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小さな星の日めくり文明開花  作者: 松乃森スバル
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神の目モード

僕が神様としてアヴァルの一族に炎と槍を与えた次の日、洞窟の外に居たガウルの追い払ったことで、ようやくこの星の人類とも言える彼等の絶滅の危機は去った。


「神様、本当にありがとうございます!」


そう言ってユルズはホッとしたように笑ったが、しっかりと生活基盤を確立するまではまだ油断できない。

僕はしばらくこの若いアヴァルとして群の指揮を担うことにした。


僕が憑依している若いアヴァルは彼等の言葉では大木を意味する『ルムダ』と呼ばれているらしいが、このルムダにみんなが付き従うようになっていた。


これまで一族を率いて来たのは代々の年長アヴァルだったようだが、その老アヴァルもまたルムダの言葉に従った。

ルムダの言葉は彼等にとっては大地の神であるユルズの言葉そのものだと考えているのだろう。

この群れで初めて、強く、賢く、誰もが認める『リーダー』が誕生したのだ。


「神様、この子達はこれから先も大丈夫でしょうか?氷河期がずっと続いたら、また・・・」


大地の神と崇められるユルズに神様と呼ばれるのには違和感があるけど、不安そうにつぶやく彼女の言葉はもっともだ。

暖かく、食べ物も豊かな土地に住んでいた彼等が寒く、食べ物も乏しい氷河期を生き抜けるはずはない。


「当面の課題は水と食料の確保だね。この洞窟を棲みかにすればまたガウムに襲われることもないだろう」


「みずとしょくりょうですかぁ?それがどんな物かは分かりませんが上からなら探しやすいかもしれません!」


そうか、上空から地表を見て探せばいいのか!

まさに神の目だな。やはり僕は神様で決定だ。


「よし!なら一旦、意識だけの神の目モードに戻るか・・・、よっと!」


あれ、出られない?出方が解らない・・・。

というか、身体から意識だけを出すっていうイメージが全く沸かない。


「あのぉ、何やってるんですか?神様」


洞窟の天井付近で振り返ったユルズがぴょんぴょん跳び跳ねたり、頭を振ったりしている僕を不思議そうに見下ろす。


「いや、あの、出られないんだけど・・・。どうやって出るの?」


「あの、そもそも私はそんな風に『入った』ことがないので分かりませんよ」


もしかして、僕このまま?この氷河期の中で生きるの?!


思いきりジャンプしてみるもダメ、背伸びをしてみるもダメ。

渾身の力を込めて精一杯万歳をしてみたが、抜けない。

ユルズも困ったような表情でふわふわ浮いたまま間抜けな踊りをする僕を見ている。

そんなユルズにダメ元で思いきり手を伸ばす。


「もういっそ、このまま引っ張り上げてくれ~!」


「だから、私は意思だけの存在だから触れられないって・・・」


やれやれという風にユルズは僕の手を取る。思いきりユルズが引っ張ると、栓を抜くみたいにシュポンと身体から抜けた。


「おおっ!抜けた!」


「あわっ!!」


抜けた勢いでそのままユルズの身体に突っ込み、洞窟の壁をすり抜けて外に放り出された。

僕はとっさにユルズの小さな身体を抱き留める。

息がかかりそうな距離にあるユルズの小さく整った顔に妙にドキドキしてしまった。

おい、相手は星だぞ!マニアックすぎるだろ・・・。


「あ、あの、そろそろ話して欲しい、です・・・」


頬を染めてもじもじしているユルズを抱きしめている事に気がついて慌てて手を放す。


「ん・・・?あっ、身体がある!」


自分自身を見ると、ぼんやりとした光のモヤが手や身体、足を形作っている。

アヴァルの中に入ったことで、自分の身体のイメージを意識できたからだろう。


「なぁユルズ!俺ってどんな顔してる?!」


「ん~、まだモヤモヤでよく解らないですね~」


目を凝らしながら、ユルズが僕の顔に顔を近づけたり遠ざけたりして見てくれているけど、ハッキリしないらしい。

何か顔の特徴でも解れば、自分の事を何か思い出すかもしれなかったのにな。

身体も復活したし、そのうちまた思い出すだろう。


「まあ、解らないなら仕方ないな。水と食料を探すか!」


頭を切り替えて上空を飛びつつ地表の様子を観察する。

と、あっという間に太陽が沈んで地表は夜の闇に包まれた。かろうじて月明かりで地形が解る程度。


「えっ!さっきまでまだ朝だったのに?!」


少し空を移動しただけなのに夜になってしまったのだ。

僕は今度は慎重にゆっくり前に進むと、それに合わせて夜空もゆっくりと回転する。

つまり神の目モードで移動すると、地上の何倍も早く時間が流れるらしい。

今のアヴァル達の状況は、生存しているだけでぎりぎりと言えるから、神の目モードのまま遠くまで偵察に行ってしまうと、戻るまでの間にアヴァル達が絶滅している可能性だってある。

これ以上進むのは得策ではないな。


僕はこの場所から眼下の地形に目を凝らす。

真っ暗な地表に光るものは無く、明かりといえば月を背にした高い活火山の加工が赤く光っているだけだ。


ふと見ると、火山の周りの空に点々と黒い影がいくつも浮かんでいる。

しばらく見ていると、その影は回転してたり、ぶつかり合ったりとそれぞれが不規則に動いている。

月の光に照されたそれは、表面がゴツゴツした大小様々な岩石だった。

火山の周囲に同心円上に分布してるところから見て、火口からの噴出物かもしれない。


「神様~、なにか見つかりました?!」


「あ、いやまだこれと言ったものはないなぁ」


今は浮いてる岩よりも水や食料を探す方が先だ。

もう一度、遠くの地表を眺めていると、火山の麓辺りに月の光を反射している平らな面を見つけた。

あれ程大きな水平面はきっと凍った湖に違いない。

できればあの湖の畔に住めたらいいけど、完全に凍りついた湖や地面の上で生活するのは難しい。

近くの地表で動く黒い粒々は最初に見た大型獣だろうから、狩場も近い。


やはり問題はあの場所の厳しい寒さだった。

それをどうにかしないと移住は難しいか・・・。


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