第10話
馬車が近づくと気がついた数人がこちらに近づいてくる。
進路を遮るように男が数人街道に出てきた。
馬車がとまると男たちに囲まれる。
「何かありましたか?」
商人が顔に笑顔を貼り付けて進路を塞ぐ男たちに話しかけた。
「あんたら無事だったのか!?」
「ゴブリンに会わなかったか?」
「うちの子を見なかったか? はぐれてしまって、背は胸くらいで髪は耳にかかるくらい、瞳はグリーンなんだ。頼むなんでもいい、知ってることがあったら話してくれ」
いっぺんに話しかけられ、商人の顔はこわばる。
そのなかでも一際必死の様相の男にノエルが話しかける。
「皆様、少し落ち着いてください。私はノエル。剣士をしております。街道で出会ったゴブリンは私とこちらのベルント様が打ち果たしました」
そのどよめきは次第に広がっていく。
「ほ、本当にゴブリンを退治したのか!?」
「全部かはわからんが、かなりの数を蹴散らしてたよ。この目で見た」
商人の言葉に男たちから安堵が漏れる。
「一緒に子供を見なかったか? 息子なんだ! 不意打ちを食らって、手を離してしまって……」
「落ち着いてください。馬車に」
男が馬車の荷台を覗く。
寝息を立てる子供を見て泣き崩れた。
「よかった、本当に、よかった…… 一人息子で、こいつをなくしたら、俺は、俺は……」
その後、街の入り口では難民たちによる酒盛りが始まり、夜遅くまで騒ぎが続いた。
もちろん、騒ぎの中心にはノエルたちの姿もあった。
☆☆☆
「うぅ、飲みすぎました」
「はっはっはっ、だらしないぞ。少し鈍ってるんじゃないか?」
「そうかもしれません」
「はっはっはっ」
朝から暑苦しいヤツだ。
しかし、今日の俺は違う。
「二人ともおはよう」
「おはようございます、マスター」
「おはよう、マスター」
日が昇る時間。
まだ周りは、昨夜の騒ぎのせいで寝ている。
早起きだなって? ふふ、ソシャゲは大抵翌日の更新時間が朝四時とか五時に設定されてる。
朝ログボをもらう生活を続けていたら、この時間に自然に起きるようになったのだ。
「うふふ、ふふふ…… さあ、ガチャの時間だ」
そう、石が貯まったのだ。
昨日のゴブリン戦と今日のログボを合わせると、ガチャ1回分になる。
十連分まで貯めないのかって? 知らんな。
俺はこの時のために生きてるんだ。
黒い板の表面を触ると、光が灯る。
今週のピックアップがバナーに表示される。
よかったまだ魔法職がピックアップされている。
狙うはミルワ。
まあ、魔法職の高レアならなんでもいい。
頼む。
出てくれ。
「いくぞ!」
渾身の一回。
目の前に光が集まる。
色が変わる。
青から金に。
そして金から虹色に輝く。
「きた、きたぞ!」
光が収束する。
「ヤッホー、ノーラだよー、よろしくねマスター」
目の前に現れたのは、胸元を強調したポーズの美少女。
こいつは確か…… クレリックだったか。
回復役だな。
レアリティは…… SSR。
エス、エス、アール!?
「完全勝利」
俺はついに、このクソガチャに勝利した。
名前:ノーラ
職業:クレリック(水鉄砲)
属性:水
レアリティ★★★★★(SSR)
今週のピックアップキャラ。
ワンピースのようなパーカーは前が大きく開いていてへそまで見える。
中はビキニの水着らしい。
お気に入りに設定するとホーム画面で乳揺れが見られる。
純粋な回復職ではなくバッファーに相当する。
そのため高レアの回復職としては評価が低い。