第13話
「私は商会に戻らないといけないんだけど、君たちはどうする?」
それほど広いわけでもない街中の道を、馬車で移動するのはなかなか怖いな。
街の人は慣れてるのか、馬車の脇をスルスルと通り抜ける。
「どこかお宿をとりますか? マスター」
「宿ったって、金がないぞ」
そもそもこの世界の金がどうなってるのかもよく知らないし。
「そうですね。どうしましょうか……」
「それなら酒場をやってる知り合いを紹介しよう」
「酒場?」
「ああ、元はギルドだったんだけど廃業してね。ギルド会館として使ってた建物を酒場にしたんだ」
「へぇー」
「強面だけど面倒見はいいから、仕事なり寝床なりなんとかしてくれるかもしれないよ」
「他に頼るとこもないし、お願いしようかな」
「わかったよ」
「そういや毛皮はどうなるんだ?」
「大物だからね。できるだけ高く売りたいから、慎重に行こうと思う」
「そうか。まあ、適当に頑張ってよ」
「目処がついたら酒場に知らせに行くよ」
「ああ、ありがとう」
☆☆☆
レンガ造りの家が並ぶ一角。
長屋のように隣同士隙間なく連なっている。
ただレンガの色が微妙に変えてあって別の家だとわかるようになってる。
「ここか」
「金の卵亭ですか」
「金タマね」
「マスター!」
「はっはっはっ」
ノエルが木製の頑丈そうな扉を開ける。
「まだ準備中だ」
いかついおっさんがカウンターから声をかけて来た。
腕の太さが尋常じゃない。
イケメン筋肉も太いんだが、おっさんのはマジで筋肉の塊みたいだ。
「イーガンさんの紹介で来ました」
だれ? ああ、あの商人のにーちゃんか。
そんな名前だったのか。
「イーガン? 帰ってきてるのか?」
「はい、先ほど別れて商会に向かわれました」
「そうか。それで何の用だ?」
「はい、何か仕事があればと思いまして、それとできましたら泊めていただけないかと」
「仕事ならそこのボードに張り出してある。割のいいヤツは残ってないがね。宿は…… まあ今夜だけならいいだろう」
「ありがとうございます」
「だが、泊めるにしてもタダってわけにはいかんな。とりあえず店の手伝いでもしてもらうか」
「はい」
☆☆☆
店の外観のイメージとは違い中はそこそこ広い。
入って正面にカウンター、その手前にテーブル席が3つ並ぶ。
奥にある階段を上るとロフト状の中二階があって、ローテーブルのソファー席になってる。
いわゆるビップ席というヤツだろう。
そして、入り口右側にボードがあって、そこに紙が張り出してある。
どうも依頼が書いてあるらしいが俺には読めない。
しかし、黒い板になった元スマホに依頼内容は表示されるようだ。
便利だなー。
とりあえず破廉恥聖女さまにはおっさんの手伝いをしてもらうことにして、残りで依頼内容を吟味することにした。
「これなんてどうでしょうか?」
「迷い犬探しぃ? 来たばかりの街で迷子探しなんてできるのかよ」
「それは…… 同時に街の探索にもなりますし……」
「それは後でもいいだろ。ここは確実にこなせる内容にするぞ」
「うぅ、はい」
「無難なところは薬草採取かな」
「無難でしょうか? 採取場所がわからないのでは?」
俺はカウンターに声をかけた。
「おっさん! この辺で薬草採れる場所知ってるか?」
「ああ、教えてやるから取りに行ってこい。最近、採取依頼が残って困ってる」
「じゃ、決まりだな」