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最後の方に悠視点があります。
あのあと俺と先生は街に戻り、先生に付き添って道具屋に補充するぶんの矢を買いにきた。
「何本買うんですか?」
「うーん…あまりお金がないから50本かな」
先生が言うには最初に支給されたのは初心者の弓と木の矢が30本らしい。
木の矢の攻撃力は1だった。俺が神の目で確認したところ。
「木の矢は攻撃力は低いからね。だから石の矢を買うつもりなの」
先生は石の矢を買うらしい。しかし石の矢は木の矢より値段が高く。1本10セルもするらしい。それを50本。そりゃあお金が無くなるわな。
「そういえば先生は固有スキル何個もらえました?」
「私ね、3個しか貰えなかったの」
「え?良い方じゃないんですか?3個って」
「私もそう思ったのだけど、私の友達にβテスターをしている子がいて、その子はこれでは5個貰ったらしいの」
と、先生は少し落ち込んでいたがやっぱり良い方だと思う。だって普通は1個しか貰えないのだから。
…取り敢えず俺は6個貰えたという事実は伏せておこう。なに言われるか分からないから。
「それでアリエスは何個貰えたの?」
「え!?いや~その~ね?あっ!先生道具屋に着きましたよ!」
「駄目だよアリエス。私は言ったのだからアリエスも言わないと…ね?」
先生は笑顔を浮かべていたが、目は全然笑っていなかった。
「…個です」
「え?なんて言ったの?もう少し大きな声でお願い」
「6個…です」
俺を中心とした半径四メートルの世界から音が消えた。
俺はおそるおそる先生の方を見ると、
「っ!」
俺は息を呑んだ。何故なら先生の目から光が消えていて、虚ろだったのだから。
「あ、あの~先生?」
「ふっ…ふふふ。良いのよ。全然良いのよ?私は3個でアリエスが6個なんて全然…全然これっぽっちも羨ましいなんて思ってないけどね。うん、大丈夫だよ。運営に殴り込みに行こうなんて思ってないよ?だってアカウントが剥奪されてしまうからね。だから大丈夫だよ?」
だ、大丈夫じゃねぇぇぇぇ!
ど、どうしたんだ先生。そんなに俺の固有スキルが先生の倍あったのがそんなにショックなのか?
だから誤魔化そうとしたのに。
それと、先生…すごく怖いです。俯いて表情が見えない状態でブツブツと言わないでください。
キャラがブレすぎだろう。
初めてみる先生の姿に少しだけ引いていたが、周りから少しずつ注目が集まりだしたから俺は先生の手を引いてそそくさとその場から離れた。
壊れた状態の先生を連れて、道具屋の中に逃げるように入ったがまだ先生は「ふっ。ふふふ。良いのよ。本当に良いのよ?」と言っていたから俺は先生の頭にチョップを食らわして、正気に戻した。
「ハッ!私は何を?」
「やっと戻ったか」
「優馬君?」
先生はやっと正気に戻り、少し痛いのか頭を擦りながら周りをキョロキョロと見回した。
「それで、着いたぞ。道具屋」
「あ、本当だ」
「でも、いつの間に?」とか先生は呟いていたが、貴女が変な世界に行っている間に俺が連れてきたんです。とは言わなかった。
先生が矢を買っている間俺は道具屋の中を見回していた。と言っても、カウンターがあって、何故かソファーと机があるだけだったが。
「買って来たよ」
「早かったな」
先生が矢を買って俺の所に戻ってきた。
「それと敬語を使わないんだね」
いや、あんな姿を見せられたらね。それに自分で堅苦しいのは嫌いと言っておいて先生と分かったとたんに敬語を使うのもやっぱり変だと思っただけだ。
「いけなかった?」
「ううん、良いよ。それに学校でも使っていなかったでしょ?」
あれ?そうだっけ?
「うん、やっぱりその方がいいよ」
「分かった」
先生と道具屋から出た俺だったが…この後なにしようかな?
「アリエス、この後暇?」
「まぁ、暇って言えば暇だが…どうして?」
「この後、一緒にレベル上げしようよ」
ジェシーがレベル上げの誘いをしてくるが、どうしようか?
俺は腕を組んで考える。確かに、俺は暇だ。というか、またあの森に戻ってレベル上げをするつもりだったからどっちかと言うと好都合とも言える。
だがしかし、俺のジョブはあれだ。レアもしくはユニークだ。まぁ、バレても良いんだけどね。
あれ?だったらもう答え出てね?
「ああ、良いぞ」
「本当!?良かったー、やっぱり一人だとキツいんだよね」
という事で、俺はジェシーと一緒に街の外に出た。多分だけど、そろそろ悠と姉さんはリアルで昼飯食っている頃かな。
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※悠視点
「ふぅー」
さっきまで『ANOTHER WORLD』の世界に入っていた私はお昼御飯を食べるためにリアルに戻ってきて、着けていたヘッドギアを外して、ベッドから降りた。
「ウ~ン…楽しかったー!」
ベッドから降りて私は体をうーんと伸ばす。それにさっきまでのことを思い出していた。
『ANOTHER WORLD』の世界に入ってすぐに私はβテスター時代の友達に連絡を取って、一緒にレベル上げをしていた。
「それにしても、お兄ちゃんと会えなかったのが残念だったなぁー」
そう、私はβテスターに連絡を取ると同時に、お兄ちゃんにも連絡を取ろうと思っていたけど、まだ入っていなかったのか連絡が取れなかったのだ。
「お姉ちゃんもβテスターの皆とレベル上げをして、周助さんは確かソロでやっていたな」
お姉ちゃんと周助さんには連絡を取っていなかったけど、レベル上げをしているときにお姉ちゃんと周助さんには出会った。
多分、周助さんが女性ってことを知らなかったら気付けなかったと思うけど。
実際にβテスターの時には全然気付けなかったし。
「ちゃちゃっとお昼御飯食べてまた入ろっと」
一階に降りて、リビングに行くと、お姉ちゃんとお母さんがいた。
「あ、お姉ちゃん」
「うん?あぁ、悠さっきぶりだね」
「うん」
そのあとは会話もなく、私は席に座ってお母さんが用意してくれたご飯を食べ始めた。
「もう、由夏も悠ももう少し会話をしたら?久しぶり会ったのでしょう?」
確かに久しぶりに会った。でも、お姉ちゃんとはあの日以来から少しだけ仲が悪くなったというかギスギスした関係になっている。
「あ、そう言えばお母さん。お兄ちゃん知らない?」
「優馬なら昼御飯食べてゲームをしてるはずよ」
「え?お兄ちゃんもうご飯を食べてるの?」
「ええ、そうよ」
そんな!だったらもうお兄ちゃんはゲームの中に居るってことだよね。
こうしちゃおれないな。
私はご飯を掻き込むように食べた。
「ご馳走さま」
私より先にご飯を食べ終えたお姉ちゃんは流しに食器を持っていって、お母さんに一言言ってから二階に上がっていった。
その時にお姉ちゃんが私の方を一瞬見たような気がする。
私もお姉ちゃんに続くようにご飯を食べ終えてから流しに食器を持っていって二階にかけ上がった。
はっきり言ってお姉ちゃんはお兄ちゃんのことが好きだ。お兄ちゃんはお姉ちゃんの言葉は冗談とか、からかっているだけだと思っているようだけど、お兄ちゃんが見ていない時にお姉ちゃんが相手にされなくて少し寂しそうな顔をしているのを私は知っている。
と言うか、私もお兄ちゃんが好きだし。それが原因でお姉ちゃんとギスギスしている関係になっているし。
ブラコンじゃないよ。血は繋がっていないから。私が小学二年生の時にお兄ちゃんが家に来たのだ。
でも、お兄ちゃんは私達の家に来る前の記憶が無くて、私たちとは血が繋がっている本当の兄弟だと思っているらしい。
前にお母さんにお兄ちゃんについて訊いてみたけど、ものすごく寂しそうな辛そうな顔をして「ごめん…教えれない」と言われた。
今でも少し気になっているが、訊かないようにした。
「よし!入ったらまずお兄ちゃんに連絡をしてみよう!」
そう思いながら私はヘッドギアを着けてベッドに寝転んだ。
それから数秒して私の視界が暗転した。