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3 寂れた拠点 レデニア

3 寂れた拠点 レデニア


二人がしばらく北へと歩いていると森が切れ、目の前に平原が広がる。

 広い平原を東西に伸びる街道が割り、更にその街道の奥には高い防壁が見えた。

「あ、あれがなんとかっていう町……?」

「レデニアよ。物覚え悪いわね」

 少女の小言にいちいちイラつきつつ、先に歩いていってしまう少女の後を追う。

「そ、そう言えばさ、まだ自己紹介してなかった」

「そうね。でも必要かしら?」

「え? えっと……」

「アンタがキッチリとストライダーとしての仕事を全うするってわかれば、私も名乗ってあげるわ。それまでは、アンタは単なる異邦人」

「そのストライダーって言うのも良くわからないんだけど……」

「話は町についたあと、町長がしてくれるでしょ。私の仕事はそこまでの案内。わかったらさっさとついてきなさいよ」

 全ての言葉端から棘を感じる少女の態度。

 ケンジは恐らく、彼女とは仲良くはなれまい、と思った。

(この世界に来て初めての女の子だし、良い関係が築ければと思ったけど……こりゃ無理だな。顔は良くても性格が最悪だ)

 なんて女性を品定めしている自分を棚の上に上げながら、ケンジは少女との付き合い方の方針を固めるのだった。


****


 防壁には鉄製の門が備えられてあったが、今はどうやら門は閉まっていないようだ。

 番兵らしき人物の姿も見当たらず、二人は易々と町の中へと入る。

「なんだか……寂しい感じだね」

 大門を入ればすぐに大通り。南東部から北西部にかけて緩やかにカーブを描きつつ、広い道が通されているのだが、そこに人の活気は見つからない。

 大通りを形成する両脇の商店も『閉店』の看板がかけられ、昼間だというのに一つも店の扉は開いていなかった。

 それに比例してか、通りを歩く人間も少ない。

 店の開いていない大通りなど寄り付く理由もないが、それにしても、と思う。

「アレだけ立派な外壁があるのに……」

「黙って歩きなさい。もうすぐつくわよ」

 先を行く少女の言葉の棘に、少し鋭さが増した気がした。

 何か癇に障るようなことを言っただろうか? だが、その真意を問えばまた棘付きの言葉を投げかけられそうだったので、ケンジは黙って彼女を追う。


 大通りを歩いてしばらくすると、大きな屋敷が見えてくる。

「ここが町の役所。庁舎よ。中に町長がいるはずだわ」

「大きい建物だね……。ここに来るまで、大通りのお店も大きかったけど」

「世間話をするつもりはないわ。私の仕事は終わったから、これで帰らせてもらうわ」

 ケンジの言葉を遮り、少女は手をヒラヒラと振ってそのまま振り返りもせずに去ってしまった。

 本当に仕事だけこなせば用はない、と言うことだろうか。薄情にもほどがある。

「まぁ、情が湧くほど一緒にいたわけでもないけど」

 少女が消えていった路地を見ながら、ケンジは唾でも吐き捨ててやりたい気持ちだった。

 結局、彼女から助けたお礼の言葉すら貰っていない。


 庁舎に入ると、エントランスはとても広かった。

 正面には大きな階段があり、左右に分かれて二階へと続いている。エントランス横の壁には扉が一つずつついており、その先には事務所などが構えられているのであろう。

 しかし、やはりここにも人の気配は薄い。

 エントランスの隅には埃が溜まっており、庁舎だというのに掃除が行き届いていないのが窺える。

 ケンジはそんな庁舎の様子を見ながら、カウンターでベルを鳴らす。

「ごめんくださーい」

 声が良く響き、庁舎内の静けさを再認する。

 人がいればおそらく聞こえただろう。

 そんな事を考えていると、二階からパタパタと足音が聞こえ、階段の上にあった扉が開いた。

「あ、すみません。お待たせしました!」

 現れたのは長い金髪の女性。

 慌てた様子ではあるが、柔和な微笑みを浮かべ、階段を降りてくる。

「お客様ですかね。町の人ではありませんよね?」

「えっと、はい。そうです。この世界の人間ではありません」

「世界……あっ! ストライダー様ですか!」

 ストライダー、ここでもまた言われた。

 そんな肩書きを背負った実感はないが、さっきの少女も言っていたし、この世界では異世界人のことをみんなそう呼ぶのかもしれない。

「多分、そうだと思います」

「あ、ああ、しょ、少々お待ちください!」

 慌てた様子の女性はまた階段を駆け上り、扉の奥へと消えていった。

 少ししか顔を見れなかったが、綺麗な人であった。

「この世界の人はみんな綺麗なのかな……」

 顔だけならば先ほどの案内をしてくれた少女も可愛くはあった。性格にはかなり難があったが。

 今顔を出した女性も綺麗な顔立ちだったし、エストも女神らしく美しかった。

 ここまで見た人物が全て美しいのだから、全員美しいのかもしれない、と思ってもおかしくはないだろう。

「お待たせいたしました」

 そんな事を考えていると頭上から声が聞こえる。

 今度は少し歳を取った男性の声。

 ケンジが見上げると、髭面で人の良さそうなおじさんがそこにいた。

 顔は、普通だった。


 応接間に通され、ケンジは椅子に腰を下ろす。ここまで歩き詰めだったが思いの外足腰は疲れていなかった。

 対面に座ったおじさんは、先ほどの金髪の女性からお茶を受け取りながらケンジを見る。

「まずは自己紹介を。私はグラナル。このレデニアの町長をしております」

「あ、ボクはケンジ……別の世界から連れて来られました」

「失礼ですが、その証拠になりそうなものは持っていますか?」

 そう言われて、ケンジは少し思案する。

 確かに急に別世界から来ました、と言ってもすぐに信じられるものではあるまい。

 ケンジはレデニアに住んでいる西洋人風の顔立ちでもなく、また着ている服装もキテレツと評されるレベルのモノではあるが、それも無理に作ってしまえば騙す事は可能であろう。

 それを信用させるためには、何か……と思ってケンジはポケットの中を探る。

 手に当たったのはスマホ。

「これではどうですか?」

「その小板は?」

「スマートフォンと言う機械です。これと同じものがあれば会話をする事が出来……あ、いや他にも色々必要か」

 スマホで通話するためにはそれ用に回線を設けたり、インフラ整備が必要である。

「あ、でも他にも音楽を聴いたり、写真を撮ったり出来ます」

「音楽はともかく、シャシンとは?」

「えーっと、見てもらった方が早いかな」

 そう言ってケンジはカメラアプリを起動し、それでグラナルを撮る。

 そしてその画像を見せてやった。

「ほぅ! これは……私ですか!?」

「ええ、こうやって絵を撮ることが出来るんです」

「不思議な板ですな……なるほど、これは異世界の技術だと信用せざるを得ませんな」

 興味深げにスマホの画像をしげしげと眺めるグラナル。どうやら信用してくれたらしい。

「疑ってしまって申し訳ない。確かにあなたはストライダーのようだ」

「……そのストライダーってのも含めて、色々教えてくださいますか?」

「良いでしょう。湖の精霊のお告げであなたの世話をするように仰せつかっております。何なりとお聞きください」

 疑問は幾つでもある。だが、どれから聞けば良いのか、と思うと迷ってしまう。

 エストからはサラッとした事しか聞かされていない。この世界の知識を深めるためにこの機会を逃す手はない。

「じゃあ、まずストライダーってなんなんですか?」

「ストライダーとは、異世界の人間を総じてそう呼んでおります。由来は過去の大英雄が自身をそう称したからからだそうで、異世界人はこの世界では一般人よりも高い身体能力を発揮すると聞きます。そこに大英雄の影を重ね、そう呼ぶことにしたのだといいます」

「過去の、大英雄……」

 その英雄がどれほど偉大だったかは、ケンジには推し量る事も出来ない。

 しかし、今日まで語り継がれていると言うことは、それほどの偉業を成し遂げたのであろう。

 そんな英雄と同じ呼称で呼ばれることに、ジワリと重圧を覚える。

 自分は、そんな大それた事が出来るだろうか、と。

「私どもは、あなたもその英雄と同じく、偉大な英雄として名を連ねる事が出来ると信じております。どうか、この町を邪竜、アグリム・ドゥガルから救ってくだされ」

 グラナルから深々と頭を下げられ、ケンジは神妙な顔を返してしまうのだった。

TIPS


国と町

 この世界では町は国に所属しているが、それらが全て国の所有物と言うわけではない。

 多くの町が同盟を組み、それが大きくなって、王となるリーダーを決めた時、それが国となる。

 各町には当然自治権が認められており、国と言う同盟に対して重大な問題が起こった時には力を合わせることが約束されている。

 現在、レデニアが所属している国は二十近くの町の集合体であるが、近隣の国同士は勢力争いの真っ最中である。レデニアの属している国は戦争に参加していないものの、多くの町が状況を観察し、こちらに火の粉が飛んでこないように準備している。

 レデニアは僻地ゆえに戦争の影響は少ないが、逆にレデニアの危機に対して国側も何の支援も出来ない状態にある。

 レデニアはアグリム・ドゥガルの脅威に対して、ほぼ独力で対処せねばならないのであった。

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