第19話
「待てっ! やめろぉ!」
槍を地面に突き立て急ブレーキをかける。
槍を構え、カペルはオークに向かって走り出す。
「うぉおおおおおお」
鼻が利かなくなったオークは、カペルを正確に追うことができずめちゃくちゃに棍棒を振り回す。
姿勢を低くしたカペルは、オークの脇をすり抜ける。
「グレッグ! クリス!」
村人を背負ったグレッグが、カペルの声に振り返る。
棍棒を振り回す別のオークが、柵を吹き飛ばし飛び込んできていた。
「させるかぁああああ!」
駆ける勢いを乗せて槍をオークに向けて投げ放つ。
渾身の力を込めた槍は、振り下ろされるオークの手首に刺さり、握っていた棍棒はすっぽ抜けあらぬ方向へと飛んでいく。
「逃げろっ! 逃げろっ!」
グレッグとクリスは村人を抱え走り出す。
手首に刺さった槍を力任せに引き抜いたオークは、血走った目でカペルを睨みつける。
「ゴォァああああああ」
咆哮とともにカペルに向かって走り出す。
一気に加速するオークの巨体。
カペルは最後を覚悟した。
迫り来る巨体がとてもゆっくりに見える。
その瞬間、これまでの人生が一瞬で押し寄せてくる。
「すまねぇ、おやっさん」
闇を切り裂く一筋の白光がカペルの目の前に落ちる。
そこには白いドレスを身にまとった綺麗な女性がいた。
「な! なんだ!?」
「剣士ノエル。義によって助太刀いたします」
ドレスの女性が、美しい装飾の施された青白い光を放つショートソードを掲げる。
「はぁああああああああ」
ノエルが左手のバックラーを構え気を吐く。
青白いオーラが身を包みオークの突進を受け止める。
「ゴォァああああああ」
衝撃が伝わりオークの足が大地にめり込む。
渾身の突進を完全に止められ、オークが一瞬固まる。
その隙をノエルは見逃さない。
「無に帰すがいい」
振り下ろされるショートソードから放たれる白刃が、オークを袈裟斬りする。
崩れ落ちるオークを背にしてノエルが、カペルに手を貸して起こす。
「間に合ってよかった」
「あ、ああ…… 助かったよ」
安堵の瞬間、大きな衝突音でカペルが振り返る。
「なんだ!?」
そこには整った顔立ちの男が、もう一体のオークを大楯で下敷きにしていた。
「はっはっはっ、着地点をミスったかと思ったが、結果オーライかな」
ノエルが笑顔で答える。
「大丈夫です、私の仲間ですよ」