鉄柵
黒くて大きな鉄柵があった。その向こうには畳のような芝生。しかしそれらの所有者らしい大きな邸宅は見当たらない。なにしろ視界が全体として大きく白み、ほとんど焦点を合わせた先しか見えないのだ。
いつの間にか鉄柵のすぐ向こうに一人の少女が立っていた。身長はよくわからない。波に揺られているように大きさが定まっていない。顔立ちもスタイルもにおいも、目の前にいるはずなのにいまいち頭の中に入ってこない。目に映ったものが、脳ではなく目そのものが消化しきってしまっている。そして視界はなおもぼんやりとしている。
しかし、彼女は理想的な女の子だった。その存在以外に、たしかなものは一つとしてつかむことはできていなかったが、それでもたしかにわかるのだった。ずっと夢に描いていた、求め続けていた人。意識そのものが、独立して体を抜け出して近づこうとする。しかし私は、次があると思っている。
彼女はそこでなにをしていたのか、なにかをしていたことは間違いないのだがどうしても思い出すことはできない。そして私自身も、なにかをしたはずなのだが記憶はなにひとつ残っていない。そしてもちろん、あれから一度も彼女には会えていない。
超短編です。掌編というのでしょうか。夜中に作業をしているとき、ふと書いてみたくなったので息抜きに執筆してみました。
普段書いている短編はもっと長く、短編らしい短編なのですけれど、今回は時間もあまりなかったのでこのような形になりました。