第12話
「すごい熱です」
倒木を枕にして寝かされたお子様は苦しげに呻く。
「やばい、のか?」
「まだ、小さいですからね」
「頼む! なんでもする! だから、息子を、息子を、助けてくれ」
「お父さん、頭を上げてください」
頭を地面に擦り付ける親父を、商人が肩をだき慰める。
「薬とかか?」
「そうですね。ただ……」
「金、か?」
「おそらく……」
持って無いだろうなぁ。
難民だもんな。
「んー、なんとかしてやりたい気もするが、病気はなぁ」
魔法でパパっと治るならな。
「そうだ。ノーラはどうだ?」
「え、あたし? んー、どうだろ。体力の回復はできるけど、状態異常は回復できないよ」
「病気って、状態異常か?」
「さあ?」
さあ!?
この娘、結構軽いな。
まあ、人のこと言えた義理じゃないが。
「どう、する?」
「わかりませんが可能性があるならば、試してみるべきです」
「そうだな。ノーラ回復頼むよ」
「はーい、りょーかーい」
☆☆☆
ノーラが詠唱にはいると、青白い魔法陣が浮かび上がる。
「サークルヒール」
よくわからない文様が側面に刻まれた光の輪っかが広がると、ゆっくりとお子様の頭から足にかけて潜るように移動する。
誰もが固唾を飲んで見守る。
お子様の寝息が落ち着く。
「どうだ?」
「さあ?」
ノエルがお子様の額に手を当てる。
「まだ熱はありますが、落ち着いたのではないでしょうか」
「体力が回復しただけだから、まだ気を抜かないでね」
「ありがとう、ありがとう、あり、が、とう……」
お子様の親父が泣き出した。
まだ気をぬくなって言っただろ。
「とりあえず様子見かな」
「そうだね」
珍しくイケメン筋肉が真面目に答えたな。
こいつでも空気は読むらしい。
☆☆☆
「聖女様」
「聖女様、どうか祈らせてください」
「ひっ! マスターこわいよー」
拝んでくる難民にビビったノーラが俺の腕にしがみつく。
腕に当たる感触に、難民を応援したくなる。
いいぞ、もっとやれ!
どうもノーラの回復魔法が奇跡扱いで、聖女認定されてしまったらしい。
どうでもいいが、こんな破廉恥な格好した娘を聖女にしたら教会の威信に関わるんじゃないか。
あ、でも入信した娘さんに同じ格好をさせられるのか。
なんかそれだとただのコスプレ風俗みたいだな。
あ! いいこと思いついた。
ノーラを聖女として宗教ビジネスを始めよう。
そんで可愛い娘が来たら聖女見習いとして、ノーラと同じ格好をさせると。
完璧だ。
女の子がエロい格好するから男の信者もわんさかくるぞ。
喜捨で濡れ手で粟間違いなし。
「ふひひ、聖女さま」
「ひっ! マスターまで!? なに、感染するの? パンデミックなの!?」
「はっはっはっ、ノーラが怖がるからやめなさいマスター」
「なんだよ、宗教は儲かるんだぞ」
「いいかい、宗教っていうのは人々の心の支えになるものなんだ。マスターみたいな邪念の塊みたいなのではダメなんだ」
「くそっ! グゥの根も出ないくらい正論で言い返せない」
☆☆☆
「本当に、本当に、なんとお礼を言えばいいのか……」
「気にしなくていいよ。それより道中気をつけてな」
「お気をつけて」
ゴブリンの死体を確認した難民のリーダーが出発を決めた。
かなり予定をオーバーしていて、どのみちこれ以上の逗留は難しかったらしい。
遅くなるといい場所があっても、開拓が間に合わず餓死者や、冬になれば凍死者が出る。
多少の危険を冒してでも進むしかないらしい。
「さて、俺らも街に入るか」
「そうですね」