表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

No.12




 No.12




 気力探知を使い。宿屋から他の客があらかた出ていったのを確認すると、トウマは幽鬼のようにベットから立ち上がり。今日の目的でもある古市に出掛ける準備を始めた。


 「私は引き籠ってい(貝になり)たい……」


 有名作品を冒涜するような言葉を吐き。のろのろと支度を済ませ。受付のリオールに買い物に出掛けると告げ。部屋の鍵を渡す。


 「ああ、気を付けていってこいよ。その、なんだ。大丈夫か?」


 明らかな顔色が優れないトウマを心配しての言葉を掛けるも、トウマ自身は「大丈夫……大丈夫……あははは」と、何処か虚ろな表情で応え宿屋を出る。


 「ん? やっと出てきたか」


 宿屋の入り口にはマルセが待ち構えているようにトウマを待っていた。

 宿屋の中は確認していたトウマ。まさか外に誰か待っているとは思わず。回れ右をして、宿屋に引き返そうかと考えた。


 「その様子ではあまり僕の話を聞きたくないと言った感じだが、幾つかだけ言わせてくれ」

 「お、おう。なんだ?」


 トウマの態度から先に制したマルセ。

 トウマが聞く態勢になると姿勢を正しい。トウマに向かい頭を下げた。

 その様子にトウマは慌てる。


 「お、おい!?」

 「先ずは謝罪だ。食堂(あの時)僕は君の言う通りに知っていながらも奴隷の子()を助けようとは考えなかった。これは君の言うところの"悪"となるだろう」

 「いや、それな……」


 あれは頭に来て勢いで言ったことだし。と言いたかったが、マルセはそのまま続けた。


 「僕らはいつの間にか奴隷とは家畜にも劣る存在に落ちた者達と認識していた。だがそうではない。彼らも人であり。何かしらの事情があって、奴隷と為る他になかった者達だ。

 それを僕は犯罪奴隷者と混同して考えていた。きっとこの考えは僕だけではない。あの場にいた者達全員が君の言葉を聞き、考えさせられる問題となった」


 トウマは頭を抱えたくなった。

 自分言った一言が飛んでもない方向に発展しようとしている。多分それは良いことなんだろうが、その切っ掛けを作ったのが自分だと言うのが、もう喉を掻きむしりたく為るほどに、何とも言えない気持ちとなった。


 「あの場にいた者達は今後は奴隷の接し方が変わっていくだろう。それは君のお陰だ。何故なら僕らは知らずに犯罪者となっていたかもしれないからだ。だからありがとう。僕らを救ってくれて。あの場にいた者達を代表してこの礼を受け取って欲しい。ーーーどうした? そんなところで座り込んで?」


 トウマさんのHPはとっくの昔にゼロよ! と言うように、その場で体育座りをして沈んでいた。


 「……そんな大袈裟に為るように言ったわけじゃないんだよ」


 トウマはルールールーと、涙を流しそうな勢いで先程の自分の行為が脳内で再生されていた。


 『知らないで済ますことは罪となる。たが、知っていながら、見ていながら無視することは悪だ! お前達が今した行為が何であるかを今一度考えろ!』


 あああああああああああああああああああああああッ!!!!


 漸く収まった羞恥と悶えと何とも言えない思いがぶり返してきて、トウマはその場でゴロゴロと転がり始めた。


 「おい!? どうしたんだ!?」

 「いっそ殺してくれ! あんな! あんな言葉を恥ずかしげもなく言った俺を殺してくれ!」

 「何を言ってるんだ!? とても心に響く言葉だったぞ!?」

 「いっやああああああああッ!!」


 マルセが誉める度に耳を塞ぎ。ゴロゴロと転げ回るトウマ。

 結局その行為は二十分ほど続くこととなり。宿屋の前の道を通る人達が奇異な目をしてトウマ達を見ていくのであった。




 「まったく……君は気概があるのか。小心なのかわからないな」


 呆れ果てたと言うように肩を竦められる。

 あれから何とか立ち直ったトウマは、何故かマルセと一緒に古市へと向かっていた。


 「……なんでついてくんの?」

 「それは君が宿屋から出てくるのが遅かったらね。今日の冒険者としての活動はお休みだよ」


 察しは良さそうなのに、暇してるから一緒に要ると言うのである。

 マルセと一緒に要るとまた黒歴史が思い出されそうな気分になるが、しかしこの町に不馴れなトウマとしては道案内が要れば心強いと思い。マルセの同行を許可した。


 「古市での買い物か」

 「町に来たら日用品が不足しててな。買い足しだな」

 「ならもう少し早く出ても良さそうな気がするが」

 「……そこは突っ込むな」


 先程のように部屋で悶え苦しんでいた等とは言えない。

 そんな話をしながら二人は古市へ到着すると、色々なものを売っている露店が、道の両端に連なって並んでいた。


 「物だけじゃなくて食べ物まで売ってるのか!?」

 「ここは許可さえ貰えば、誰でも何を売りにしても構わないそうだ。それでどうする?」

 「どうする? なにを?」

 「君が探している品物の店を色々回ってから一番良さそうな店で買うか。それとも見つけた先の店屋で買うかだ」

 「そうだなぁ……ここから見て行って良さそうなのがあれば買っていくかな」


 祭りのような雰囲気に心をウキウキとさせているトウマ。端から端まで見に行こうと言うのであった。


 「君がそれで良いならそうしよう」


 そうしてマルセと二人品物を見ていく。

 そして露店の品物で用途不明な品物があると、あれはなんだ? これはなんだ? とマルセに質問していたのである。


 「君は物を知らなすぎるな。一体どんな生活をして居たんだ?」

 「……山奥で暮らしていたんだよ」

 「それでもこれぐらいは知っていても良さそうだが?」


 そう言って手に取って見せたのは片方が尖っていて、反対側が房の様に為っている三十センチ程の長さの有る一本の串。

 歯ブラシを探していた時にマルセがこれを持ってきたのだ。

 はじめはこれなに? と聞いたところ大変驚かれた。

 実はこれは歯ブラシなのだ。

 房の付いている方で歯を磨き。先の尖っている方で歯の隙間の汚れを取ると言うものだった。

 俺が見慣れている歯ブラシとは違っていたので分からなかったと説明するが、じゃあどんなのだと説明したら。


 「これとどう違う?」


 いやまあ確かに。似てはいる。ただ形状が違うからだと言うと。


 「じゃあこれはどうだ?」


 それ何に使うの? と言うのを次々と出してくる。

 ただ聞くと、ああ納得。と言うものばかりではあったが。俺が分からない度に。


 「君は常識がないな」


 と、呆れた顔をするのである。

 すんませんね。もの知らなくて。この世界(こっち)の世界の常識何て知るかあ! と吠えたかったが、ぐっと我慢してマルセに使い方を聞いていた。

 そしてこの買い物をしていて分かったことが在る。

 それは商人の職業持ちの人間以外からの買い物をする場合は値引き効果が効かないと言うことだった。

 買い物中複数の品物を買ったにも関わらず値引き効果20%減少が効かないのであれ? と思ったのだ。

 始めの内は品数が足りないのかと思ったが、増やしたところでその効果は現れなかった。オフ状態にしていたかと確認もしたが、オンの状態だったのでおかしいなと思いながら次の店で買い物した時には値引きがされていた。

 何でだと思い。店員を調べていたら商人の職業持ちの人間だけに効果が現れていたことを理解したのだ。


 「システム的なものに介入しているってことか?」


 でなければ全ての人間に効果があって良い筈だと。

 そう考えていると。


 「どうかしたか?」

 「ん? ああ商人の人は計算が早いなぁと思って」

 「君も大分早いと思うが……確か商人のスキルの中には暗算と言うのがあったはずた」

 「暗算……なるほど。それにか」


 他の人達はその暗算がない。自分の頭できちんと計算して要るから値引き効果の無い値段が出てくるのだろう。

 今後は鑑定で商人かどうか調べてから買い物をすることにしよう。


 そうして今度は商人職業持ちの人達をターゲットに買い物をし始めた。


 悪いな。お金はあっても節約はしたいのだ。


 彼らにも生活があるだろうが、こちらの生活基盤が立つまではその犠牲になって貰うと心を鬼にして店屋を回っていく。


 「急に店を選ぶようになったな。それに君が買い物をすると安くなっている」


 一緒に要るマルセに疑問を持たれ始めた。

 どうするか。誤魔化すか。値引き効果を無しにするかと悩んでいると。


 「お兄ちゃん美人なお姉ちゃん連れてるね。羨ましい限りだ。お姉ちゃんに贈り物かい? ならオマケしてやるよ」


 グッジョブ! 店員さん。


 抜群のタイミングで店員さんそんなフォローをしてくれた。


 「なっ!? 僕はーーー」

 「まあまあまあ。良いじゃないか。安く買えるんだから。協力してくれよ」


 マルセに押さえてと言いつつ、性別が決まってないからどちらでも取られるんだろうなと、半笑いで要ると。


 「君まで僕を笑うか!」


 怒気を孕んだ声で睨んできた。


 「悪い。別に可笑しくて笑ってるわけじゃない。顔が綺麗だからその分得をしてるんだろうなぁとか、まあそんな風に思ってた」

 「顔の美醜が良くてなんの得がある」

 「不貞腐れるなよ。今得が在ったばかりじゃないか」

 「あんなもの不愉快なだけだ」

 「そうか? 誰かから良くして貰えればその分嬉しいだろう?」

 「……まあ、悪い気分ではないな」

 「その顔立ちはマルセにとっては嫌な部分かもしれないが、他人にとっては羨む部分なんだよ」

 「この顔がか?」

 「人は持たざるものを羨む。その時羨ましいと思えるものなら、人は善の行動を取る時がある。でもそれが妬ましいになると人は途端に悪の行動に移る」

 「なるほどな。他人のスキルは良いように見える、と同じか。君は良く良く賢人の言葉に似たものを使うな」


 マルセがやはり君は素晴らしき心の清い人だと言うと。俺はまた恥ずかしいセリフ(黒歴史に残る言葉)を言っていたようだ。


 「ああー! ああああ! うわああああ!!」

 「またか!? 君は何で良い言葉を言ったのにそう照れるんだ!?」


 うるさい! 一人で呟くくらいならまだ耐えられるが、人に聞かれたりしたりしたら耐えられないってことがあるんだよ!
















「まだ黒歴史ってやつが増えてるね」

「まあそれは放っておいて良いわ。今回は買い物ね」

「途中で出てきた歯ブラシってどんなの?」

「江戸時代頃に使われていた歯ブラシをモデルにしてるわ。竹楊枝(たけようじ)呼ばれるものよ。興味があったら調べてみてね」

「次回の更新は12月9日だって」

「それではまた次回にお会いしましょう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ