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最強と破滅と運命と  作者: シェイフォン
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第一章

 僕としては受けるだけだった。

 受験対策など全くせず、面接も適当に済ませた。

 あれで受かるわけがない。

 そう確信していた僕だったのに。

「……受かってしまった」

 玄関前にて僕は頭を抱える。

 知りたくなかった事実。

 今朝、速達にてあの学園--第ゼロ学園の合格通知が届いていた。

「やばい、死にたい」

 専願受験のため第ゼロ学園への入学は決定。

 高校生活は始まってもいないのに終わってしまった気がした。

「ねえねえ、お兄ちゃん。何で膝をついているの?」

 そんな僕に声をかけるのは妹の優香。

 僕の同い年の中学三年である。

 別に双子とか血の繋がっていない兄妹とかではない。

 れっきとした血縁関係、僕が四月生まれで妹が三月生まれ。

 うん、両親は本当に何をしているんだよ。

「優香、僕は三年間監獄に行くんだよ」

「監獄? どうして? 第ゼロ学園って最高の魔術師養成機関だよ?」

 第ゼロ学園。

 それは全国大会最多優勝校。

 都内の離島に建てられた学園で育った魔術師は何処でも通用するとして評価が高い。

「秩序も何もない酷い学園だぞ?」

 去年オープンハイスクールに参加した僕は分かる。

 と、いうより新宿よりも南鳥島の方が距離的に近い時点で察しが付くだろう。

 あれは学園じゃない。

 猛獣を入れる動物園だ。

 いや、恐竜が闊歩するジュラシックパークとでも呼ぼうか。

 あんなところで三年間過ごせば、そりゃあ強くなれるよ。

 なれなかったら死ぬもん。

「なんでその第ゼロ学園なんだよ。都心にも養成高校はあるのに」

 都内の学園の中でも僕が入学したかったのは第一学園。

 あそこで秩序は何たるかを学び、僕の魔法に生かしたかったのに。

「あんなところは人が入るところじゃない」

 と、僕は鼻を鳴らすけど。

「そうかなあ、お兄ちゃんにはぴったりな学園だと思うけど」

 我が妹はとんでもない発言をした。

「妹よ、なんて失礼な発言を。生徒会長として中学の治安を守ってきた僕に言うセリフか?」

 生徒会に所属し、三年間頑張ってきた僕。

 中学とその生徒達のために身を粉にしてきた僕になんてことを。

「だってお兄ちゃん。喧嘩を売りすぎ、私のフォローがなかったら生徒会どころか学校にいられなかったよ?」

「甚だしい誤解だ。僕は平和を愛する平和主義者だぞ」

「アハハハハハ! お兄ちゃんが平和主義? 朝から面白いこと言うねえ」

 腹を抱えて大笑いする我が妹。

 妹よ、温厚な兄だが時にはキレるぞ?

「だって私、一時誰からも敬遠されていたもん。あの御神楽圭一の妹だということで」

「……タイミングが悪かったんだ。けど、変なことを仕掛けた生徒は叩きのめしたから別にいいだろ?」

 病院送りでね。

 まあ、武士の情けとして後遺症は残さない程度に抑えたけど。

「うん、おかげで私はしばらくお兄ちゃんとは血の繋がっていない赤の他人だと言いふらさなければならなかったんだよ?」

「……」

 あれは辛かった。

 学内どころか家でも他人行儀で接してくる我が妹。

 妹に無視されるのは辛いと聞いていたがあれほど心に堪えるとは。

 もう馬鹿にするのはやめよう。

「……けど、私のことを想っては素直に嬉しかったけどね」

 と、優香は明後日の方向を向いてそうぽつりと漏らす。

 ……兄としてどう答えるべきだろう。

 普通なら聞き返す、もしくは無視するのがセオリーだがそれでは面白くない。

 僕は第三の選択をする!

「妹よ、それは素なのか演技なのかで兄の好感度が変わるぞ?」

 ……テンプレートって凄いんだな。

 そう言った瞬間我が妹の表情は消え、踵を返す。

 やばい、本気で怒らせたらしい。

 結局、駅の近くにあるスペシャルケーキを買ってくることで合意された。

「でも、中学三年の時点でスキルを覚えるなんてお兄ちゃんは凄いよね」

 道中、財布が軽くなることに絶望している僕に妹が声をかける。

 僕達魔術師は魔法とスキルの二種類を使用できる。

 一つ目はオーソドックスな魔法--火を出したり水を湧き出したり風を発生させたりといった誰でも使える魔法。

 人によって得手不得手はあるものの、努力すればある程度の魔法は使えた。

 二つ目はその人だけにしか使えないスキル。

 火属性の魔法を倍増、魔力消費半分といった補助系スキルもあれば破壊に特化した攻撃系スキルもある。

 ちなみにスキルを覚えるかどうかは本人の力量次第。

 大人でもスキルを覚えている者は一パーセント程度と言えば想像がつくだろう。

 スキルは魔術エリートの大前提なのである。

「神の領域か? まあ、凄いと言えば凄いかな」

 僕は右手に意識を集中し、黒の球を出現させる。

『条件--重力を十分の一にする』

 そう宣言した僕はその発生させた黒球を握り潰した。

 すると変化はすぐに現れる。

 体が妙に軽くなり、宙に浮いているような感覚に襲われる。

「わわ、いきなり発動させないでよ」

 突然のスキル発動に対応できていなかった妹は宙で手をバタバタさせていた。

「ん? 嫌ならレジストすれば?」

 レジストとは魔法やスキルを防御・解除する防御術。

 相応の魔力を放出することによって発動できる。

「んもう! 意地悪! レジスト不可のスキルの癖に」

「そりゃあ『神の領域』という大層レジストされない。

 どれだけ魔力を払おうとも、頭数を揃えようとも僕の出した条件に従わなくてはならない。

 僕の固有スキルは神の領域--それはレジストをされない物理法則の改変。

 どんな無茶苦茶な条件であろうと相手は僕の定めたルールを受け入れなければならなかった。

「我ながら素晴らしいスキルだよ」

 火力が高い相手だと火力を抑える条件を、素早い相手なら速度に制限をかける条件を。

 相手の得意状況を潰すことによって僕は全国大会二連覇を成し遂げた。

「やれやれ、人生は本当に理不尽だよ」

 大会優秀者は無条件にて東京都内の魔術学校への進学が決まっている。

 なのにどうして僕は監獄に近い場所へ行かせるのか。

 裏切られた気分だ。

「アハハ、でも、当然だと思うけどねえ」

「妹よ、お前もか」

 優香の無邪気なセリフに僕は某皇帝の最期を連想してしまった、



 で、予想通り僕の第ゼロ学園合格の情報は中学校にも伝わっていたらしい。

 登校中から周囲の生徒の目が生暖かい。

「なあ、御神楽って第ゼロ学園に入学するそうだぞ」

「まじかよ、そりゃあやべえ」

「あいつもとうとう年貢の納め時ってか」

 そんなまっとうな噂話は良い。

「ところで第ゼロ学園ってやばいのか?」

「知らねえ。けどあの御神楽が恐怖した学園だぜ」

「なるほど、それは確かにやばいな」

 僕を基準にして判断するのはやめてほしい。

 何? この狂人のような扱い。

 そりゃあ、確かに僕は異質だけどさあ。

「僕はこれまで一度も自分勝手な理由で魔法を使ったことはない!」

 溜まらず僕はそう吠えると。

「お兄ちゃん、正義を振りかざす人間ほど自分勝手な人間はいないんだよ?」

 と、後ろにいた我が妹がそう突っ込みを入れてきた。


 予想に違わず第ゼロ学園への合格を茶化してきた友人達への鉄拳制裁。

 卒業式後に行われたお礼参りという名の大乱闘。

 なんだこんだであっという間に第ゼロ学園へ向かう日が来た。

「これが監獄へと運ぶ悪夢の船か」

 ザザーン、ザザーン。

 波打つ音が耳朶を打ち、潮の香りが鼻をくすぐる。

 もう少し時期が遅ければカモメの姿も見えただろう。

 そう、僕は港にいる。

 この船に乗って第ゼロ学園へと向かうためだ。

 第ゼロ学園を監獄だと評した由縁はここにあった。

 その学園は島にある。

 しかも絶海の孤島、いくら水の扱いに長けた魔術師であろうと絶対に抜け出せない程潮の流れが速い場所。

 外部との交流が一切遮断された学園を監獄と呼ばないでなんと呼ぼう?

「まあまあ、住めば都というじゃない。気にしない気にしない」

 落ち込んでいる僕を妹の優香がなだめる。

 その言葉は確かに嬉しいが。

「僕が行きたかった学園に合格している者に言われてもね」

「アハハ、偶然偶然。私だって受かるとは思わなかったもん」

 妹はカラカラと笑う。

 そう、腹立たしいことに妹は今年から第一学園に通う。

 第一学園の場所は正反対の都会の中心地。

 霞が関の一等地にその学園は建てられていた。

「……誰も来ないね」

 妹は周りを見渡して静かに漏らすが僕はどうも感じない。

「皆も忙しいんだろ」

 この時期にわざわざ誰かを見送りに来るほど暇じゃない。

「それに、僕を見送りに来た時間があれば入学の準備を整えてほしい」

 僕の見送りに来たせいで準備がおろそかになれば目も当てられない。

 時間を縫ってまで来てほしいとは思わなかった。

「……お兄ちゃんって変なところで律儀だね」

 僕の言葉に優香は自分の頭を僕の肩に乗せる。

「些細なことでキレる子供かと思いきや、こんな大人らしい振る舞いもする……何年も一緒にいるけどよく分からないよ」

 僕はなんと返せばいいのだろう。

 適当な答えが見つからず、ただその場に立ち尽くした。

「それじゃお兄ちゃん、私行くね」

 僕から離れた優香は二、三歩下がって微笑む。

「私も帰って準備しないと」

「ああ、ここまで見送りに来てくれてありがとうな」

 優香も第一学園に入学する準備で追われている。

 そんな忙しい中でここまで見送りに来てくれたのは素直に嬉しかった。

「次に会う時は敵同士かも」

「アニメの見すぎだ優香、そんな大層なことはない」

 血の繋がった兄妹が異なる組織に属しているがゆえに殺しあう。

 物語としては面白いが実際にあったらたまらない。

「ライバルとしては面白いかもな」

 互いの学園の威信をかけて競争するのが関の山だろう。

「うーん、やっぱりそれが限界か」

 妹は本気で残念そうだ。

 なにこの反応?

 もしかして本気で兄と戦いたかったのか?

「まあ、とにかく頑張れよ」

「お互いにね」

 僕は右手を挙げる仕草をし、優香もそれに倣う。

 ハイタッチを交わした優香の手は柔らかかった。


「……」

 僕が船に乗ってほどなくして出港する。

 僕は船の後方デッキに位置どって陸を見ていた。

 さようなら、麗しき世界。

 僕はこれから混沌極まる世界に放り出されるんだよ。

 出荷される家畜の気分が少しだけわかった。

「うん?」

 陸から少し離れた海に一隻の船がある。

 一体あの船は何故あそこにあるのだろう?

 気になった僕はその船を凝視する。

 どんどん近づく船。

 そして乗っている人の顔まで分かるほど近づいた時、僕は複雑な気分になった。

「おーい御神楽ー」

「元気でやれよー!」

「達者でなー!」

 担任とバカ達を含めたクラスメイトや生徒会の面々がその船に乗り、エールを送ってきた。

「君達……」

 まさか陸でなく海からエールを送るとは。

 そのサプライズに僕は目頭が熱くなった。

「ありがとう! 僕は頑張るよ!」

 僕は声を張り上げ、あらんかぎりの力で両手を思いっきり振る。

「いえーい!」

 それに応えて船に乗ったクラスメイト達も振り返した。

 ……ここで終わったら美談になっただろう。

 しかし、あいつらがこのまま奇麗に終わらせるはずがない。

 一通り感動の場面を演出したあいつらはスピーカーを取り出して。

『えー、えー、船にいる皆様。今、乗っているのがあの東京の独裁者、ラブリーショタけーちゃん、前世は十字軍の総司令官こと御神楽圭一でございます』

「ちょ!?」

 ぶっとんだことを言い始めたあいつらに僕は目を白黒させる。

『思えば中学時代の御神楽圭一は酷いものでした。泣いて懇願するか弱き生徒に無理強いを行い、立ち上がった勇気ある者は容赦なく潰していく。彼のいた年代は暗黒時代でした』

「嘘をつくな嘘を!」

 んなこと実際あるわけないだろうが!

 どこの世紀末世界だ!

『皆様、御神楽圭一の愛くるしい容姿に騙されてはなりません。ああ見えてかなりの女たらし、手あたり次第食い、飽きたら捨てる極悪でございます』

「おい! お前ら! こっちに来い、制裁してやる!」

 あいつら、僕が飛べる距離を計算した絶妙な間合いを!

 もう少しこっちにくればあいつらを殴りに行けるのに。

 僕は歯ぎしりしながらバカ共が垂れ流すデマを聞く。

 散々誹謗中傷してきたので、死んでもいいからあいつらを殴ろうと空を飛びかけたその時。

『けど、御神楽圭一は根が良い人間です。ここまで馬鹿騒ぎしても見限らず一緒にいてくれました』

 ……ずるいだろ。

 んなこと言われれば怒る気も萎える。

 なんか疲れた。

 あいつらが最後に手を振ってきたので、僕は脱力気味に手を振り返した。

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