第3話
「シクシク…… メソメソ……」
「マスター、どうしたんだい? 悩みがあるなら相談したまえ、この筋肉で解決してあげるよ」
重低音の無駄にいい声が耳に響く。
目の前には金髪碧眼の綺麗な顔。
だが男だ。
それも暑苦しいやたらガタイのいい筋肉ダルマ。
「はっはっはっ、どうしたんだい? この世に絶望したような顔をして、一緒に筋トレをしよう。そうすればきっとハッピーになるよ」
誰のせいだと思ってやがる。
貴重なガチャチケがこんな奴に消費されるなんてっ!
悪夢だ。
返品したい。
クーリングオフだ。
ピックアップ仕事しろ。
くそっ! くそっ!
「マスター戻りました」
「やあ、ノエル」
「ベルント様!? いつこちらへ?」
「はっはっはっ、先ほど呼び出されたばかりだよ」
なに? こいつら知り合いなの?
そんな設定あったかな。
いや、そもそも詳しいバックストーリーなんぞ知らんが。
そんなことよりもベルントか。
確かディフェンダーだよな。
うわぁああ、ハズレじゃないか。
アタッカーが欲しいんだよ。アタッカー。
できれば魔法職。そんで可愛ければなおよし。
いや、待てよ。
今一番必要なのは回復職じゃないか?
ヒーラー? いや、このゲームではクレリックだったか?
まあ、どっちでもいいか。
明日のログボでチケットもらえるかな?
このゲームの運営は渋そうだからなぁ。
「マスター?」
「えっ? な、なに?」
「顔色が優れないようですが?」
「だ、大丈夫だよ。ヘーキ、ヘーキ。それより食べ物は見つかった?」
「それが獲物は見つけられなかったのですが、人を見つけました」
「人? 他に人間を見たの!?」
「はい。馬車で移動しているようであまり時間が空くと遠くに行ってしまうかもしれません」
「す、すぐっ、すぐに追いかけよう」
☆☆☆
「あ、あんたら、何者だべっ!」
まあ、そう言われてもしょうがないほどに俺たちは怪しい風体ではあるな。
無駄に露出の多いどすけべドレスの女剣士と、上半身裸で大楯持ったイケメン筋肉。
俺? イケメン筋肉の脇に抱えられてるよ。
誰だって警戒するし、俺だって警戒する。みんな警戒する。
馬車は御者におっさんが一人と荷台におばさんが一人乗ってるだけ。
馬車もそれを引く馬もボロボロ。
五十代に見える御者のおっさんは無精髭と汚れで顔は真っ黒。
荷台のおばさんはこ綺麗にしてるが、それでも少しみすぼらしく見える。
「驚かせて申し訳ありません。私はノエル、剣士です」
「はっはっはっ、申し遅れた。私はベルント・ヴェーベルン。元騎士で今は傭兵だ」
傭兵なのか。
ん? なんか、俺の方を見られてる。
「こちらは私たちのマスターです」
「ま、マスター、です」
一瞬の沈黙があり、その後怒涛の勢いでおっさんが喋り出した。
「おらたち、何も持ってねぇだ。この馬車取られちまったら生きていけねぇ。それでも持っていくってんならおらの命も持っていけ」
「あんたっ! ど、どうか命だけはっ! ほら、あんたも頭下げて。生きてりゃなんとかなるよ。馬車なんてなくったって私がいるじゃないか」
「おまえ……」
「あ、いや…… 別に馬車はいらないので」
「頼む! おらはどうなってもいい、だからこいつだけは村に返してやってくれ」
「あんた! なんてこと言うんだい。お願いします。この人がいないと私生きていけないんです。だから、命だけは……」
こりゃ誤解を解くのにだいぶかかるな。
あと、いい加減おろして。
名前:ベルント・ヴェーベルン
職業:ディフェンダー(大楯)
属性:土
レアリティ★★★★☆(SR)
ゲーム内で誤植があり名前が間違っている箇所がある。
そのため自分の名前を間違えることがあるが、決して脳筋だからではない
金髪碧眼のイケメン、ただし筋肉モリモリマッチョマンの変態
しかし異世界では伊達じゃない筋肉は意外と人気!?