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小さな星の日めくり文明開花  作者: 松乃森スバル
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文明の夜明け

寒さに震える猿に似た種族を眺めながらロリ少女に疑問を投げかける。


「君のせいってどうゆうこと?この寒さは君が原因って事なの?」


「なぜなのか私にも分かりません。この見た目どおり、私はたぶん生まれて間もない存在でしょうから・・・」


僕は頭の中の埋もれた知識を引っ掻き回してみる。特に『星』に関する事を思い出せば、僕自身の記憶にも繋がる気がした。

・・・雪と氷に閉ざされた星。適応できない生き物が絶えてゆく時代。


頭の中に一つの答が浮かび上がった『氷河期』というやつだ!


「君は今、氷河期なんだよ。確か定期的に必ず来るものだからどうしようもないんだ」


それは星の人生の中で様々な要因で定期的に訪れる不調期みたいなものだ、と思う。なぜ知っているのかは全く思い出せないが・・・。


「ひょうがき?・・・必ず来るものであっても私の身体で起こっていることですから、私のせいなのは間違いありません!これはどうやって治せばいいんですか?」


思い詰めた表情で訴えかけてくるロリ少女に僕は何も答えることが出来ない。

氷河期というのは解っても、それを治す方法はなぜか全く思いつかなかった。きっと元々、その知識は無いのかもしれない。

氷河期を治すことはできなくても、絶滅を救う方法ならあるかもしれない。

一番の難題はこの『寒さ』なのだ。

寒さを感じさせないもの。温めるもの。雪と氷しかない地表にそんなものなんて・・・。


周囲を見渡す俺の目に飛び込んできたのは、赤い溶岩を噴き上げる遠くの火山だった。


「あっ!・・・火だ!」


「ひぃ?」


僕の叫びにロリ少女が不思議そうに繰り返す。

頭の中に浮かんだ映像は熱く、赤く燃える炎だ。僕はこれが火というものだと知っている。そしてその熾し方もなんとなく解った気がした。


僕は洞窟の中を覗き込んで棒切れを探すと、手を伸ばした・・・、が手が無い。

そうだった!僕は体が無い意識だけの存在なんだ!

無意識に手でつかもうとしたって事は、こうなる以前は手をもつ存在だったってことだ。


「あれをこうして、ああすれば火が熾せるのに!こじゃあ何も助けられないじゃないか!」


「私たちは意思だけの存在ですから、物体に触ることは出来ません・・・」


と、ロリ少女が力無く笑う。

するとその時、うずくまって震えていた一匹の雄がふと立ち上がると、僕が掴めなかった棒切れ掴み上げた。

どうやらこの生物には僕達は見えていないようだが、俺の意識めいたものを感じたのかもしれない。

そう!それだよ!それをあそこに落ちてる木の割れ目に・・・、


「って!かじるんかいぃ~!」


ただ単にお腹を空かせていたと見える。

くそ~、折角手に持ってるのに。僕ならすぐに火を熾してお前の家族を救ってやれるのに・・・。

何も出来ない自分を恨めしく思いながら、僕はじっとその雄を見つめる。


・・・僕がお前なら・・・


その瞬間、視界が一瞬でスライドするように移動した。何だか急に身体が冷えてきたし、お腹がかなりムズムズする。

これって寒さと、空腹感だ!

慌てて自分の手を見ると、大きくて骨ばった手がある。自分を見ると薄い毛皮を巻いた屈強な身体があった。

あれ?何これ?僕があの雄に入った?


「ええっ!あなたその子に入ったんですか?凄い!そんな事考えたことも無かったです」


たぶん『入る』という感覚をイメージできたのは、やはり無意識に身体の存在を覚えていたからだろうな。

すると、急にキョロキョロし始めた僕に向かって、壁際で震えていたもう一匹が声を掛けてきた。

よく見ると、この種族は少し突き出た黒い鼻に、毛に覆われた頭の両側には同じく毛に覆われた尖った耳が付きだしている。


「オイ、ドウシタ」

(おい、どうした?)


不思議ともう一匹の言っている事が分かった。たぶんこの雄の意識に入ったからだろう。

新しい感覚に戸惑いつつも、僕は平素を装う。


「ヤハリ、タベラレナイナ」

(やはり、食べられない)


「アタリマエダ。ソトニガウルサエイナケレバ、ナニカサガシテコレルノニ・・・」

(当たり前だ。外にガウルさえ居なければ、何か探して来れるのに・・・)


外にガウル?

木や枝で塞がれた洞窟の入り口からそっと外の様子を伺ってみると、木々の間に何頭もの大きな獣がうろついていた。

身体は針金のような毛に覆われ、突き出た口には長い牙、前かがみに二本足で歩くその獣の手には長い爪が光る。

おそらくこの一族は、ガウルの群れに追われて洞窟に逃げ込んだのだろう。広い洞窟では雌や子供を含む二十数匹が飢えと寒さに震えていた。


「ココニイテモシヌダケダ。マズ、アタタカクシナイト」

(ここに居ても死ぬだけだ。まず、暖かくしないと)


「アタタカク?カリヲシナイトケガワナンテトレナイゾ・・・」

(暖かく?狩りをしないと毛皮なんて取れないぞ・・・)


狩りをするには出て行かないといけないが、外にはガウル。

そう言おうとして、諦めたようにその一匹は途中で言葉を切った。生きる希望を失い、全滅の危機に瀕した彼等を救えるのは僕、いや僕が憑依したこの一匹の雄だけだった。


僕は手に持った棒切れと洞窟の入口付近の枯草や枝を手に取ると、転がった太い木の割れ目にあてがう。

ここが洞窟だったおかげで雪に濡れることもなく、木々はよく乾燥していた。

割れ目に細い枯草を詰め込むと棒切れでその隙間を一心に擦る。


「ナニヲヤッテルンダ。コイツ、アタマガヘンニナッタゾ」

(何をやってるんだ。こいつ、頭が変になったぞ)


妙な事をし出した僕の周りには何匹かが集まり不思議そうに眺めている。

僕の横ではロリ少女もまた頭に?マークを浮かべたような表情をしていた。


すると徐々に焦げ臭い臭いと共に木の割れ目の枯草から煙が立ち上る。

次の瞬間、小さくとも力強い炎が辺りを照らした。


その火種を絶やさないように、慎重に木をくべて大きくしてゆく。


「オオオオッ!」


「ヒエェェッ!!」


初めて見る炎にその生き物は逃げまどって洞窟の壁際にうずくまる。

枯草から小枝、そして細い枝を積み上げ、やがて炎は瞬く間に大きなたき火へと成長した。

僕が炎を扱うその様子を見ていたその生き物が怖々と近づいて来る。


やがて、明るい炎の周りには最初は怯えていた彼等が集まり、その温かさを全身で感じていた。


「アタタカイ。コレハナンダ?」

(暖かい。これは何だ?)


「コレハ『ヒ』、『ホノオ』ダ」

(これは火、炎だ)


僕がその名前を教えてやると、彼等は口々にその名前を言い合い、希望に満ちた笑みを浮かべる。


周囲が夕闇に包まれても、炎の光と温かさが彼等を包み込み、厳しい寒さやガウルの襲撃から守った。

東の空が白み始め、夜が明けた。

この夜は誰も寒さや獣の餌食にならずに済んだ、と嬉しそうに彼等は語った。


それがこの種族が初めて『炎』を手にした、文明の夜明けとなった。

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