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本日2話目、どうぞ
反応があった方に【隠密】を使って歩くこと3分、遂にその反応の正体が分かった。
「ガァァァァ!」
「いやぁぁぁ!ヘルプ、help me!」
黒い体毛をした熊に追われている、ピンク色の長い髪を靡かせながら全速力で逃げている俺より2歳くらい年下の少女だった。
というか「help me」のところ発音良すぎだろ。
それと、俺の頭のなかにあの有名な音楽が流れていた。
「って、そんなアホなこと考えている場合じゃないな」
しょーがない。こんな場面に出くわしたんだ。助けるか。
そう決めてから俺は【隠密】を解除してからその熊に向かって全速力で走った。
そして、その勢いを殺さないままドロップキックをお見舞いしてやった。
その攻撃で熊はよろけた。
「大丈夫か?」
「あ、あなたは?」
俺が誰かって?
フッ…そんなの決まっている。
「通りすがりの死神さ」
ドヤ顔で言ってやったら、その少女はポカーンと口を開けて固まってしまった。
やめて、そんな反応するの。地味に傷付くし、こっちが恥ずかしいから。
そんな下らないやり取りをしていると熊が態勢を立て直して俺に向かって唸っていた。
「グルル…」
「こいよ、相手してやる熊公」
鎌を少し大きくして肩に担ぎ、ちょいちょいっと手招きで挑発をすると、その挑発に乗って、俺に向かって突っ込んで来た。
それを俺はギリギリでかわして、逆手で持って小さくしていた鎌で頸動脈を切り着けた。
「a peaceful sleep」
頸動脈を切られた熊はそのままた倒れ込んでポリゴンとなって消えてしまった。
ポリゴンとなって消えた後、そこにはドロップ品が落ちていた。
ブラックベアーの毛皮《素材》
レアモンスター『ブラックベアー』の皮。色々な武器武具の素材として使える。
ブラックベアーの爪《素材》
レアモンスター『ブラックベアー』の爪。武器の素材として使える。
【身体強化】
身体を強化出来る。一部分の強化も可能。
おっしゃー!
ここに来て、初めてのまともなスキルを手に入れた。
俺は直ぐに【遠吠え】と【身体強化】を入れ替えた。だって、【遠吠え】が一番使い道が無いんだもの。仕方ないじゃん。
スキルを入れ替えてから俺は少しだけ離れて立っていた少女に近付いて声をかけた。
「怪我とかはないか?」
「はい、ありません。それと先程は助けていただきありがとうございました」
そう言ってその少女は頭を下げてきた。
「いや、いいよ。お礼を言わなくても。俺が勝手にやったことだしな」
「いえ、それでもです。助けてもらったのには違いないのですから」
「分かった。お礼の言葉をもらうがその敬語を止めてくれ。俺はそういう堅苦しいのは嫌いなんだ」
「いえ、でも…」
「俺がいいって言ってるのだからいいよ」
「うん、分かったよ」
やっと少女は敬語を止めてくれた。この子は委員長タイプだな。なんかそんな雰囲気もあるし。真面目だし。
「そういえば自己紹介がまだだった。私はジェシー。あなたは?」
そういえばそうだったな。さて、どう答えるか。
まともに答えるのか、さっきの助けたときのようにおふざけをするか。…迷うな。
「死神です」
「ちゃんとした名前を教えて下さい」
結局おふざけをすると、ジト目で見られてそうたしなめられた。
スミマセン。
「アリエスだ。よろしくなジェシー」
「はい。アリエスさん」
そう言って微笑むジェシーは可愛かった。
自己紹介を終えて、俺とジェシーは街に向かって歩き始めた。
「そういえばジェシーのジョブってなんだ?教えてもいいのなら教えてくれないか?」
「別に教えてもいいけど…それだったらアリエスさんも教えてくれるよね」
「それは無理」
「だったら私も教えないよ」
そう言ってジェシーはクスクスと笑う。
こいつ…俺がジョブを教えたくないのを見越してこんなことを言ってきたな。やりおる。
そんなやり取りしながら俺は改めてジェシーを良く見てみる。
ジェシーはピンク色の髪で背中辺りまで長く。目が青色で少しつり目だ。
でも、きついイメージはなく、可愛いというより美人だ。
そして、服装が革装備で動きやすそうな格好をしていることから俺は…
「ジョブは弓士ってところか」
そう推測した。
すると、ジェシーは目を見開いて、「何でそれを?」と言いそうな顔をしていた。
「何となくだ。それに街に帰るのは矢が切れたから…だろ?」
「うん、その通りだよ。でも何で?」
それ以外にも何かあるでしょ?と言外に言われた。
「まず、剣士とか接近戦が得意なジョブなら防具がもっと汚れている。しかしジェシーの装備には傷どころか泥とかも着いていない。だから遠くから敵を攻撃することに特化したジョブになる。しかしそれだけなら他にもあるかもしれないが…決定的なのが歩き方だな。癖なのかわからないが摺り足で歩いているだろ?だからだ」
「すごいね、アリエスさんは。まったくその通りだよ。私はリアルでも弓を扱っていてね。だから使いなれたものの方がいいと思ってジョブは弓士にしたの。まぁ、動く相手は初めてだからまだ弱いけどね」
「そうだったのか」
「うん。それにしても本当にすごいね。探偵か何かしているの?」
俺はそれを聞いて、少し笑ってしまった。
「むぅー。何で笑うのさ」
「いや、面白いことを言われたなっと思って。俺はまだ高校生だよ」
「えっ?そうだったの!」
驚いているジェシーにたいして俺は頷く。
「年下だったの!?年上かと思ってた。」
………うん?
なんかジェシーから聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がする。
「なぁ、ジェシー。さっき何て言った?」
「だから年下だったの?」
聞き間違いじゃ無かった。
「えーっと、禁止にされていることだけど、職業を教えて貰っても?」
俺の言った『職業』がリアルでのことを指していることに気がついたのか教えてくれた。
「リアルでは教師をしているよ。それで、担当教科は英語、弓道部の顧問をしているよ」
………はあぁぁぁぁ!?
って、この人良く見たら何処かで…あっ!
「もしかして…京花先生?」
「何であなたが私の本名知っているのよ?」
俺が先生の下の名前を言うと警戒心をあらわにして俺から距離をとった。
「俺ですよ。優馬です」
「え!?優馬君?」
自分の名前を教えると先生はビックリしたような顔をした。
そうだよ、良く見たらこの人俺の通っている学校の先生の京花先生だよ。
京花先生は俺のように背が低くてよく中学生と間違われて、それで先生はクールな人だからよく子供が背伸びしていると思われるらしい。
それで、それを指摘するとムキになって怒るから余計に子供っぽく見えたりする。
でも、基本的にはよく相談とかに乗ってくれるいい先生だから男女問わずに愛されている。
「え?本当に優馬君?」
「ええ、そうですよ京花先生」
「フード被っているから全然分からなかった」
「自分も分かりませんでした」
そう言い合ってから俺たちは二人して笑った。
「ふふ、世間って広いようで狭いね」
「本当ですね。まさか先生がゲームをしているとは思いませんでした」
「私もびっくりよ。まさか教え子に助けてもらうなんて思わないもの」
「自分もまさかあのクールビューティーと名高い京花先生が叫びながら逃げるとは思いませんでした」
そうからかうと先生は頬を赤くしてから、
「そう言う優馬君だって『a peaceful sleep』なんて言葉よく知っていたね。確か意味は『安らかに眠れ』って意味だったかな」
お返しって言わんばかりに言われて、今度は俺が恥ずかしくて顔を赤くした。
「っ。それを言わないでください。まさか先生とは知らずに…」
あぁー、恥ずかしい。まさか知り合いに聞かれるとは思わなかった。
すると、先生が俺に近づいてきて、抱き締めてきた。
「ちょっ!先生?」
俺が抱きついてきている先生に訝しげに訊く。
「いや、優馬君がなんか可愛くてつい、それに優馬君はいつも長い髪で顔を隠しているからもっとこう陰湿な子かと思っていたの」
「先生もそう思います?俺も髪の毛切ろうと思ってもうちの母親と妹が切るなっと言って切らしてくれないんです」
そう言うと先生は不思議そうな顔をした。
「何で?」
「さぁ?理由を訊いても『どうしても!』と言って教えてくれないんです」
本当に不思議にずっと思っているんだ。
何でだろうな?
「不思議だねー」
「はい、俺の顔を見ては顔を赤くしてからそう言うんですよね。何ででしょう?」
そう言うと、先生は訝しそうな顔をした。
「優馬君の顔を見て?」
「?…はい、そうですけど、どうかしたんですか?」
先生は少し考える素振りを見せてから、
「ねぇ、優馬君。そのフードのしたって素顔?」
「?ええ、前髪は眉に掛からないくらいの長さですよ」
「そう、だったらそのフードの下の顔を見せてくれません?」
先生がどうしてそんな事を言うのか分からないけど、それに対しての俺の答えは…