No.7
No.7
「……充実した気だるさ。黄色く輝く太陽。隣で寝るは美女、とは言いがたいが、それなりの女性。はい。異世界に来てリア充を送ってますーーーーーーアホかッ!」
最後絞り出すように呻く言葉を吐いた。
「意思弱えぇよ、俺……」
昨日村を救った礼としてこの村の村長からの"もてなし"を受けたトウマ。
そのもてなしが実は食事ではなく。物理的な礼であった。
据え膳食わねば男の恥。そんな心がなかったトウマ。
差し出された女性に翻弄された。
しかしそれも前半まで、途中からはトウマも拒もうとしていた気持ちが在ったにも関わらず。ついにはその快楽に身を任せ。差し出された女性に何度もその快楽をぶつけたのであった。
「すいませんね。こっちとらこんな体格と顔をしていたお陰で、女性にはトンと縁がなくてね。ええ、初めてでしたよ。文句あるか!」
最早誰に文句を言っているのか分からない言葉を吐く。
因みに既に女性はいない。トウマよりも先に起き。静かにこの部屋を出た行った。まさに一夜限りの関係と言うように。
「失礼致します。起きていらっしゃいますでしょうか?」
トウマが朝日に向かって文句を垂れていると、扉の向こうからディダルダの声が掛かる。
声を掛けられた瞬間に文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、女性を受け入れてしまった以上、自分が文句を言うのは筋違いと。今の愚痴で忘れることにした。
「特殊なお召し物でしたが破損なく。乾かすことが出来ましたのでお持ちしました。それと朝食の準備ができています。よろしければお召し上がりください」
「……ありがとうございます。後程着替えたら向かいます」
スーツを受け取り。いまではタブタブとなったスーツの袖を通し着替える。
それをつぶさに見ていたディダルダ。トウマが服について何も言ってこないので、問題がないとひとつ息を吐く。そして。
「昨晩の"もてなし"気にいって頂けたようで」
思わず吹きそうになった。
それはそうだ。
この家の広さがどれ程か分からないが、あれだけ行為を繰り返していたのだ。
もてなした側としては気にもなっていたことだろう。
トウマはなるべくポーカーフェイスを保ちながら。
「大変良いもてなしだった。そう伝えておいてくれ」
「はい。そのように」
これでディダルダの体裁は整えられ。また彼女の扱いも無下にされる事はないだろうと、それならば自分1人が我慢すればいいのだとそう思った。
ただどんなに取り繕うをとも、昨晩の行為の暴走は、トウマの初めてからなるものであるのは間違いないのであった。
その後は朝食を済ませ。簡単な身支度をしてアルヒロの待つ場所へと向かう。
アルヒロは既に準備を終えているのだろう。トウマを待っている形で待っていた。
「待たせてしまいましたか?」
「いえいえ。こちらも今しがた準備が整ったところで、お呼びに行こうとしていたところでした」
馬一頭に荷台のような馬車。その上には檻があり。ー人の男が項垂れたまま座っている。昨日の盗みを働いた男である。
その男の家族はここに来ていない。最早別れは済ませたと言うことなのだろう。
そして男が檻から出されていないと言うことは、その家族はこの男を買い戻すだけの金がないのか。戻す価値もないと思ったのか。
その辺の事情は自分が考えることではないなと思った。
「すぐに行けますか?」
「よろしければ」
見送りは村長のディダルダだけであった。その他はいない。昨日の女性も来てはいない。『気』で調べてもよかったが、それはそれで無粋なような気がしたので止めておいた。
トウマはディダルダに別れの挨拶を済ませ。馬車へと乗り込む。
そしてトウマはこのエスルダと言う村を後にした。
「去らば初めての人よ。……ハァ、しばらく引きずりそうだな」
男の感傷はなかなか抜けないものである。
暫く後、トウマは昨日やり忘れていた職業の交換をしておこうと、馬車に揺られながら操作を始める。
さて、村人から切り替えるのは気功術士で良いとしても。一応それぞれの中身を見ておこうか。実は気功術士と書いてあって、全く別物なんてことだったら目も当てられないからな。
そんなことはないとわかっていても、オプションの画面から気功術士を選択。
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【気功術士】Lv:1
【ステータス上昇率】
体力:D 筋力:D 耐久:D 知力:E
精神:E 敏捷:D 器用:D 感応:C-
【スキル】:気功術
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気功術だったな。スキルの方は、内容が分かるのかな? ああダメだ。『気』が扱えるようになるとしかない。『気』の扱い方すら書いてない。
まあでも俺は『気』が使えるから問題なんだけどな。
説明文とは思えない説明文を読んでがっかりし。もうひとつある職業も確認しておく。
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【救世主】Lv:1
【ステータス上昇率】
体力:A+ 筋力:A+ 耐久:A+ 知力:A+
精神:A+ 敏捷:A+ 器用:A+ 感応:A+
【スキル】:オラクル
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「ーーーブッ!?」
「どうかされましたか?」
「ああ、いえ、ちょっと顔に虫が」
「そうでしたか。もうそろそろ森が近くなります。そこから来たのでしょう」
そんな話をアルヒロとするが頭には入ってこない。
"オールA+"とかなんだこの壊れ職業は!? オラクル? 神託? 導き? 説明が足りねよぉ。
予想していた通りに、この職業は持っていたら自分に厄介事が来る可能性があると思い。メインジョブには決してしないように心がけ。セカンドジョブあたりで回すことにした。
そしてこれら以外にも変わったことはないかと調べ。ユニークスキルである天地武神流のところで変化があった。
ん? 空欄だった場所に記載がある。
竜吼波。竜翔波。気力探知。爆震掌。気力全開。自己回復。血塗られた朱の棘槍。気力治療。
これ俺が『気』で再現したやつだ……。
しかし気力全開と自己回復と言うのは知らないな。いつ使った?
うーん今後も技を使えば登録されるのか? なら要観察だな。
しかし血塗られた朱の棘槍は、『気』じゃなくて『血液』による技だったんだが、以外と『気』じゃなくても再現可能なんだな……。
載っていたものも調べてみるが、文中はどれも『気』の技としか記載されていなかった。
エクストラスキル欄の方も見たが、そちらは昨日取得したモノがON/OFFの機能が有ったことぐらいである。
それ以降は暇になり。景色を眺めて過ごそうとするが。
……檻に入れられた人が怖えよ! ずっとぶつぶつぶつぶつ何か言ってるんだよ! 言葉分かんねえから余計に怖ええッ!
トウマは目線を合わせないように空を眺めたり。周りの景色を眺めて過ごした。
しかしその内景色を見ているのにも飽きが来て。
「そう言えばこの辺りには危険な動物とかはいないんですか?」
『管理人』が危険な動物等が沢山居ると言っていたのを思いだし。聞いてみと。
「危険な動物ですか? 魔物ではなくてですか?」
「まあ、どちらでも構わないんですが」
魔物か……やっぱいるんだな。さすがファンタジーだ。
この世界の不思議に変な感心をする。
「そうですね。この辺りで危険なやつと言えばブラックファングですかね」
「そうか。ここにはそんなのがいるのか」
はっきり言ってそれがどんな姿の生き物なのか想像が出来ない。だから適当に会話を合わせて要るだけで留め。世間話をするようにこの世界の常識や知識をさりげなく仕入れた。
センチュリアの町の情報では奴隷館の他に娼館があると聞き、つい昨晩の事を思い出したりもした。
俺は思春期の男子か? こんな感覚は高校の時にあったが……女子のちょっとした仕草が気になったりとか。だが今さら?
枯れているわけではないが、こんなに溢れるような感覚は本当に久方ぶりの感覚で戸惑っていた。
「これから行くセンチュリアの町ではアブラクト語を話せる方はどれくらい居ますか?」
「アブラクト語の話者ですか? ご存じのように冒険者や魔法使いの方は必須ですから覚えていますね。後は貴族の方達。それと商売をしている者なら片言でも話せる者は多くいる筈ですね」
いやご存じと言われても、この世界の常識を知らないんだが。それにしても必須? 何か必要な事でも有るんだろうか? その辺は探れたら聞いておこう。
そして会話をしながら、今度は自分の力を出来うる限り把握することに努めた。
オプションの方は良いとして、『気』の再現は今は止めておこう。どんなものでも『気』で再現できるとなると。どうしでも物騒な技が多くなる上に、環境破壊レベルのものが多くなるからな。自然は大切にだ。
今『気』で出来ることは限られている。なら気力探知を使い。周りの警戒くらいは出来るだろうと、『気』を薄く。広範囲に伸ばすように拡げていく。
すると、生物の反応。人や動物。植物や虫に至るまで、その存在が把握することが出来た。だだーーー
人や動物の『気』は持つ量からか分かりやすいな。それも今はこの二人だけだらかもしれないな。これが雑踏の中でピンポイントに目的の人が探せるかと言うと、難しいかも知れない。
人だと言うことは分かっても、特定の人物を探すとなると、自分が相手の『気』を覚えなくてはならないと思えた。
「そう言えば冒険者には何か組合のようなものが在ると聞きましたが?」
「ギルドのことですね。センチュリアにも在りますよ。騎士団では対処してくれないようなものも扱っているところですね。他にも探索で得られたものを売り買いしているところでもありますね」
「……本当、在るんだな……ん?」
そうして会話をしながら感覚も研ぎ澄ましていく鍛練をしていると、トウマの今までと違った感覚の引っ掛かりを覚えた。
なんだこれ? でかい……鳥? いや、それにしては、かなりの速度と上空を飛んでるな。
何かがこの上空を飛行してると空を見上げる。
そこには爬虫類の姿に翼を持つ。ファンタジー世界ではよく登場する『ワイバーン』と呼ばれる。竜の亜種が飛行していた。
「ワイバーン……!?」
「え? なんですか?」
トウマが空を見て驚くとアルヒロが何かと尋ねる。
そしてトウマが空を見ているので自分も空を見るとその目にワイバーンの姿が映った。
「ああ、あれはきっと竜騎士ですね。任務で何処からか来たんでしょうか?」
アルヒロが言うように竜の背には人が乗っていた。彼らはこちらに気がつくことなく。飛び去っていく。
「ワイバーンなんて始めてみました……」
「亜種とは言え、竜種は滅多にお目にかかれない相手ですからね。あのワイバーンですから、卵から孵して人に慣れさせ、やっとの生き物ですから」
「竜に勝てる者はいないと?」
「ワイバーンですら百人単位で相手にするんですよ! ああッ!? いや! べつにあなた様が勝てないとは思ってませんがッ!」
「さすがに私もそんなのを一人で相手をしようとは思いません。命あっての物種、と言いますから」
「ハハハ、確かに。死んでしまっては何もならないですからね」
竜とはそんなに強いものなのかと、出会わぬように心掛けようと心に刻み。道を急ぐ。
その後は何らトラブルらしいトラブルもなく。センチュリアの町に到着する。
センチュリアの町は外壁で覆われた砦と言った印象が受ける町である。
正門では、数多くの町に入る者達が列を成して並んでいた。
「ここで入門審査があります。暫くすれば入れるようになります」
アルヒロが言うようにゆっくりとではあるが、馬車は進んでいく。
そして体感的に三十分程経つと自分達の番となった。
「〓▼\●◎」
アルヒロが門兵にこちらの分からない言葉で何かを言う。門兵は頷き。先ず檻に入れられている男を確認。
然る後馬車に載せてある盗賊達の戦利品の一部を確認。
そして自分の所にやって来て。
「☆〒●〓」
「??」
何か言っているが、何を言っているのかさっぱり分からない。
戸惑っているとアルヒロが門兵に何かを言うと。
「イデアレコードの確認する。手を出しなさい」
イデアレコード? ああ、あの村長がやっていたものか!
納得できるとパッと手を差し出す。
そしてそこで気がつく。自分はこの世界の人間ではない。イデアレコードと言うものがあるのだろうか? と、しかしそれは杞憂であった。
門兵が言葉を紡ぎ。その後には前に見たイデアレコードと言う、薄く輝くカードの様なものが自分の手から現れる。
名前。種族。性別。年齢。職業。鑑定で見るのと殆ど変わらない内容だな。
ただ職業の欄にあるレベルの項目がこっちは消えているな。
多少の疑問を感じている間に門兵はイデアレコードを軽く見ると「名字持ち? 自由民か。人間族? それにしては、まあいい。問題ない」と、気になる部分が多々あったようだが、門を通って良いと言われた。
種族欄の人間族と言うのは人間族って言うのか。ひとつ勉強になった。それとーーー
「門兵は何を確認していたんだ?」
「犯罪者かどうかですね。この辺の犯罪者だと盗賊。山賊。草賊などがいますね。希に兇賊何て言うおっかないのもいるらしいですよ。そんな者にはお目にかかりたくはないですけどね。あははは」
そうした奴らを町の中へ入れないように確認しているのだと言うが。そうした奴らはそうした奴らで、抜け道を使い町へ入っていると言う噂だ。
なるほど。『蛇の道は蛇』、と言うやつだな。
そんなことを思いながら、馬車に揺られながら
センチュリアの門を潜っていく。
「ねえ管理人さん。彼が取得した『救世主』ってすごいの?」
「そうね。あの職業は普通では絶対に得られないわ。何しろあの職業の条件は、『覆せない運命から救い出せる』こと。と言う条件があるから」
「覆せない? ってことは彼が村の人たちを救わなかったら」
「全滅ね。例え生き残れる人達がいたとしても、村としての機能は果たせなくなるでしょうね。それに死に向かっていた者を救い。描写はそうなかったけど村の人達から感謝されていたことも『救世主』の職業を得られた理由のひとつになるわ」
「条件が厳しいからこそ、その能力が破格なんだね。そうだ。『救世主』にあった『オラクル』ってなに?」
「『オラクル』はその人によって効果が違うけど。ひとつ同じなのは、『私と話ができる』ってことよ」
「え? 管理人さんと話せるだけ? なんだかいきなりしょぼく感じるなぁ……」
「ちょっと私と話せるってすごいことなのよ! 世界を管理している管理人よ! 私がその気になれば世界中の色々な情報を瞬時に知ることだってできるだから!」
「なんだか聞いていてもすごいって感じがしないや。あ、次回の更新は11月4日だって。と言うわけで、みんなまたね~♪」
「ちょっと! 私の話を聞きなさい! これから次回更新まで、私のすごさを教えてあげるから!」