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No.5




 No.5




 「……うっ、……こ、ここは……?」


 気が付くとトウマは、見知らぬ部屋で目が覚めた。

 そこは木造作りの質素な家。

 固いベットに寝かされ。薄汚れたシーツが掛けられていた。

 気だるさが全身を襲うような感覚に見舞われながらも体を起こす。

 その瞬間、先程とは違い。今は気の弛みがあるからか、自分が目覚める前にしたことが、フラッシュバックし。脳裏を駆け巡った。


 「ーーーうぷッ!?」


 血の臭い。『気』でとは言え、人を殺した感触。

 絶望()渇望()の表情をした人間(者達)の顔が次々と思い出されていく。

 その誰もがトウマに向けられたもの。その思い(表情)に耐えきれず。吐き気が込み上げてきた。


 「うげぇぇ……!」


 倒れ込むようにして床へと吐き出した。

 胃がひっくり返って要るのではないかと言うほどの嘔吐感。

 そしていつの間にか誰かが、トウマの背中を優しく擦る感触が。それが誰かと確認する余裕はなかった。

 散々吐き出し。胃の中が空っぽになっても嘔吐感がなくならなかった。

 どれくらい続いていたかも分からないほど時間、トウマは苦しんでいた。

 ようやく収まり。目や鼻や口から色々なものが垂れ流した状態になった顔を上げる。

 そこにはトウマと三十路(同じくらい)の女性が背中を撫で続けていた。


 「……あ、あなたは……?」

 「? ¶●〒≫Χ?」


 トウマの言葉に何かしらの返事を返す女性。しかしどちらもその言葉の意味を理解できなかった。

 女性は部屋の外に居る誰かに声を掛けるようにしる。暫くすると扉が開き。そこにはこの村に来た時に一番始めに会った初老の男性が入ってきた。

 女性と何かを会話すると、すぐに部屋を出ていき。再び部屋に入って来た時には桶や手拭いを持ってきていた。

 初老の男性は女性に持ってきたものを手渡すと、女性はトウマの汚物を片付け始める。


 「お加減がまだ戻られぬようですな。まだ横になったいた方が良いでしょう」

 「あなたは確かに……」

 「名乗りが遅れていました。私はこのエスルダ村の村長を勤めさせていただいています。ディダルダと、申します」


 ディダルダと名乗った初老男性は始めに会ったときとは打って変わって、紳士然とした態度でトウマに接した。

 困惑するトウマ。

 しかしそれは礼を尽くさねばならない相手であるからこその態度であった。


 「此度は村を救っていただき感謝いたします」


 トウマの前に行くと深く頭を下げ。ディダルダは礼の言葉を述べた。


 「……たまたまです。それに救えなかった人もいました」

 「あなた様がいらっしゃらなければ、私どもの村は皆、あの盗賊達に殺されていたでしょう」


 助かった者達だけでもいる。それだけで自分達は幸運であるとディダルダは言う。

 その言葉にトウマはそれ以上の言葉は言えなかった。それ以上の言葉を言えば、自分の言葉は傲慢の言葉になってしまうだろうと。

 自分は力を得た。

 だがこの力は『管理人』から与えられた、仮初めの力だと言うことを自覚していかなければならないと思えたからだ。


 「……あれからどれくらい時間が経ちましたか?」

 「小一時間、と言ったところです。あなた様が村の者為に治療し終えた後。その治療を終えるのを待っていたかのように意識を失って倒られました。外に野ざらしでは、恩人に対しあまりにも無礼な扱いと思い。私の家の一室にお連れしました」


 自分が何故ここに居るかと理由を漠然とながらも理解した。

 そして今の村の状況はどうなっているかを訪ねる。


 「事後処理をしております。盗賊達が持っていた物は、お体が良くなられたらで結構ですので、ご見分していただきたいのですが……」

 「え? 何故です?」

 「盗賊達の持ち物は討伐されたあなた様の物。私達がどうにかして良いものではない筈ですが?」


 何を不思議なことを、と言うように聞いてくる。

 トウマはここが異世界だと言うことを考えさせられ。自分の常識とは違うと言うことを改めて思い知らされた。


 「……すみません。長いこと私は人里離れた山の中で師と鍛練をしていましたので、世辞には疎く……」


 トウマは転移ものの物語などで良くある言い訳をして予防線を張り。自分が無知であるとしておく。


 「そうでした。それでその若さであの強さを……さぞ御高名な方に指示されていたのでしょう」


 何か良く分からないがディダルダは自分の言い分に納得してくれた。


 若さ? 俺はこれでも三十路前で、そこの女性と何ら変わりないと思うが?


 ディダルダの言葉に疑問が生じたが、それは口にせず。トウマは横になっていたいと言う気持ちもあったが、何もせずにいると先程の思いがぶり返してきそうな気がしたので、戦利品の確認をさせて欲しいとディダルダに願う。


 「……わかりました。ご案内いたしましょう」

 「はいお願いします。あれ!? 俺の服は!? ってかなんだこの体は!?」

 「ああ勝手とは思いましたが、服には血が凄かったので洗濯をしております。体にどこか異常でもありますか? 一応確認はしましたが、もしあれば異常があれば治療をしますが?」


 立ち上がり付いて行こうとした時、自分自身がTシャツにトランクス一枚だと言うことに気がついた。

 そして自分自身の体の変化にもこの時初めて気がついたのであった。

 何が起きたんだと良く観察して見ると。自分の体が物凄くシャープな体つきになっていた。

 以前の体がガチムチな体に対して、今の体は細マッチョと言うように。

 しかしディダルダは会った時から変わっていないと言うのである。

 そんな馬鹿な!? と思うトウマ。

 二メートルあったトウマの背丈は、今は一九〇センチ在るか無いかの背丈である。体が細身にはなっているが、兎に角デカイ体の人間。としてだけ覚えていたディダルダは、トウマの肉体的な変化に気付いていなかっただけである。

 トウマ方もなぜこんな変化をと考えるも、それは分からなかった。

 まさか自分の取得したスキルと『気』の力が合わさり、起こした現象などとは露程も考え付かなかった。

 そして軽く息を吐き。ファンタジー世界なんだからなんでもありと。現実逃避的な考え方で自分を納得させた。

 しかしトウマはまだ自分自身が若返っていると言うことにもこの時は気がついていない。

 自分自身が若返っていることを知るのは、まだ先のことになる。


 「……いえ、なんでもないです。着る服とか貸していただけますか?」


 洗濯している以上は、着ることはまだ無理だろう。何か着るものを貸して貰わないと、かなり痩せ細った今の自分の体では、歩くだけでパンツがずり落ちてしまう。


 「おお! これは失礼を。すぐお持ちします。〓▼\●‡━」


 ディダルダは汚物処理をしていた女性に声を掛けると、その女性は頷き。すぐに部屋を出ていく。そうして暫くすると一組の衣服を持ってきた。


 「お召していたものとは比べ物になりませんが、どうぞ。お着下さい」


 手渡されたのは麻の服であろうか。ごわついた衣服であった。

 トウマはそれを文句を言わずに袖を通す。

 袖を通す時、少し小さいかな? と思えたものだが、ピッタリのサイズの服であった。

 いくらスマート肉体になったとは言え、それなりの体格をしているトウマ。

 トウマと同様の背丈の持ち主がこの村に居たのかと思ったが、そんな人物が居たかどうかも分からなかったので、居たんだろうと言うことで、今は出来るだけポジティブに考えておくことにした。


 「お待たせしました」

 「それではご案内いたします」


 ディダルダに連れられ外へと行く。日は傾き。空が少しずつ茜色に染まりつつあった。

 あの様な惨事があった村では、沈んだ空気に包まれているのだろうと、覚悟して外に出たのだが。村の人達はすでに日常生活を送っていた。

 そんな風景にトウマは驚く。

 いくらなんでも盗賊に村を襲撃され。死人まで出ている。悲しみの空気があっても良さそうなものに、村全体からその様な空気は流れてこず。一部の人からのみ。そんな空気が醸し出されているだけだった。


 「町から離れているため、こうしたことが起こることは皆覚悟しております。悲しみに引きずられて生きることを放棄するより。歯を食い縛ってでも歩くことが、私どもに出来る唯一の弔いなのです」


 トウマの心情を理解したのだろう。ディダルダはそうトウマに語る。

 トウマはその言葉に"強い"と思うのと同時に、そんな生き方しか出来ない彼らの暮らしに悲しみを覚えた。


 「こちらに盗賊達の物を一纏めにしておきました。どうぞご見分ください」


 地面に蓙の様なものが敷かれていた。

 その上に剣やら鎧。その他衣服から小物まで十数点並べられていた。


 たぶん俺が要らないと言えばすべてこの村の財産となるだろうな……。


 パッと見て自分には不必要だと言えばそれで事は済むだろう。

 しかし何一つ受け取らないと言うのも、相手は怪訝する可能性があるとトウマは考える。

 価値がありそうなものをひとつ。それで済ませようと鑑定辺りで分からないものかと、取り敢えず調べてみた。




 【普通の湾曲剣】:攻撃力+15 

 スキル:なし


 【壊れかけの直剣】:攻撃力+3 

 スキル:なし


 【切っ先が折れた剣】:攻撃力+1

 スキル:なし


 【穴の空いた革鎧】:防御力+5 

 スキル:なし


 【異臭を放つ革鎧】:防御力+7

 スキル:なし


 【汚れた指輪】:防御力+1 

 スキル:なし




 ファンタジーのゲームだな。それもロールプレイングタイプの。


 鑑定の情報から得られるものを見ていると、この世界がより一層そうした世界だと強く思えた。

 価値在りそうなものが何ひとつ無さそうなので、もう適当に決めようかと思っていたところで、ひとつの巾着袋が目に入る。

 巾着袋事態はなんの変哲もない袋であった。

 ただその中身にこの世界の通貨であろう。数枚の銅と1枚の銀のコインが入っていて。

 その下の方にピンポン玉ぐらいの大きさの青い石の様なものが入っていた。

 トウマはこれはなんだ? と、鑑定を使い調べる。



 【青の晶石】



 そう出てきたのだ。


 「……これが晶石か」


 エクスチェンジを使い。これで何が交換できるのか試してみる価値はあるなと、ディダルダにこの巾着袋の中身だけを貰うと言う。


 「他はよろしいのですか!?」

 「私はこれだけあれば十分です。残りの物は遺族やこの村の補填に使ってください」

 「……寛大なお心に感謝いたします」


 自分が出来ることはきっとここまでだろうと。

 そしてこの村に留まるつもりが無いのであれば、早々に出ていった方が互いのためになると考えた。


 出来ればこの世界の色々な常識を会話が可能な人から聞きたいが、それをすればきっとぼろが出てくる。そうなればいくら盗賊を退治した相手であっても不振が募り。軋轢も出てくるだろう。下手をすれば不振から殺害の切っ掛けを作るかもしれない。


 文化レベルは分からないが、どう考えても中世レベルの文化である。魔女裁判等と言った物はないであろうが、もしもと考える。


 人の行き来が少ない村では、余所者に対して警戒心が高かったと聞く。村長が村に対して害悪だと判断すれば村の人全員がその障害を排除しようと行動する。何て話が確かあった気がする。

 そうなると俺が1番に得なきゃいけないものは『この世界で信頼、信用の置ける人物』、だな。


 いまだに色々な感情が渦巻いている中で、トウマは必死にこの世界での生き方を考えていた。


 「では他のものはこちらで処理をさせていただきます」

 「処理はどのように?」

 「使えそうなものはこの村の共有財産として扱いますが、そうでないものは大きな町に出向き。売って金銭に変えるつもりですが?」

 「その町は遠いですか?」

 「そうですね……ここから馬車で半日ほどの距離にセンチュリアと言う名前の町が在ります」


 半日か……『気』を使って走れば二、三時間で着く距離かな?


 「もしそちらに行かれるのでしたら、アルヒロにお連れするように言いますが?」

 「アルヒロ? どこかで聞いたような?」

 「この村にいる唯一の商人です。村の資材の買い付けなど頼む場合がありますので、どうぞご遠慮なさらずに」


 ああ、あの人かと思い。ならば道を知っている人に案内して貰う方が良いかと、ディダルダの案を受ける。


 「いつ頃出立されますか?」

 「そちらの都合で構いませんが、出来れば早めに」

 「わかりました。話をつけてきます」

 「ああ、私も行きます。私の都合ですから」


 自分からも赴くことで礼を尽くすと言うこともあるが、恩人の言葉と言うことでプレッシャーを与え。出発の日時を早めることが狙いでもあった。















「何でこの村長さんは気がつかないのかな? 明らかに姿が変わってるのに?」

「しっ! ダメよ。そう言うツッコミは。いい。こう明らかに不自然なことが起きていても。その人達が何も感じていなければ、それはないのと一緒なんだから」

「あ! 僕それ知ってるよ! 『空気を読め』ってやつだよね!」

「あっているような。無いような答えね……」

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