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最強と破滅と運命と  作者: シェイフォン
7/10

第六章

 五月と言えば大型連休。

 日頃クラス代表の忙しさに忙殺している僕でも五日の休みが与えられる素晴らしい出来事。

 島から出ても良いので早速僕は愛する妹と連絡を取り、街中で待ち合わせすることにした。

「あ、お兄ちゃん。こっちこっち」

 約束の十分前なはずなのに妹はすでに待っている。

 セミロングの髪を軽くまとめ、全体的に明るい色の洋服。

 身内びいきかもしれないが、やはり妹のセンスは高い。

 魔術に関係ない、一流芸能人の服をコーディネートする職業に就くのもありだな。

「悪い、待たせたか?」

 誰であろうと人を待たせるのは嫌な性分な僕は頭を下げる。

「ううん。私も今来たところだから気にしなくていいよ」

 フルフルと頭を振って何でもないと答える妹。

 それが真実なのか、それとも社交辞令なのか今の僕には知るよしないが、詮索しても誰も得しない、どころが妹が拗ねて僕に被害が及ぶのでスルーが正しい。

「優香よ、お前、ちょっと変わったな」

 ざっと下から上を眺めての言葉。

 別れる前までは、まだまだ誰かの後ろに隠れる甘ちゃんの雰囲気があったのに、今だと誰かの横に立つ凛々しさに変わっている。

「うん、嬉しい嬉しい」

 言葉とは裏腹に少し悲しさを覚える兄である。

「そういうお兄ちゃんこそ……うん、凄いね」

 妹よ、何が凄いのか教えてもらおうか。

 ついでに一瞬目が泳いだ理由も。

「お兄ちゃん……あの第ゼロ学園に行っても変わらないんだね。学園が噂に聞くほど大した場所じゃなかったのか、それとも単にお兄ちゃんが強すぎるのか、どっちかな」

「さあな、知らん。前者だろうが後者だろうが僕にとってはどうでも良い」

 重要なのは僕が変わらなかったことであり、その理由など考慮する必要はない。

「お兄ちゃん、私が言うのもなんだけど、お兄ちゃんは取り返しのつく今のどこかで負けないと駄目なんだよ。そうでないとお兄ちゃんの命だけでなく、周りが苦しむ」

「……」

 つまり僕の挫折を知らない性格が致命的な間違いを犯すということか。

 まあ、それは否定しないな。

 絶対に折りたくない何かを折ってまで生き延びようとは思わない。

 僕は喜んで死刑台の階段を登ろう。

「ごめん……この話題は止めておこうね」

「そうするか」

 殺伐する方向に流れ始めたのを察知した僕と妹は素早く頭を切り替える。

 この手の話題は考えを深めてもしんどくなるだけである。

「妹よ、一つ聞いていいか?」

 僕は妹の後ろに目を向ける。

「あ~、うん。言ってなかったよね、ごめん」

「いや、優香が謝る必要はない。謝らなければならないのはそっちだ、馬鹿三人共」

 僕の白い眼の先。

 そこには忘れもしない、妹と同じく第一学園に入学した三人衆がいた。

「いやあ、バレちゃったか」

「さすがだ、御神楽」

「私達は繋がっているのよね」

 ……こいつら。

 戯言はともかく、わざわざ第一学園の制服で着やがって。

 破いてやっても良いんだぞ?

 と、まあそんな冗談はともかく。

「なるほど、これが噂に名高い集団行動か」

 規律と団結をモットーと掲げる第一学園は何よりも集団行動が求められる。

 噂によると寝食はもちろん、トイレまでパーティーと一緒だとか。

 そうやってパーティー同士の結束力を高めるらしい。

「まさか、今は休日は各々の自由行動だよ」

 あれ?

 優香が笑いながら否定する。

「この三人はね、勝手についてきちゃったの」

 一瞬優香がゴミを見るような眼を浮かべる。

 それに気づいているのか、馬鹿三人衆は胸を張って。

「そう! 俺達は御神楽優香と一心同体!」

「どんな時も離れまい!」

「私達は最高のパーティーなのよ!」

 シャキーン。

 と、効果音が出そうなポージングを馬鹿三人衆が決めた。

「優香よ、お前は取らないのか?」

 からかい交じりに僕がそうせっつくと。

「ねえ燃えない集団粗大ごみ? 私は別に貴方達なんてどうでも良いんだよ?」

 と、目が全く笑っていない笑顔で馬鹿三人衆をけん制する。

「おおう、怖い、怖いよ優香様!」

「優香様がいなくなれば俺達はどうすれば良いんだ!?」

「学年の最底辺で堕ちろと! なんて酷い!」

 優香の笑顔に震え上がり、叫ぶ三人。

 なるほど、少し見ない間に優香がたくましくなったのはこの馬鹿三人衆を率いていたからか。

「お前らも優秀だろうが」

 認めたくないが、この馬鹿三人衆は有名校である第一学園に合格できるほどの実力はある。

 が、腹立たしいことに、こいつらは楽することを最優先に考える節があるので、僕はしょっちゅうこいつらに鉄拳制裁を加えて動かしていた。

「お兄ちゃんが力を振りかざす理由が分かったよ」

 優香は珍しく疲れた表情を浮かべる。

「ふふん、ところで御神楽よ。何か忘れていないか?」

「何が?」

「それは四対一であること、そして俺達はお前に恨みを持っていることだ!」

「はあ?」

「中学時代、よくも理不尽な命令と暴力を繰り返してきたわね! 覚悟しなさい!」

「……」

 こいつら、自分達が上だと思ったら途端に調子乗りやがって。

「御神楽よ、我ら第一学園の神髄は集団行動にある!」

「俺達は一対多において効率良い戦い方を専門に学んできている!」

「さあ、尋常に、正々堂々と勝負よ!」

 いや、一対四の時点で正々堂々ではないだろうが。

 まあ、第一学園の考えは理解できる。

 第一学園の方針は徹底して有利な状況を作り、そこで戦うこと。

 少しでも不利と見れば撤退を視野に入れる。

 だからこいつらの言い分は間違っていない。

 が、それが通用するかは疑わしい。

 良いだろう、勘違いした馬鹿三人衆の鼻を叩き折ってやろう。

 だが、その前に。

「やっと来たか」

 僕が振り返った先にいたのは。

「ごめーん、遅れてもうたー!」

 大阪代表の堺さんと兵庫代表のフィールさんの二人だった。

「まったく、堺さんはたこ焼きをゆっくり食べるから」

「しゃあないやん! 東京で売っとるたこ焼きがどない味か気になってん!」

「だったら持ち帰りにすればよかったでしょう」

「いややあ、やっぱたこ焼きは出来立てが一番うまいねん!」

 と、二人仲良く漫才を行いながらこっちに来る。

「あ、あれは?」

「破壊姫と血の姫!?」

「な、なんでそんな恐ろしい人たちがここに?」

 あれ? 彼女達も来るって言ってなかったっけ?

 僕は優香を見ると、妹はニコニコしながら。

「もしお兄ちゃんが私の立場なら教えると思う?」

 ……いや。

 面倒くさいから放っておくな。

「……つまり優香がリーダーか?」

 優香のスキルは対象の心身に影響を与える支配系。

 支配系は特定行動の制約を外す、もしくは促進する。

 リーダーという意味では優香のスキル以上に適任はない。

「いや、今回は優香様の手を煩わせるわけにいかない!」

「そうだ、俺達の力で勝つことに意味がある!」

「御神楽君の相手に優香様が出る幕ではないのよ!」

 ……本当に。

 教科書に載せたいぐらい見事な雑魚のセリフだ。

「瞬間で終わらせるぞ」

 長引かせるつもりはない。

 さっさと馬鹿三人衆を退場させる。

「みんな! 作戦通りに!」

 優香のその言葉に散会する三人。

 どうやら優香もこの状況が来ることを予想していたらしいな。

 お見事と言っておこう。

 だがな、世の中には予想しても、対策を打ってもどうにもならないこともある。

 それを今、僕が教えてやる。

『条件--衝撃が二倍』

 スキルを発動し、そう条件を設定した僕は財布から小銭を取り出して投げつける。

 ただの小銭。

 だが、条件によって威力が上がり、馬鹿三人衆はスキル及び魔法を使える状態に移動できない。

 足を止めた馬鹿三人衆の中で誰を狙おうかと考えた矢先、最も力と耐久力に優れた裕也が立ち塞がる。

「ふふ、御神楽よ。まずはこの裕也が--」

「邪魔」

 付き合う義理はない。

 僕は全体重を乗せた炎の回し蹴りがさく裂し、レジストごと裕也は吹っ飛んでいった。

「瞬殺だと!?」

「嘘よ! 前提が崩れたわ!?」

 残った二人が慌てる。

 なるほど。

 思うに裕也を壁とするのが常道だったのだろう。

 さて、どうするかお前ら。

 リーダーなしでどう対応する?

 僕がそう期待すると同時、優香は手を上げる。

「待った、お兄ちゃん!」

 は?

 待った?

 何それ?

「んもう、駄目だよ。裕也君を瞬殺したらこの人達何もできないで終わるじゃん」

「ああ、そう」

「だからやり直し!」

「……はい」

 突っ込みたい僕だったが、優香の剣幕に押されて頷く。

「いてて……死んだばあちゃんに会えたぜ」

 嘘を吐くな、裕也。

 お前のばあちゃんはまだ生きてるだろうが。

 二回目。

「いいこと、お兄ちゃん。絶対に裕也を倒しちゃだめだよ!」

「ああ」

 どうやら優香のパーティーは裕也が健在なことを起点としているらしい。

 不完全かと思ったが、高校一年に完全を要求しても酷だろう。

「ほら、どうするんだ?」

 ただ突っ立っとくのも何なので適当に魔法を放つ僕。

 やる気が大幅ダウンしているのは仕方ないだろう。

「ふふふ、そこで俺登場! 蝶のように舞い、蜂のように刺ーす!」

 馬鹿三人衆の一人--和彦が僕に魔法を放ってくる。

 やはりというか、こいつが攻撃か。

 速度、威力共に申し分ないけど。

「有村先輩ほどじゃない。レジスト」

 避けるまでもないしスキルを発動するまでもない。

 レジストするだけで十分だ。

「はい、効かない。で、どうする?」

 和彦の息が上がるまで存分に魔法を打たせた僕が優香にそう問いかける。

 答えは--

「待った、お兄ちゃん!」

 そうですかい。

「ほら、アタッカーの和彦君の攻撃を避けて。でないと前提が崩れちゃう」

「はいはい」

 僕、もう帰りたくなったんだけど。

 三回目。

 裕也に足止めされ、和彦の攻撃を避ける。

「ほらほらどうした御神楽?」

「ふん、やはりこの程度というわけか」

 ……こいつら。

 いい気になりやがって。

「で、残った明美はどうする?」

 僕は最後の馬鹿三人衆に尋ねる。

「ふふん、決まってるじゃない。裕也に足止めを食らい、和彦に回避を専念されている。となれば必然的に私への警戒心が弱まるわ」

「前口上は良い。さっさとやれ」

 見ろ、大根芝居を見せられている堺さんとフィールさんはもうたこ焼きにしか興味がないじゃないか。

 ……後で僕ももらおう。

「喰らいなさい。これがとどめの一撃--グランド・ファイア-!」

「ほう、その中級魔術か凄いな」

 中級魔術の中でも威力に限れば上級魔術に匹敵するグランド・ファイアー。

 僕達の年代なら最強クラスの威力を誇る。

 だけどね。

「避けたら駄目よ! 御神楽君!」

「いや、だって……」

 その分大振りで一対一ならまず使わない魔法。

 使用するなら相手の動きを封じる魔法を使っておくことが大前提となる。

「うぬう、このままでは」

「くっそ、俺も魔力が」

「さっさと当たりなさいよー」

 馬鹿三人衆の叫びをあげさせた僕だが達成感は全くない。

 むしろなんで僕はこんな茶番に付き合っているのか真剣に考えてしまう。

 ああ、本当に馬鹿三人衆。

 僕をここまで疲弊させるのは君たち以外いないよ。

「御神楽、なんでそんなに凄いんだ?」

「俺達も決して遊んでいたわけじゃない」

「そうよ、どれだけ苦しい思いをしたか」

 耐えきれなくなったのかこいつらは攻撃を中断し、肩で息をして疲労度を伝えてくる。

「いや、そんなん言われてもな」

 僕も決して寝ていたわけじゃないし。

 むしろ戦いの毎日だったな。

 クラス代表として自分のクラスメイト若しくは他のクラスメイトから襲撃される日々。

 こいつら、隙を見せたら襲ってくるからな。

 寝込みやトイレ中もお構いなしに攻撃してくるんだぞ?

「僕も君達と同じく必死だったというわけだ」

 第ゼロ学園は一人で生き抜くすべを教えられる。

 どんな逆境に陥ろうとそこから全てをひっくり返す知恵と経験を教わる。

「一対多など僕にとっては日常茶飯事さ」

 僕は思わず歯を見せて笑った。

「うーん、やっぱり三人だけじゃ意味ないか」

 と、ここで事態を静観していた優香が口を開ける。

「ごめん、お兄ちゃん。私も入って良い?」

「……」

 リーダーたる優香が入るのは当然。

 むしろそれでこそ第一学園の真価が発揮される。

 その意味から言えば優香の参戦は至極最もだが。

「堺さんとフィールさんも加えて良いか?」

 ヤバイ。

 僕の勘が告げている。

 優香が入ったパーティーは別物だと。

「面白そうやな、うちはええよ」

 堺さんは指先に付いたソースを舐めながら笑う。

「そうね、あの御神楽さんの妹ですもの。興味はあります」

 フィールさんも了承。

 二人とも優香はただ者でないと読んだのだろう。

 その予想は--的中した。

「通しはしない!」

 裕也の硬さは堺さんの攻撃を跳ね返し。

「おらおら、喰らえ!」

 和彦の攻撃にフィールさんは防戦一方。

「そうそう、止まってくれないと」

 僕は明美の魔法を受けざるを得なかった。

「なんやこいつら!?」

「ちょっと違いすぎませんか!?」

 変貌ぶりが二人の予想を上回っていたのだろう。

 上ずった声で劣勢であることを訴える。

「……」

 僕は考える。

 果たして優香のスキルは何なのか。

 何らかのスキルが発動していることは間違いない。

 これだけ性能が上がるとなると限られてくる。

 優香は支配系、他人を意のままに操る。

 もしかして--

「……優香、お前はこいつらのリミッターを外したのか?」

 人は無意識的に制限をかけている。

 全力を出したと思っていても十パーセント、火事場の馬鹿力でもせいぜい三十パーセントぐらいらしい。

 優香のスキルによって百パーセントを出させるのならばこの事態に説明がつく。

「ご名答、お兄ちゃん」

 カマかけするつもりはないのだろう。

 あっさりと答えた。

「何故そのような進化を遂げさせた?」

 スキルは決定ではなく、魔術師の性格と周囲の環境によって変化する。

 優香の元のスキルは抑制。

 相手の思考や行動の一部を封印するスキルだったはず。

「変えたんだよ、お兄ちゃん」

 優香は何でもないと言わんばかりに笑う。

「このスキルだと第一学園で生き残っていけない。だから変えた、それだけ」

 つまりは必要に迫られてか。

 一見すると正しい言い分だが、そこには致命的な問題点がある。

「優香、そのような他を壊すスキルに変更して良いと思っているのか?」

 このスキルは危険だ。

 一度発動するごとにかけられた者に深刻な影響を及ぼす。

 今はまだいいかもしれないが、それは時限爆弾と一緒。

 そう遠くない未来、こいつらはまともな人生を歩めなくなるだろう。

「確かにこいつらは馬鹿でめんどくさがりで、人をイラつかせるために生まれてきたのかと思う程クズな奴らだが」

「ちょ!? そこまで言う!?」

「アハハ、相変わらず容赦ないねえお兄ちゃん」

「それでもこいつらは今、僕が頑張れば救える位置にいる。ならば引きずってでも救い上げてやろう」

 世界を救うなどと高尚な思いは持っちゃいない。

 ただ、僕が手を伸ばせば救える位置に人がいるならば救って見せよう。

「どうやって救うの?」

「具体的には優香の背骨を折る、または脳にダメージを与える……魔法でもどうしようもない傷を負わせ、学園生活どころか一生介護が必要な生活を送らせる」

 ただの病院送りでは馬鹿三人衆の壊される時が先延ばしになるだけだ。

 退院すればまたスキルを使い、馬鹿三人衆や他人に致命的な影響を与えてしまう。

 だったらここで壊す。

「まあ、加減を失敗して死んだ場合、僕も責任を取ろうではないか」

 いくら事故が多い魔術師同士の戦いとはいえ、死人が出た場合は当然罰せられる。

 しかし、僕はそれを甘んじて受ける予定だった。

「アハハ……」

「なあ、御神楽はん、冗談やろ?」

「まさか血の分けた妹にそこまでするなんて」

 優香のみならず、堺さんやフィールさんまでドン引きしている。

「お兄ちゃん? ここは負けて挫折を味わうところ--」

「そっか。でも、優香の予定に僕が合わせる必要なんてどこにもないだろ?」

 必要と判断したら必要なダメージを必要な対象に与える。

 それがどんなに苦しくともやらなければならない。

 下手な情けや同情を賭けたところで得になった試しなど一度もないしな。

「さあ、やろうか」

 僕が一歩足を踏み出すと、何故か馬鹿三人衆が立ち塞がる。

「ここは退こう優香様!」

「いつもシバキ倒されてきた俺達だから分かる!」

「御神楽君は本気よ! 逃げなきゃ本当に人生が終わるわ!」

 僕に鉄拳制裁を食らうことに一日の長があるこいつらは口々に訴える。

「うん……でも」

「デモも街宣もない!」

 なおも渋った優香だが、最終的に馬鹿三人衆に拉致されるように去っていった。

「……行ってしまったか」

 優香と馬鹿三人衆を僕は追いかけない。

 追いかけたところでどうしようもない。

「ごめん、予定が狂った」

 僕は振り返って二人に謝る。

「いや、別にええけど」

「私は気にしてません」

 堺さんもフィールさんも了承したが、二人とも顔色が浮かない。

「なあ、かぐらん。本当にやるんか?」

「何を?」

「妹さんの人生を終わらせることを」

「……さあ」

 分からない。

 あの時は本気で終わらそうと思ったが、いなくなった今、そこまで強い気持ちを持っていない。

「御神楽さんは妹のことを大切に想っているのですか?」

「当たり前だ」

 大切だからこそ、愛しているからこそ成り行きに任せることなど出来やしない。

 地獄へ突き進もうとする大切な人をどうして横で見ていられようか。

 そう、例え誰も得しない結末になろうとも。

「難儀な性格やな」

「確かにな」

 自分で言うのもなんだが苦笑しかできなかった。

「悪い、ちょっと一人になって良いか?」

 まあ、一人になったところで妙案が出るとは限らないんだけどな。

「らしくないよなぁ」

 妹を追わず、心配してくれる仲間に相談もしない。

 客観的に言えばこれは逃げに入るのだろう。

「やれやれ、これが俗にいう『葛藤』か」

 うだうだ悩んで進もうとしない人を僕はもう笑えまい。

 僕は不本意ながら一つ学んだ。


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