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たった四隻の黒船に腰を抜かし、引きこもりをやめた、腰抜けの国。
かつて、己を東から登る太陽だと、大言壮語をたたいた国。
今では、大日本帝国だなんて名乗っている、日本。
育ての親である李警部を説き伏せてまで、上海からこんな東の果てといえる国までやってきたのは理由がある。
シャオの生みの親がいるからだった。
育ての親でさえ舌先三寸でだまくらかし、好き勝手にやってきた詐欺師。
幾多の裏社会の人間から不興をかい、いつ消されてもおかしくなかった与太者の癖して生き延びた傾奇者。
シャーマンだった彼女の母親に対して、興味本位で子を作り、そして子供ともども捨てた、金髪碧眼。
その結果が一人の少女。
母譲りの退魔の血をひいたシャオだ。
そんな人たらしが今度は日本で学舎を開くという、故国の社交界でそれこそ、鼻で笑うような、雲を掴むような偽りごとだらけのような話だけを頼りに、育ての親の恩でさえ投げ打ってまで、日本へやってきた。
色々な伝手でやっと手に入れることができた、留学生としての身分で父親が作った学校に入学した。
それも、父親との決着をつけたいがためだった。
話したことのない、血のつながりでしかない関係に縛られ続けている。
彼女はそれを絶ちたかっただけ。
それなのに、彼女は学舎に潜入したというのに、やっていることは故国、上海でしていたことと同じことだった。
入学した学舎は、なぜか上海で対峙していたものと同じようなものばかりがいたからだ。
人の成れの果てであったり、モノの成れの果て、ヒトではないもの。すなわち、アヤカシと総称されるもの。
そこには、それらが飽きるほどにいたのだった。
父親と対峙することが目的であったのに。
日本にやってきてさえも、上海にいたときと同じことを毎日やっているのだった。
そして、今日も、また同じことをしようとしている。
人助けでも、なんでもない。それは、シャオの中でもう、勝手に形造られたなにかだった。
寝て、起きて、食べて、仕事して、休む。そして寝る。
人としての活動の中に、退魔の調伏が組み込まれるだけ。彼女にとっては、息をするのと同じ、日常そのものだった。