第14話
「おめぇは行かねぇのか?」
カウンター席に座り、床掃除をするイケメン筋肉を眺めてるとおっさんがよくわからないことを言ってきた。
「行くって、どこに?」
「薬草取りだよ」
「え? 無理無理」
「お花摘みは女子供の仕事だってのか」
「ん? 一度に出せるパーティーは一組だけ。俺とあいつはお留守番」
するとおっさんは、呆れたような顔をしてイケメン筋肉の方を向く。
「おいっ! こいつ頭大丈夫なのか!?」
「はっはっはっ、お気になさらず」
いやそこは明確に否定しろよ。
なんか、かわいそうな子を見る目になってんじゃねーか。
☆☆☆
外を箒で掃除する。
テラス席のように店の前にテーブルを出す。
キャンバスのような布を入り口の上から張ってサンシェードを作ると開店準備は終わり。
日陰ができたのでテラス席の一角を占領する。
「サボってると怒られますよ」
「準備なら終わったよ」
「そうですか、では何か飲み物をもらってきましょう」
「ああ、頼む」
イケメン筋肉が持ってきた、淡いピンク色した謎の飲み物をもらって一息つく。
見た目のファンシーさとは裏腹に味は普通の紅茶だった。
「これなに?」
「ザリザリガンバーです」
「なに?」
「ザリザリガンバーです」
「そうか」
「ちなみに原料は近くの河原に生息する甲殻類の甲羅を……」
「いや、いい。それ以上なにも言うな」
「はっはっはっ、冗談ですよ。ザリザリという木になる実を乾燥させて淹れたお茶です」
「そーかい」
こいつこんなキャラだったか? まあ、いいや。
それよりも、今後の方針だな。
クエスト報酬の石を貯めて十連で高レアを狙うか。
もう一つ。
そう武器ガチャだ。
しかし、武器ガチャは茨の道。
いや闇、暗黒、そう沼だ。
闇の沼。それが武器ガチャ。
なぜなら、仮に強力な武器が出ても装備できるキャラがいないと意味がないからだ。
つまり今いるノエル、ベルント、ノーラ以外の職業の武器が出た場合、全てが無駄になる。
しかし、ガチャで排出される武器はどれも強力。
十連でノエルが装備できる片手剣が一本でも出れば元が取れる感じだ。
キャラガチャと比較して武器ガチャは必要な石が三分の一、さらに高レアの排出率が倍。
悩ましいな。
戦力の拡充を考えればキャラガチャなんだが、単純な戦闘力アップを考えれば武器ガチャだろう。
「うぅ……」
「オラッ! いつまで休憩してんだ。店開けるぞっ!」
「うぅ、もうちょっと休ませて」
「ほら、マスター行きますよ」
☆☆☆
「ほら三番テーブルに持ってけ」
「ヘーイ」
何で俺はウェイターなんぞやってるんだろうか。
「いらっしゃいませ。お席までご案内致します」
「「キャー!!」」
イケメン筋肉が接客するたび黄色い声援が上がる。
どうやら臨時で入ったイケメン筋肉を見に、近所のお嬢さん方が来てるらしい。
クソッ、ここでもただしイケメンに限るなのか。
どうでもいいが、あいつ上半身裸でエプロン姿って完全に変態なんだよな。
やはり顔が良ければ全て許されるのか。
「なんか忙しいな」
「そうなの?」
「いつもこの時間は常連の客が数人いるだけだ。昼間っから酒飲むような連中だけだよ」
「もしかしてあれの所為か?」
手でイケメン筋肉を示す。
「もしかしなくてもあれの所為だろ」
「なんか、すまん」
「謝る必要はねぇよ。それよりあいつ何モンだ?」
「何って元騎士の傭兵だよ」
「騎士だったのか!? それが何でお前なんかと一緒にこんなとこにいるんだよ!」
「いろいろあるんだろ。知らねぇけど」
「知らねぇのかよ!」
「オーダーお願いします」
「お、おお」
おっさんが奥のキッチンに行くと、イケメン筋肉が小声で聞いてきた。
「何かありましたか?」
「いや、忙しくて嬉しい悲鳴が出てただけだよ」
「そうですか」
☆☆☆
ひっきりなしにやってくる女性客を捌くだけで、あっという間に時間が過ぎて行く。
すぐに昼の営業が終わる時間になった。
まだ残る女性客をイケメン筋肉が丁重に追い返す。
「はあ、昼の売り上げだけでいつもの一日分だぞ」
「よかったな、おっさん」
「お役に立てて何よりです」
おっさんは微妙な表情だ。
確かに儲かったが、忙しすぎる。そんな感じかな。
まったりした空気の中、店の扉が開く。
女性の話し声が聞こえ、またあの忙しさがくるのかと身構える。
「ただいま戻りました」
「いっぱい採ってきたよぉ」
ノエルとノーラが入ってきて、一気に空気が緩む。
「何かありましたか?」
「何でもねーよ」