第2話
「シクシク…… メソメソ……」
「マスター、しっかりしてください」
体育座りでたそがれる俺の肩にノエルの手がそっと添えられる。
石がない。ガチャが引けない。
「どうしよう……」
いわゆる課金アイテムである石。
そもそも課金できるのか?
状況を整理しよう。
まずスマホだが原型をとどめていなかった。
ボタン類が全部なくなっていて、見た目は黒い板のようになってる。
もともとスマホはボタン少ないけどこれじゃ音量すら変えられんじゃないか!
満員電車でアダルトビデオ見るぞこのやろう。
電源ボタンもないのにどうすんだって話だと思うが手に持つと画面は映る。
もちろんさっきまでプレイしてたソシャゲの画面だ。
昨日からサービスインしたやつでチュートリアルクリアでもらえる石でガチャを回したところだ。
それ以外はどうやってもダメ。
ボタンがないからホームに戻れない。
電源ボタンもないからリセットも不可。
手を離すと画面が消える謎仕様になってる。
これ充電切れたらどうなるんだ? いや、穴も無くなってるから、仮に電気があっても充電できないんだけどな。
あとはノエルか。
簡単に説明すると、ノエルはレアリティでいうとレア相当の星三つ。
ちなみに星四がスーパーレア、星五つでSSレアになる。
そう、ノエルはハズレといっていい。
普段の俺ならアプリを消してリセマラを開始してるところだ。
だいたいチュートリアルクリアでガチャ一回しか引けないとか、リセマラせずにそのまま終了パターンだな。
ノエルの方を見る。
今は焚き火の準備中だ。
どうでもいいが衣装が奇抜だな。
いや、ソシャゲのキャラとしては普通と言っていいのかもしれないが、こと現実世界に来ると奇抜というか、きわどい格好になる。
白いドレスは前面だけ、つまり胸に張り付いた状態で脇や背中は大きく開いている。
腰のあたりまで開いていて、尻の上の方がちょっと見えてる。
スカートは後ろの方だけ長くて正面はミニスカートのように短い。
太ももまであるブーツはかかとがかなり高い。
ところどころ申し訳程度に金属製の装飾があるが、剣士としての防御力は明らかに低そうだ。
剣を持ってなかったら、エロいドレスでしかないな。
「どうされましたか?」
まずい。
凝視しすぎたか。
「あ、い、いや、その」
「……?」
「その服、どうなってるのかと、思って」
「服? 変でしょうか?」
「いや、現実逃避してただけだから」
まっすぐに見つめられると照れるな。
そもそも女性に見つめられる経験がないからな。
ましてやゲームのキャラだからな、見た目で言えば美少女なワケで。
星三の外れとか言って悪かったよ。
覚醒なり限界突破でレアリティが上げられるならちゃんとパーティーに入れるよ。
焚き火にあたり体が温まると眠気が襲ってきた。
ノエルに寄りかかるようにしてそのまま寝てしまった。
☆☆☆
目をさますと柔らかいものが顔に当たっていた。
ノエルのデカい胸に寄りかかっていたらしい。
この感触を忘れずに生きていこうと思う。
「目が覚めましたか」
「あ、ああ。お、おはよう」
「おはようございます。何か食べるものがないか、少しその辺を散策してきますね」
「あまり遠くに行くなよ。怖いから」
「大丈夫ですよ。何かあればすぐに駆けつけますから」
「そう、それならいいよ」
「ふふ、行ってまいります」
ノエルが立ち上がると一陣の風が頬を撫で姿は見えなくなっていた。
忍者かよ。
人間の動きじゃねぇぞ。
忍者動体視力がいるな。
「はあ」
いつもの癖でスマホを取り出そうとしてポケットから黒い板が出てきてため息がでる。
「こ、これは!」
画面(?)にはログインボーナスの文字があった。
「ははは、ふふふふふ…… はーはっはっはー。そうだよな。ログボだよ。これで、これでガチャが引けるぞっ!」
しかも、星四以上確定チケット。
「俺の運が試されている。だが、ここで星五を引けば大勝利だ」
狙うはSSRのミルワというキャラ。
魔法使いキャラで高火力が特徴だ。
連発はできないがDPSも悪くない。
「行くぞー!」
画面を操作してチケットを使用すると、目の前にガチャの演出が現れる。
その光は想像以上に強く直視できなかった。
名前:大隈遠地
一応の主人公
ゲームばっかりしてるダメ人間
良い子はこんな大人になっちゃダメだぞ