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10 改めて、町を復活させよう!

10 改めて、町を復活させよう!


レデニアの町を襲った瘴気、そして魔物たち。

 その脅威を取り払って数日、町の中心に刻まれた神字によって瘴気からは守られ、近所で魔物を見かけることすらなくなった。

 だが、そんなレデニアに新たな危機が訪れようとしている。


****


「人手が足りません」

 庁舎の町長室にて、町長であるグラナル、その娘のフィーナ、瘴気を研究するために魔術師協会から派遣された魔術師ヨネス、そしてケンジが集まっていた。

 町が抱える問題、人口不足の解消に向けて話し合いをするためである。

「現在、町のメンテナンスや、先日の魔物襲撃の際の建物や道の修繕など、解決すべき事項は多岐に渡ります。ですが、それに割り振るための人がいません」

「我が町の人口は今や全盛期の五分の一程度。これでは、今の規模の町の運営はむずかしくなります」

 現状をフィーナとグラナルが手短に説明してくれる。

 アグリム・ドゥガルとその竜の放つ瘴気によって、レデニアからは随分前から人々の流出が絶えなかった。

 それは魔物によって殺されてしまったり、危険を感じて疎開したりなど、理由は様々であったが、原因はどうあれ今のところ町の正常な運営には程遠いほどの人数しか残っていない。

「目前の瘴気が消え去り、ある程度の平和は取り戻せましたが、疎開した人々に打診をしても根本的にアグリム・ドゥガルの脅威がなくなったわけではありませんし、未だに戻る意思を見せていない人は多いですね」

 魔術師協会を通じて、各地に散らばってしまった元レデニアの町民の様子を知ったヨネス。疎開者を呼び戻すのにはまだまだレデニアの環境が整っていないと判断されているらしい。

 そのような状況の中、グラナルは頭を垂れる。

「恥ずかしながら、私が町長を継いだ時には既にレデニアはかなり発展しておりました。発展した町の運営に関しては先代等から勉強させていただいておりますが、町に人を呼ぶ手段など皆目見当もつきません。出来れば知恵をお貸しいただきたい」

「そう言われてもなぁ」

 グラナルの言葉に、ケンジは頭を掻く。

 流石に町の運営の仕方などブレイヴが教えてくれるわけもない。

 ケンジ一人に助言を求めているわけではないだろうが、彼に妙案などなかった。

「例えば、名産を売り出して観光客を呼び込む、とか?」

「しかし今のレデニアは国の中で見ても危険地域。滅多なもので客引きをしたとしても、集まってくれるかどうか……それに仮に見物客や観光客がやってきたとしても、居付く可能性は限りなく低いでしょう」

 ケンジの案にヨネスが難色を示す。

 代わりにフィーネが少し思案気に口を開いた。

「ですが、お客様が集まってくださればお宿などの需要があります。宿を経営してくださる方がレデニアに居付いて下さる可能性はありますわ」

「そこを町からの援助などで経営をサポートすれば、商店が潤う可能性はありますな」

 宿の経営が上手くいくのならば、宿のオーナーが町に入植し、人口が増える。

 人口が増えた分、物が入用になり交易が活発化し、町に活気が戻れば更に人がやってくることにも繋がる。

「待ってください。申し上げましたように、レデニアは危険地域です。そこにやってくる人を、どうやって集めるかが問題でしょう!」

「ふぅむ……確かにヨネスの言う通りか」

 俄かな希望に飛びつこうとしたグラナルにヨネスが水を浴びせる。

 しかしこれも必要な事だ。綿密な計画を練らず、幻のような希望に飛びついたところで計画は失敗に終わる。

 レデニアの町の現状は崖っぷちだ。何度も失敗していられる余裕はない。

「まずは町の地力を取り戻すのが先です。近隣の農村に農家を招き入れましょう。農民の税を軽くし、一次産業を発展させるべきです」

「しかし、この町の近隣は突出して肥えた土地と言うわけでもない。農民はやってきてくれるだろうか? それに不自然に税を軽くしたりなどしたなら、近隣の町から文句を言われるだろう。外交をしている余裕もないし、下手に町同士でいがみ合うのは避けたい」

「むぅ、それもそうですな……」

 人間は財産である。人がいるだけで町が潤い、人がいなければ廃れるというのは、現在のレデニアを見ればわかるだろう。

 強引な入植政策を取り、近隣の町からも不自然に人が流れてくるような事があれば、それは婉曲な侵略行為にも相当する。それで他の町から宣戦布告と取られれば、支援を求められなくなったり、交易が断たれたり、窮地に立たされるのはレデニアである。

 そこにフィーナが意見を出した。

「税率の軽減などはともかくとして、ヨネスさんの言う事はもっともです。農民の方々がいなければ作物は育ちません。レデニアの運営資金が潤沢でない以上、長期にわたって交易で食べ物を手に入れるのは難しいでしょう。ならば農民の方々を受け入れるのは正道だと感じます」

「しかし、それには手段が……」

「町で農奴を買いましょう」

 フィーナの言葉に、グラナルは目を丸くする。横でヨネスはふむ、と唸った。

 農奴とは農業を行う奴隷の事。金持ちの農民などは自分で野良仕事をすることなく、農奴を働かせて利益を出している。これを町で行うというのだ。

「し、しかし、奴隷となると……」

「ど、奴隷!?」

 その言葉の重さに、ケンジはようやっと事態を把握する。『ノウド』なんて言葉、中学生では馴染みが薄すぎてちゃんと認識するまで時間がかかってしまった。

「ど、奴隷なんて可哀想だよ!」

「ケンジさん……?」

「奴隷はほら、強制労働させて、ボロ雑巾になるまでこき使って、死んだらポイ捨てってヤツだろ? そんな酷い事……」

「あら、勘違いなさってますわ」

 おろおろし始めるケンジに、しかしフィーナはいつも通りの柔和な笑みだった。

「奴隷と言うのは持ち主の財産です。無碍な扱い方をするのは無能な経営者の証拠ですわ。奴隷は上手く使い、彼らにも快く働いていただく。それが手腕ある者と言うことです。故に、奴隷は出来るだけ健康で、バリバリと仕事をしていただくために栄養も取っていただき、その恩義に報いていただくために働いていただく。立派なギブアンドテイクです」

「え、えっと……」

「ケンジさんが想像なさっているような、酷い仕打ちはいたしません。農奴とは言え相手も人間。礼節を持って接するのが人間としての態度。そうでしょう?」

「はい……」

 まるで用意していたかのような答えに、ケンジは言葉をなくしてしまう。

 フィーナは思ったよりも確固たる経営者の風格を持っているかのようであった。

 そんな彼女に、グラナルが食い下がる。

「しかし、フィーナ。奴隷を買って維持するとなると、町の運営費が危ないぞ」

「段階を踏みましょう。一度にレデニアの有する農地を全て埋めるわけではなく、数人ずつ買い付け、農地を管理させる。農業を教える人間も限られますから、最初は四、五人程度でも良いでしょう」

「少人数を買うだけなら、運営費の出費も軽いか……」

「ええ、それに農奴が農業を覚え、それが町に貢献できればそれが町の利益にもなります。これで運営費を稼ぎ、次の農奴を買うお金や街の発展に使う事が出来ます」

「ふむ……何とかなりそうではあるが、気の長い話になりそうだな」

 農奴が一人前の農家になるのにどれだけの時間がかかるのかはわからないが、そこそこの時間がかかるだろう。それを数人ずつ、ジワジワと育てていくとなれば年単位の時間がかかりそうですらある。

「農奴が逃げないように見張りをつける必要もありますし、そちらに人員を割く必要もありますな」

「最初はそうする必要もありますが、後々になればその心配もなくなるようにします。私に策がありますから」

 ニコリ、と笑うフィーネの顔。美しい笑顔であるはずなのに寒気を覚えるのはどうしてだろうか。

 フィーネは思った以上に策士だ。


 そんなわけで町の地力を回復させる方策は何とか方向性だけでも決まった。

 だが、肝心の人口回復の妙案は浮かばず、この日は解散と言うこととなった。

「町おこしか……そんな短期間じゃ無理だよなぁ」

 そんな風にぼやきながら、ケンジは町長室のドアを開ける。

「アンタたち、大変そうね」

「うわ!」

 急に声をかけられ、驚きながらそちらを見ると、そこにはマリナがいた。

「ビックリした……何してるんだよ、そんなところで」

「ヨネスを待ってるのよ」

「ヨネスさんを……?」

「おや、マリナさん」

 ケンジの後ろからヨネスが顔を出す。

 改めて実感するが、ヨネスはケンジよりもはるかに身長が高い。

 魔術師のクセに結構な体格であった。

「遅いわよ。いつまで待たせるの」

「すみません。会議が難航しまして……」

 強い物言いのマリナに対して、ヨネスは子供を扱うように適当に謝っている。

 なるほど、これが大人の対応。

「二人はこれから何かご予定が?」

「アンタには関係ないわよ。さ、行くわよ、ヨネス」

 ケンジの疑問を跳ね除け、マリナはヨネスを引っ張ってどこかへ行ってしまった。

 呆気にとられながら、ケンジは二人を見送る。

「なんなんだ、一体……」

「二人は前から付き合いがあるんですよ」

「フィーナさん。どういう事です?」

 ニコニコしながらやってくるフィーナ。その笑顔はいつものそれであった。間違っても寒気を覚える事などない。

「アグリム・ドゥガルが現れてすぐくらいからヨネスさんはレデニアにいらっしゃいますが、その時からたまに、マリナと一緒に何かやってるらしいんです。私には教えてくれないんですけど」

「フィーナさんも知らないんですか? 実の姉にも教えないとなると……」

「実の姉……」

「な、何か?」

「いえ」

 含みのある言葉を残し、フィーナは軽く会釈して廊下の奥へと消えていった。

 色々わからない事だらけだし、考える事もたくさんある。

「もう、中学生の脳みそじゃ処理能力が足りない……!」

 パンクしそうになる頭を抱えながら、ケンジも庁舎をあとにするのだった。

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