


 「…………か、噛みきれねえ」


 肉。何の肉かは知らないが、ガムのように噛み続けても、一向に噛みきれるって言う気がしない。

 勿論噛んでいたからと言って、濃くのある味が染み出てくると言うわけもない。

 野菜もキャベツとジャガイモ。それとニンジンが入っているだけだ。

 スープの味は塩のみ。若干肉と野菜の味が染み出ていると言う感じがする。


 「……しぶっ」


 こちらも旨いって感じがまったくしない。

 どちらかと言えば、このワインでパンやスープを流し込むように食べろと言う無言の意思を感じる。


 「ーーーぷはっ! なんとか食べきった……」


 海外でもここまで不味いと言うのは、なかなかお目にかかれないな。この世界じゃ、まだまだ人が食べるように物が品種改良されてないんだろうな。


 エスルダ村でもたいして旨いとは思わなかったが、町でもこのレベルだと、食事事情は自分で改善して言った方が良さそうな気がしてきた。


 「と言っても既に一週間分朝夕の食事頼んじゃってるからな……ハァ、若干気が重い」


 食事は生きるための活力であるために、その食事が不味いことに、暫くの間は暗雲低迷な未来があることを想像した。


 「ごちそうさま。うまかったよ」


 食べ終わったトレーをカウンターに返しに行き。そのついでに獣人の少年に(本当に)お世辞を言っておく。


 「ア、ドウモ……アリガトウゴザイマス」


 困ったような。嬉しそうな。それでいて、どこか複雑そうな表情で返してきた。

 俺はその様子に苦笑して手を振って食堂を出る。出ると入れ替わりで人がどどっと入ってきた。


 「おっと……失礼」


 ぶつかりそうになったところを間一髪で避ける。

 しかし向こうはこちらが避けるのが当たり前と言う様な顔をして食堂へ入っていった。

 何て礼儀知らずな奴らだと思い。一体どんな奴らだと鑑定を使い見てみると、全員が冒険者の職業をしていた。


 「ったく。冒険者って奴らは無頼の集まりなのか?」


 文句を言いたかった訳ではないのだが、自然とそんな言葉が漏れた。


 「仕方がないさ。冒険者は他人に弱味を見せない。自尊心の塊のような者が多いからね」


 トウマの何気なく呟いた言葉に答えた者が居た。

 トウマはその声の主の方に振り返る。

 するとそこには年齢にして十四、五の線の細い。少女と見間違うほどの顔立ちをした少年がいた。

 少年と判断したのは髪型や服装。立ち居い振る舞いから、女性ではなく男性と判断したのだ。


 「すまない。聞こえたか」

 「いいや構わないさ。ただ先に入った様な連中の耳には入れない方が良いね。ああした連中はすぐに喧嘩を売ってくる。特に喧嘩慣れしてない者にはより強気でね」


 彼にもそうしたプライドを刺激したかと詫びるが、本人は自分以外には絶対に言わない方がいいと忠告をする。


 「そうか、気を付けるよ。しかし俺はそんな風に見えるか?」


 ムキムキマッチョだった頃ならどうかは分からないが、今の自分はそんなに弱そうに見えるのだろうかと訪ねると。


 「場馴れた雰囲気がまったくしないね。じゃあ、すまないけど、僕も食事を取らせて貰うよ」


 少年は微笑むようにトウマにそう告げると、自身も食堂へと入っていく。

 トウマは少年の姿を見送る。

 トウマはそんな少年の事が気になったのか、つい他の冒険者達にしたように鑑定を使ってみた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 【名前】:マルセ [自由民]

 【種族】:夢魔族 (未分化)

 【年齢】:16 【職業】:冒険者Lv:8


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「夢魔族? サキュバスとかインキュバスとか言われてるあの一族の? それに未分化? 性別が決まってないってことか?」


 男性とも女性とも付かないように見えたのは、これのせいだなと判断した。

 そして冒険者と言ってもああ言う奴も要るんだなと感心したトウマであった。

 それから部屋に戻る際に、受付にいたリオールにお湯とカンテラを頼んでいく。


 「ああわかった。すぐに持っていくようにする」

 「頼むよ。それと食事の方量を増やして貰ってありがとうな」

 「その分は貰ったからな」


 トウマはゆっくりでも構わないと告げ、自身もゆっくりと部屋に戻っていった。














「またどっかで見たような展開に。まあ宿屋に泊まるんだから必要なやり取り(こと)なんだろうけどって、管理人さんどうしたの? なんだか忙しそうだね」

「これはOK。これはまだダメね。却下。これはこっちのと似てるから統合しましょう。え? ああごめんなさい。こちらに来た人達が早速新しいスキルを生み出してくれて、それの整理をしていたのよ」

「へぇー。そんなお仕事もしてるんだ。暇な人じゃなかったんだね」

「暇じゃないわよ!? 結構管理の仕事って大変なのよ!」

「ふーん。でも僕には関係ないからいいや。次回は11月18日だってさ」

「暇をしてるならあなたも少し手伝ってよ。はい。この資料をまとめておいてね」

「ええー!? 僕トカゲの姿なのに!?」

「立ってるものはトカゲも使えよ。はい! ガンバって!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ