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ジェシーにお仕置きをしてからさらに奥に進むこと10分、俺たちは更なる連戦と言うか逃げていた。
「ギャギャ!」
「ギャギャギャ!」
「「ギャギャギャギャ!」」
「うるせー!」
「そういうアリエスの方がうるさいよ。大人しく走りなよ」
ギャーギャーとうるさい奴らだ。集中して走れないだろうが。それとジェシーさんすみません。
ジェシーは耳を手で押さえて俺にジト目で睨んできた。
俺は追いかけて来ているゴブリンをたまに後ろを振り返りながら何で逃げたり怒ったりしながら走っているのか、それは2分前に遡る。
俺とジェシーは次の相手を探して歩いていると、近くで【気配察知】に10体の反応があったから流石に無理と思い迂回しようとしたが、その集団は真っ直ぐとこっちに向かってきていた。
俺は、ジェシーに「隠れてやりすごそう」と言って、近くの茂みに隠れた。
俺たちが隠れて少ししてからゴブリンの集団が通っていった。
「流石にあれとやるのはキツいからな」
「確かにそうだね」
今思ったのだが、ジェシーさん。近くね?
肩と肩が触れるくらいに近いんだけど、そこまで狭くないだろう。
しかし、自分から「近い」というのはなぜか憚れたのであえて何も言わないことにした。
多分、ジェシー自身も気が付いていないし、それで慌てられても仕方ないし。
ゴブリンがもう少しで見えなくなりそうになったから、俺達は気配を消して動こうと一歩踏み出した瞬間、ジェシーがやらかした。
パキッ
「「あ」」
ジェシーが足元の小枝を踏んでしまい、音をたててしまった。
俺はすぐにゴブリンの方を見ると、こっちをガン見していて、俺と視線があった。
よし…
「逃げるぞ!」
「ごめんなさい~!」
俺たちはダッシュで逃げ出し、そのあとをゴブリンが叫びながら追いかけてくる。
それで、冒頭に戻ります。
「どおする?ジェシー」
「どおするって聞かれても…どおしよう!?」
「質問に対して質問で返さないでくれ」
いや、本当にどおしよう。ゴブリンたちの方が足が速いのか俺たちの距離は徐々にだが短くなってきている。
「ジェシー。走りながら矢を放てるか?」
「愚問ですね…無理!」
ですよね~。
さてさて、俺も投げるような物を持っていないし。万策尽きましたね。
ここは大人しく、森という地形を上手く使って逃げようか。
「でも、やってみる」
「だったら一回だけやってみてくれ。この後も逃げ切ったらレベル上げをするんだからここで使いきるなんてことはやめてくれよ」
「分かったよ」
ジェシーが弓を構えて、バック走りをしながらゴブリンに狙いを定める。
「分かっていると思うが、出来るだけ足を狙ってくれ。無理なら取り敢えず当てて動きを止めてくれ」
「分かった」
俺も少しだけスピードを落としてジェシーと同じ速度で走る。
そして、矢を放つ。
矢は…ゴブリンの近くの木に刺さった。
ゴブリンに当たらなかったのを確認すると俺たちは前を向いてスピードを上げて逃げ始めた。
「やっぱり無理!」
「まぁ、仕方ないよ。大人しく逃げろってことだ」
やっぱり、こんなときがあるかもしれないから、対策として何かかった方が良かったのかな。
「他に何か持っていないのか?」
「持ってないよ~」
ジェシーが情けない声を出していた。
仕方ない。ちょっと出来るか分からないがやってみるか。
俺は走りながら少し大きな石が無いか探して、一個見つけたから、その石を少しだけスピードを落としてから軽く両足で挟んでから左足の踵で斜め上に上げる。サッカーのヒールリフトと言われる技だ。
落ちてきた石を俺は取った。
いや、まさか出来るとは思わなかった。本当に。
「おおー!すごいねアリエス」
「これでも元サッカー部だからな」
「さっきのは何なの?」
「ヒールリフトって呼ばれる技だ」
そんな走りながらヒールリフトをするという神業をやり遂げた俺をジェシーは目を輝かせながら訊いてきた。
でも、下手したら転けて、死に戻りしていたんだよね。ぶっちゃけその事に今気が付いて、冷や汗が出てきていた。
「後は、この石をぶつけるだけだがここで1つ問題があります」
「その問題って?」
「俺は投げるの下手だ」
「…頑張って?」
ジェシーが胸の前で手をグッと握って俺にエールを送ってくる。でも、俺は本当に下手くそだぞ?
「やるしかない…な!」
ひゅっ!
気合いを入れて、振り返りゴブリンに向かって投げる。
石は真っ直ぐと木に当たり、反射して近くにいたゴブリンに当たった。
しかし少しよろけるだけで、倒れなかった。
「当たったけど倒れなかったな」
「そうだね。でも当たったから良かったじゃない」
…また壊れたか?ジェシー。
ジェシーの方を見るとまた目が虚ろになってブツブツと言い始めた。
俺はもう、慣れたようなものでジェシーの頭を踞らない強さで叩いて正気に戻しておいた。
「逃げてる最中に壊れない」
「壊れないって…言い方が酷いよ」
正気に戻して、注意をするとジェシーは少し落ち込んでしまった。
取り敢えず俺はフォローをしておく。
「あれはたまたまで、ジェシーも練習すれば走りながらでも当てれるようになれるさ」
「うん…私頑張る!」
ジェシーは決意したような顔をした。
うん。元気になってよかった。でもまずはこの状況を打破しないといけない。
と、そうだ。あれがあるよ。
「ジェシー、この近くにセーフティーエリアってあるか?」
「あ!その手があった。でも知らない」
「フレンドに聞けないのか?」
「今はログアウトしている」
ジェシーもそう考えたのか、ウィンドウを出してフレンドリストを確認しているが運悪くログアウトしているらしく、少し落ち込んでいた。
「アリエスの方は?」
「……居ませんが?」
「…私がなるよ?」
やめて、そんな慈愛に満ちた顔をして俺を見ないで。
あれだから、まだ姉たちとゲームの中で会ってないだけだから、それと基本一人でしていて、出会いがなかっただけだから!
と、俺は心の中で言い訳みたいなことを叫んでいた。
「後でお願いします」
「ふふっ。分かった」
くそー!今はその微笑みが胸を抉られるような気持ちになる。
と言うか今さらだが、俺たち意外と余裕あるよな。逃げている最中なのにこんなやり取りをして。
その後、さらに10分逃げてやっとの思いで森のセーフティーエリアに入ることが出来た。
「はぁ、はぁ。な、なんとか逃げ切れた」
「はぁ、はぁ。つ、疲れたよ~」
俺は地面に座り込み、ジェシーは近くにあった切り株に座り込んだ。
流石に息も絶え絶えだ。
人間ってやれば出来るもんだな。
もうこんなのはやりたくないが。本当に疲れた。
「この後、どおする?」
「アリエスが適当に決めて~」
ジェシーは俺以上に疲れているようで、気だるそうな声を出しながら寝転がった。
おい、だらしないぞ。
この短い間で俺の先生に対する印象がガラリと変わってしまった。
別に悪い意味じゃなくて、さらに親しみやすくなった。
「じゃあ、ここで30分休憩をとってから、またレベル上げを再開しようか」
「は~い」
ジェシーが返事をして数秒後、寝息が聞こえてきた。
俺は思わず笑ってしまったが、気にせずに俺も少し寝ることにした。
毛布があればかけてあげたけどそんなものはない。
俺は【気配察知】に反応があればすぐに起きれるようにしてから俺も寝始めた。
「ーース」
どれくらい寝ただろうか。俺の体が揺すぶられて俺の名前が呼ばれているような気がして目が覚めた。
「う、ううん」
「あ、やっと起きた」
俺が目を開けると、ジェシーが近くにいて俺が起きるのを確認すると、少し微笑んだ。
「どれくらい寝てた?」
「分からない。私もさっき起きたばかりだから」
そうか。
なら仮眠もとって、疲れもとれたしレベル上げを再開するかな。
ジェシーもそれで良いのか聞いてみると、「勿論」っと笑顔で言われた。
「あ、その前にフレンド登録しておこうよ」
「それもそうだな」
俺にジェシーからフレンド申請がきて、俺はすぐにハイを押してフレンド登録をした。
「よろしくジェシー」
「こちらこそよろしく」
笑顔で言い合ってから、レベル上げをするためにセーフティーエリアから出た。