2日目 その二
だいぶ間が空いてしまい、すみません…!
いつもの40分間を経て、目的の駅へと到着した。
今日は昨日のような混沌とした状態ではなかった。これには猫又に感謝せねばなるまい。
そもそも猫を電車に乗せる時点で疑問を覚えて欲しいものだったが。
電車から降り、改札口へと向かう。
改札まであと少し、という階段を降りている途中昨日聞き慣れた声が聞こえた。
「おはようございます。電車の旅は如何でしたか?」
改札の向こうに ちょこん、と座る白黒模様が見えた。
どうやらここからは彼の担当のようだ。交代制というよりリレー方式と言った方がいいのかもしれない。
「朝からご苦労様。昨日よりは静かな旅だったよ」
青年は素っ気なく答える。
猫は昨日と同じように目を細めて座っている。
「それでは、参りましょうか。本日は学校に用があるようですし」
猫は腰を上げ、伸びをする。
どうやらこの猫は何かと察する能力に長けているようだ。
監視役としては適任だと見える。もしかしたら、監視役に慣れているのかもしれない。そうだとしたらあの猫又の気まぐれの頻度が計り知れないが。
猫は踵を返し、歩いていく。
青年も猫に続くように改札を通り抜けた。
最寄駅から学校までの道程は5分ほどである。
その道中は特に店もなく、同じ並木が続くだけだ。
5分間の間、青年は猫と他愛のない話をする。
「改札は人通りが多くて危ないぞ。蹴られでもしたらどうする」
青年は猫に言い聞かせる。
「まぁ、何とか大丈夫でしたよ。皆さん避けてくださいますし、された事と言えば時々四角い機械を向けられたぐらいですね。」
猫は答える。
青年は少し心配そうな表情をした。
青年の前を行く尻尾がゆらゆらと揺れている。
並木道を通り学校へ着く。
時間は8時20分ぐらいであった。授業開始が8時40分なので、まだ時間がある。
青年は予定通り美術部顧問の末田をあたってみることにした。
教職員室へ入り末田を探す。
しかし、教職員室にはいなかった。松田が担当するクラスへ赴くがそこにもいない。美術室へも赴いたが、姿が見えない。
あちこち駆け回った結果、時間はすでに35分に差し掛かっている。
青年は最後の望みを掛け、もう一度美術室へ訪れた。
やはり姿は見えなかったが、よく耳を澄ますとゴソゴソと物音がする。どうやら準備室の方からである。
美術準備室は授業時以外には常に鍵が掛けられており、入ることができない。
そのせいか、青年は準備室を見落としていたのである。
青年は準備室のドアを開ける。
果たして、末田はそこにいた。
末田は絵を奥から引き出しては慎重に並べている。
絵についている名札を見る限り、どうやら生徒作品のようだ。
ふと人の気配を感じたのか末田が振り向いた。
「お、今日は早いな!おはよう!美術室になんか用か?」
青年は今朝思い出したことを話した。
父が以前、高校時代に何かしらの賞を取ったと自慢していたことがあった。
その日が何の日だったのかは思い出せないが、珍しく上機嫌な父が食卓でビールを片手に満面の笑みを浮かべながら話してくれたことを覚えている。
「俺は大して上手くなかったが、それでも賞は取れるんだ。要は気の持ち様だ。」
当時の青年は胸を躍らせながら聞いていたような気がした。
末田は青年の話を聞き終えると、青年に向けて言った。
「あぁ、そのことなんだがな。実は昨日、俺も思い出してな。それで今探してるんだ。賞を取った作品は学校側で保管しておいたりするからな。そこまで大きな作品でもない限り、どこかに仕舞ってあるハズなんだがなぁ。」
「そうだったんですか。わざわざありがとうございます。では、引き続きお願いします。」
青年は軽く頭をさげる。
「待て待て、俺ももう時間が無いんだ。後で鍵を渡すから放課後にでも探してみてくれ。」
時計の長針はすでに8の数字に差し掛かりかけていた。
末田は作業をやめ、青年に準備室を出るよう促した。