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No.6




 No.6




 商人アルヒロとの交渉はすんなりといき。出発は明朝となった。

 と言うか、自分は何ひとつ交渉らしいことはしなかった。村長のディダルダがアルヒロと話。それを二つ返事でアルヒロが頷いただけである。

 ただその交渉が終わったあと。村人の一人が慌ててこちらにやって来て何かを話し。村長に持っていたものを手渡した。

 それは袋であり。村長がその袋の中身を確認をすると、苦虫を噛んだような顔した。


 「申し訳ありません。村の者の中に不届き者が出ました。その者はイデアレコードを盗もうとしておりました」


 イデアレコード? なんだそれ?


 自分が疑問の表情を浮かべているとディダルダが袋の中身を取り出す。そこには数枚のカードの様なものが握られていた。

 カードはスマートフォン程の大きさ。文字やら絵柄が描かれていて一部分には人の顔写真のようなものまである。


 免許証のようなものか? しかしこれ盗まれたと言っても俺の物ではーーー


 そこで気がつく。顔写真のような部分に写っていた人物の人相が、先程の盗賊達の一人であると言うことを。

 その人物を覚えていたのは水源調査から帰ってきた時に一番始めに見た男の顔であったため覚えていたのであった。


 「……先程の戦利品の中には、既に在りませんでしたね」

 「申し訳ございません」

 「構いません。戦利品中から選んだのはこの袋のみ。それ以外はこの村の財産です」

 「……しかしそれでは……」


 これを盗んだと言うのはおおよそ見当がつく。

 この手の物はファンタジー小説にもよくあるモノだ。

 多分だが、これを何処かに持っていけば賞金が懸かっている盗賊ならば、金が貰えると言ったところなのだろう。

 それこそ先程の戦利品等とは比べ物にならない程の金銭が。それを知ったか、知っていたか。その誰かが持ち逃げしようとした。


 ……その辺は考えても仕方がないか。


 すでに自分の分の報酬は貰った。あとはこの村の(ルール)に従いその人を裁いて貰うしかないとディダルダに告げる。


 「…………お心のままに従わせて頂きます」


 そう告げると何処か苦渋の決断の様に取れる表情をするディダルダ。

 そしてその場にいた村人に声を掛けると、その者は何処かに急いで行き。暫くすると手枷をされた男が連れられて来た。


 「●〒Χ◇◇!!」


 ディダルダが騒ぐ男性の腕を取る。


 「……『特技(スキル)・其は霊核に刻まれし言の葉の音色。其の刻まれし旋律の調べ今ここに奏でよ・《イデアレコード》』」


 そして何やら呪文めいた言葉を紡ぐ。

 すると男性の腕から先程見た薄汚れたようなカードとは違った。うっすらと輝くカードが現れた。


 ファンタジーだな……手の甲からカードが出てきたぞ。どう言う原理なんだ?


 驚きはあるものの、それを口に出したりはせず。ただ黙って事のなり行きを見守った。

 ディダルダはカードの一部分に何かを書き込むような仕草をしている。

 それが終わるとカードは男の中に戻っていく。

 男はがっくりと項垂れ。他の男達によって連れてれていく。


 「……奴隷としたのか?」

 「……はい。この村の掟では、盗みを働いた者は奴隷落ちとしております」

 「……そうか」


 ……やはりあるのか、奴隷が。自由民がある以上はあるかもしれないとは思っていたが……。


 自分が予想していたことが的中した。だからと言ってその事に喜びはない。

 あの男は翌日自分と一緒にセンチュリアの町へ行き。奴隷として売られていくことが決まった。

 奴隷として売られた後、その売値の半分が被害にあった自分に支払われ。残り半分が奴隷となった者の家族に支払われる事と言われた。

 被害も何もとも思ったが、賽を投げたのは自分なので、ここは黙って頷いておくことにした。

 今後あの男は奴隷として生き。買い手が解放するか。自らを買い取り。奴隷から解放するしかないと言うことだ。


 犯罪者奴隷とそれでない奴隷もあるようだが。自分がそうしろと言った以上は、取り消しも出来ないだろう。


 連れられていく男の家族であろう。男を悲しみの表情を浮かべ。連れられていく男を黙って見送っていた。

 そんな姿を見ていると、気分が落ち込むトウマであった。


 「もう日も暮れます。今夜は私の家で夜をお過ごしください。ささやかですが、この村を救ってくださった、もてなしをさせていただきたく思います」

 「……感謝します」


 その後はディダルダの家に戻り。この世界ではそうではないのだろうが、自分としては本当にささやかな食事を済ませ。気絶していた時に寝かされていた部屋で一泊することとなった。


 「…………色々ありすぎて整理がつかないな」


 今日一日で起きたことがまさに夢物語のような出来事過ぎて、自分の理解の許容量をオーバーしていた。

 ベットに横になっても色々有りすぎたせいなのか。興奮気味でなかなか寝付けないでいたトウマは、戦利品のひとつに在った晶石を取り出し。手で弄ぶようにして、それを眺める。


 「これの確認もしてなかったな」


 眠気が来るまで確認するかと。エクスチェンジを使ってみる。


 ーーー《指定された『晶石』の力を開放し。『GP』への変換を行いますか? Y/N?》ーーー


 仮想ウィンドに書かれた文字を見てガバッと起き上がるトウマ。


 「これが『GP』の貯め方の鍵か。どれくらい変換率なんだ。早速、ああいや待て。先ずどれくらい『GP』が残っていたか確認してからだ」


 オプションから自分のステータスを呼び出し。『GP』残りがいくらだったかを確認する。

 呼び出したステータス画面には職業欄の村人のレベルが『2』となっていることに気がついた。


 「盗賊倒してレベルアップかよ……」


 ますますこの世界がゲームのような感覚となり。何となくやるせない気分となってきた。

 そんなお手軽な感覚で強くなれるのかと皮肉を込めて、触れられない仮想ウィンドを指で叩く。

 すると意識していた訳ではないのだが、職業欄のファイルが現れた。

 そこには村人と無職しかなかった筈なのに新たな職業が二つも増えていた。


 「気功術士……それと、救世主……皮肉かよ」


 気功術士は自分が『気』を使っていたことから現れた職業だろうと推測できる。

 しかしこの救世主は自分には当てはまらないだろうと言いたかった。

 たまたま力を持てた自分が、たまたま窮地に陥った村を救えただけだ、と。


 「そう言うのはもっと主人公に相応しい人間だろうに、俺のような……はぁ、大分精神が病んできてるな」


 普段の自分ならもしかしたら何も考えずに喜んでいたかも知れない。そう考えると、人を間接的にでも殺したことで、自分の精神がおかしくなり始めているのかと、自己分析をするトウマ。


 「職業の方は変えておこう。気功術士にしておけば言い訳も立つだろうしな。取り合えず『GP』の方は……『24』か。レベルアップによる変化は無しと」


 記憶の通りの数値であった。

 そして確認後、晶石をエクスチェンジで交換を試してみる。


 「変換後は二度と戻せないか……想定内だ」


 出てきた文字に予想通りと『Yes』の方を決定する。

 すると晶石の形が崩れると、光の粒子と変わり。トウマの体の中に溶け込んでいった。

 そして『GP』の部分のポイントが一気に『1000』まで上がる。


 「初期設定のポイントまで上がったか。これが多いのか少ないのか、今後を見てかな」


 次にこの今得たポイントをどうするかを考えた。


 「鑑定が使えなかったからな。他のを選ぶのが怖いんだよな……」


 ファンタジー世界では持っていて損はないだろうと思える能力系統。その最初に得た鑑定が思いの外使えない上に、一度取得したら外せないと来ていて躊躇するトウマ。

 なら他の能力はどうだろうと考えてる。


 「体力10%倍増。この系統か。これらはレベルアップ時に効果有るやつかな? 最強を目指すとかなら良いんだろうけど、目立って狙われるのもな。これは無しだな。

 買い取り価格効果10%増加。値引き効果10%減少。これらは今後必要になるかな。候補に入れておこう。

 経験値取得率10%増加。必要経験値10%減少。これは保留だな。

 レアアイテムドロップ率10%増加。これもだな。

 魔物遭遇率10%増加。いらない。

 魔物遭遇率10%減少。こっちはどうだろう?

 晶石力蓄積率10%増加。これを取っておくと『GP』の加算が増えるのかな?

 パーティー効果。仲間いないのに取るのもな。

 セカンドジョブ。ジョブ効果が重複するのかな? なら取得なんだけど。

 スキル枠+1。今は取り合えず要らないな。

 特典武具。武器類か……やっぱり今後は必要になるよな」


 そうした事をして要ると、トウマの心が落ち着きを取り戻していた。


 「よし。決めた。買い取り価格効果10%増加。値引き効果10%減少。セカンドジョブ。特典武器。晶石力蓄積率10%増加の五つだな」


 先ず始めにセカンドジョブで『100』減る。次にサードジョブが現れだが今は放っておく。

 次に買い取り価格効果10%増加で『100』減らす。その後20%増加と出てきた。

 取得には必要数は『100』であったので、もう『100』追加して買い取り価格効果20%増加にする。

 同じように値引き効果10%減少を20%にする。

 これで残り『524』。

 次は晶石力蓄積率10%増加を取得しておく。こちらは10%にはまだしない。晶石がどこで得られるか分からないからだ。ならいま取らなくても良いと思うが、備えあればと言うことで取っておく。

 次は特典武器を選ぶのだが、『武器』『防具』『装飾』の三点からなっていた。

 どこまでむしり取りたいんだこの運営会社は、と言いたくなった。


 「全部に満遍なくでも良いけど。良いものはきっと来ないだろうな。こう言う場合は……」


 『武器』『防具』『装飾』のどれにするか迷い。どうせ何処かで買い揃えなければならないのなら、持っておかなきゃ変に勘ぐられるであろう『武器』を選ぶことにした。


 「あとはこれに今在るだけをつぎ込むか。それとも『100』だけにしておくか……」


 迷いに迷った挙げ句。『武器』に『400』つぎ込むことにした。


 「またちょい余ったな。才能系が取れないんじゃ仕方ないけどな。で、武器はどこだ?」


 部屋を見て回す。

 するとテーブルの上にはいつの間にか三十センチ弱程の長さがある。片方が五爪の鉤爪状になっている一本の棒が置かれていた。

 それを見て「この孫の手みたいなのがそうか?」と、手に取る。

 それは木のように軽く。金属のように冷く。そして硬い手触りをしていた。


 「……これが武器?」


 まさかこれで殴れと? トウマはそう言いたくなった。

 しかしこれ以外には何もなく。これに何かしらが在るかもしれないと、鑑定で調べてみる事にした。




 【ダディーチャの聖仙骨】:攻撃力+0

 スキル:気力吸収率(中) 属性変換率(中) ーー ーー ーー ーー ーー



 「これ骨なのかよッ!? そして攻撃力『0』って当たっても傷ひとつ付かないってことか? いや骨なら当たり前なのか!?」


 なんだこれは!? 武器として大丈夫なのか!? と思った。


 「もう訳が分からん……それで、属性変換率って言うのはなんだ? 『気』を込めればなにか変わるのか?」


 試しに軽く『気』を込めてみる。

 そうすると不思議なことに、ダディーチャの聖仙骨から輝く『気』で形作られた刃が出現した。

 そしてもうひとつ。攻撃力が『0』であったダディーチャの聖仙骨の攻撃力が『10』にまで上昇していた。


 「もしかして込める量によって違うのか?」


 トウマは少しだけ『気』の量をあげる。するとやはりダディーチャの聖仙骨の攻撃力も上がっていった。


 「すごい……! まさに『気』の使い手に相応しい武器……なのかなぁ?」


 見た目がライ○セイバーのように見えるので、自分は剣と魔法の世界にいる筈なのに宇宙戦争に行くのでは? 思ってしまうところであった。


 「やろうと思えば『気』で応用出来るな。でも無いよりマシか。あとは村人から気功術士に変えてーーー」


 そこで部屋の扉がノックされる。トウマは一旦ダディーチャの聖仙骨をテーブルの上に置き。


 「どなたですか?」

 「おやすみ中失礼いたします。ディダルダです」


 部屋を訪ねてきたのは村長のディダルダであった。

 トウマは許可をして部屋へ招き入れる。

 招き入れるとディダルダの他にこの部屋で目覚めた時に見た女性も一緒に着いてきていた。ただ女性は初めて見た時より幾分身綺麗な格好をして現れて。

 トウマはその様子に少し訝しむ。何かがおかしいと。

 しかしそんな疑問を解消する前にディダルダが話してきた。


 「此度は村を救って頂いた上に村の者の不始末。大変申し訳なくーーー」

 「礼はすでに貰い。その者には罰も与えた。最早過ぎたことです」

 「……そうでございますね。ならばお約束通り、ささやかなもてなしをしたく参りました」

 「もてなし? 先程の料理がーーーッ!?」


 そこまで言ってトウマは気がつく。ディダルダが言う"もてなし"とはこの女性のことだと。


 「いや、まて! 私はーーー!」

 「今宵はどうぞご存分に()使()()()()()()。これは私の奴隷。お気になさらずに」


 それだけ告げるとディダルダは部屋を出ていってしまった。

 虚しく伸ばされた手。その手を掴んだのは身綺麗にしてやって来た女性であった。


 「ちょ、まて!? あなたはそれで良いのか!?」

 「?」


 トウマの言葉に女性は首を傾げる。何か自分は粗相をしているのかと言うように。


 「くそっ! 言葉が通じないのかよ! 今からあの村長にこんなもてなしは要らないとーーー」


 女性の不安そうな表情が目に入る。

 それはトウマに拒まれれば、自分はあのディダルダに叱責を受けると言うように。

 そう読み取れてしまったトウマの心はぐらつく。

 ここで彼女を受け入れれば人として何か間違っているようにも思える。

 だがここで拒めば村の恩人にもてなしすら出来なかった女として、どう今後扱われるかを考えると、言葉が出てこなくなった。


 「Χ※$……」


 女性は手を引きトウマをベットに連れていく。

 トウマの思考は最早どう行動をして良いのかがわからなかった。

 このまま流れに身を任せれば良いのか。

 それとも拒めば良いのか。


 「☆@♡! ☆@@@♡♡!!」


 自分の上で艶やかな声をあげる女性と自分の内から幾度となく放たれる快楽に。その夜のトウマは翻弄され続けた。














「なんかどこかで見たような展開が行われてるね」

「しぃいいいい!! ダメよ!! そう言うこと言っちゃ! これは仕方がなかったの! ゲームのような世界観を持つと言うことは、それを知る術が住人達にもあると言うことなんだから。これは仕方がないことなの! 必要な過程だったのよ!」

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