第5話
木々の間から大きな影が顔を出す。
「う…… さぎ?」
「うさぎってレベルじゃねーぞ」
「はっはっはっ、大きいねぇ」
バカでかいうさぎ。
体長二メートル、いや三メートルか。
とにかくでかい。
昔、小さい頃に水族館で見たシロクマよりでかいぞ。
見た目はうさぎだが、ここまで大きいとそれだけで脅威だ。
「ど、どうする? 逃げた方がいいんじゃないか?」
「いえ、ここは狩場とのこと。そんな場所にこのように巨大な生物がいたのでは、村人に危害が出るやもしれません。今ここで倒すべきです」
「倒すって、できるのかよ!」
「無論です」
「はっはっはっ、まかせなよ」
言うや否や、ベルントが大楯を構えて突撃する。
くそっ! 脳筋が!
お前が突撃したら誰が俺を守るんだよ。
だから来たくなかったんだ。
突進するベルントの大楯をうさぎパンチが受け止める。
ドスンっと重い音が響く。
「いまだっ!」
「やぁああああああ」
ノエルが大きく跳躍すると、どうやったのか空中で軌道を変え、巨大うさぎに突撃する。
動きが早すぎて残像が見える。
空中にいたはずが気づけばうさぎの脇を抜け着地していた。
「きゅぅうううう」
うさぎの断末魔が響く。
見れば首筋から出血していた。
巨大うさぎはゆっくりと倒れた。
「やった…… のか?」
とめどなく血が流れ、ピクリともしないうさぎ。
「はい」
「はっはっはっ、まかせなって言ったろ」
「はあー、びびったぜ」
腰が抜けた俺をノエルが、死んだうさぎはベルントが、それぞれ担いで村に帰った。
☆☆☆
「あったらこいつ倒しただかか」
「まずかったですか?」
「まっさか! こいつはレッキスって言って害獣も害獣だで。よくぞ倒してくれたよ」
「それは良かったです」
「飯にしようぜ、飯に」
「はっはっはっ、ところでこの巨大うさぎは食べられるのかい?」
「ごちそうだよぉ、特に前足の肉がうまいんだ」
「ほぉー」
☆☆☆
でかいうさぎを担いで村に入ると村人に歓迎された。
とんでもない害獣らしく、田畑を荒らすは狩場を荒らすはでどうにかしたかったらしい。
しかし、うさぎとはいえ巨体だ。
村人での駆除は危険なため街から人を呼ぶ予定だったらしい。
だが、そのための費用をどうするか? という点でやはり頭を痛めていたらしい。
「仮に費用が工面できても駆除を引き受けてくれるギルドがあるかわからんしな」
巨大うさぎは結局、でかすぎて村人数人で解体することになった。
器用に皮をはぐおっさんと暇つぶしに世間話をする。
「ギルドってのは?」
「街の方にはそういうモンスターを退治する専門の集まりがあるんだとよ。ただ、ゴロツキの集まりみたいなギルドもあるらしくってよ、依頼を出すにもどこに出せばいいのかよぐわがんなくてよ」
「へー」
ギルドかぁ。
めんどくさいんだよなあ。
ギルドバトルとか。
空いた時間にやるようなゲームで、特定の時間に拘束されるのはイヤなんだよな。
でも、どこのソシャゲも入れてくるからな。
まあ、マルチプレイもそうだけどプレイヤーの射幸心を煽るには仕方ないのかもな。
あ、巨大うさぎの肉は、さっぱりしていてうまかったよ。