1日目 その三
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末田の話によると、父は20年ほど前にこの学校に通っていたという。末田は父が2年次の頃にこの学校に移り、現在と同じく美術部の顧問として勤めていた。父は自分と同じように美術部に入り、3年次には部長をしていた程らしい。
僕は末田から探し物のヒントになるような情報を得ようと質問をする。
「父の絵とかは無いんですか?」
「この学校にはもう無いかもな。でも、あいつは絵を大事にするやつだったから、見たけりゃ家にでもあるんじゃねぇか?」
末田は答える。
父は物を大切にする人だ。そう考えれば絵も家にある可能性は高い。これは良い情報を得た。
手に入れた情報について今すぐにでも確認したかった僕は、活動終了時間よりも少し早めに作業を切り上げた。
道具を片付けるとそそくさと帰ろうとする。チラッとグラウンドに居たはずの猫を確認しようとすると、猫はグラウンドにはいなかった。
どうやら、サッカーゴールの下という空間はサッカー部の連中に取り上げられてしまったようだ。
辺りを見回すと、こちらの存在を確認した猫が立ち上がった。どうやら朝礼台の上にいたようだ。
そこは他の部活の部員たちが荷物置き場として使っていたようで、その中に埋もれるようにして猫は寝ていたらしい。
朝礼台を飛び降りた猫は一度大きな伸びをし、ゆったりとこちらへ向かってくる。
そして青年の足元に擦り寄り、話しかける。
「どうやら、良い情報が手に入ったようですね。顔に書いてあります。今からご帰宅ですか?それとも寄り道など致しますか?」
「ご帰宅するよ」
青年は抑揚の無い返事をする。
そして朝と同様、猫に同行されながら電車に乗り家に帰っていく。
朝と同じように電車内は猫に対する声で埋め尽くされると思っていたが、少し早い時間だったためか電車内には乗客が疎らにしかいなかった。
携帯を開き、なんとなくSNSを立ち上げる。
青年は「猫 電車」と検索欄に入力する。
携帯の決定キーを押すと、検索画面には多くのコメントがヒットした。
「電車に猫が乗ってるー!」「ネコが電車にいらっしゃるんだけど」「猫さま 電車に降臨」
など、猫が電車に乗った事への反響は大きかったようだ。
電車を降り、家までの道程で青年は猫に言う。
「お前、凄い目立ってるぞ。ネットで騒がれてる。」
「やはり、猫が電車に乗るには早すぎましたかねぇ。猫又に報告しておきます。」
猫は目を細めて言う。
青年は猫を横目にみやり、溜息をつく。
こんな生活があと8日間も続くのかぁ…
ただでさえ騒がしい電車内で広がる黄色い声。
朝から晩までの監視。
そして、探し物を強いられる環境。
青年は肩を落とした。
早めに探し物を終わらせて、早めに解放してもらおう。
青年は思った。
家に着くと、早速 物置を漁る。もちろん、目的のものは父の絵画である。
1時間ほど経ち、辺りが闇に包まれる。10月の日暮れとは早いものだ。
結果として言うと、1日目で得られたものは「父が自分と同じ高校の美術部であった」という情報だけであった。
物置の中が漆黒に塗りつぶされ、どうしようもなくなった青年は食事を取ると、さっさと風呂に入る。
父が帰って来た時に聞いてしまおう、という魂胆があったためである。
しかし、自分の部屋で父の帰宅を待っていた青年は、慣れない疲れからか強い睡魔に立ち向かうことが出来なかった。