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「聞いたか、優馬?」
「?何がだ?」
まだ、少し寒い四月のこと。
入学式を終えて一週間が過ぎて、少しずつ形成されていくグループで食べる昼休みの時だ。
俺の名前を呼んでパンを食べているのは小学生の頃からの腐れ縁で幼馴染みでゲーマーの大山周助だ。
それで、俺の名前は西崎優馬だ。
「最近発売されたゲームだよ」
「あぁ、あれね」
周助が言っているゲームというのはVRゲームのソフトである『ANOTHER WORLD』と言われているVRMMOの事だ。
最近ニュースでも取り上げられているし、それにうちの妹がゲームをするのが好きで良く話を聞いているから名前だけは知っていた。
「それで?それがどおしたんだ?」
「いや、お前も一緒にやってみないか?というお誘いだ」
ゲームねぇ…嫌いじゃあ無いんだが、最後にやったのが某人気RPGもののゲームだったからなぁ。
因みにタイトルは直訳すると『最後の物語』だ。それも1だ。
だいぶ古いぞ。
「どうするかなぁ。それは妹にも誘われているんだよな」
「そうなのか?」
「あぁ何でも、『私、それのβテスターでいい成績残したからソフト1個貰えるからそれで一緒にやろ!』って昨日言われた」
「そうだったのか、あと悠ちゃんのセリフの時に悠ちゃんの声真似はやめろよ。滅茶苦茶上手くて逆に気持ち悪かったぞ」
うるさいよ。
悠が四六時中俺にベッタリで嫌でも良く聞いているから必然的に上手くなってしまったんだよ。
文句なら悠に言え。
「だったら好都合じゃねぇか。やろうぜ?」
そうだな。
こいつと悠からのせっかくの誘いだもんな。無下にしたら悪いような気もするし…やるか!
と言うことで俺の生活の中にゲームが追加された瞬間だった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
昼休みからあっという間に時間は過ぎて、下校時間になった。
「おっし!優馬一緒に帰ろうぞ!」
「分かってるよ。だから急かすなって」
先に変える準備を終えた周助が俺の所に来て、まだ、帰る支度をしている俺を急かしてくる。
それから数分後に帰るな支度を終えた。
「おし、帰るぞ!」
「って、分かってるから手を引っ張るなって!」
鞄を持った瞬間に周助が俺の鞄を持っていない方の手を掴んで引っ張って走り出す。
いきなりのことで少しよろけたけど転けることはなかった。
って、そこの女子たち「周×優…どっちが受け?」「キャーっ!」とか不穏な会話するな。背筋が寒くなったぞ。
良く理解できないけどな。
それと、聞こえているのかどうか知らないけど、周助も周助で頬を赤くするな。
誤解を招くだろうが!
女子が騒ぐ教室から出て廊下を走り抜け…校門に出た。
そして、校門を抜けて少し行った所で俺は立ち止まり「そろそろ手を放せ」と周助に言った。
そこでやっと周助が手を放してくれた。
「ご、ごめんな?」
周助が申し訳なさそうに俺に謝ってくるが俺は周助に近づいて頭を撫でながら、「気にしてないから謝らなくていいよ」と言った。
すると周助は少し顔を赤くしながら「よかった」と呟きながら、少し膨らみを感じる胸に手を当てて安心していた。
皆、名前と口調から勘違いしているようだが周助はれっきとした女の子である。
まぁ、周助が男子の制服を着ていることも原因のひとつだと思うけどな。
「じゃあ、帰ろうか」
「おう」
俺は周助と並んで一緒に帰り道を歩き始めた。
周助と『ANOTHER WORLD』のことについて色々と話しているといつの間にか俺の家に着いていた。
因みに周助の家は俺の隣だ。
と、玄関を開けると妹である悠が待っていて、俺に飛び付いて来た。
「おにぃ~ちゃ~ん!」
飛び付いてくる悠、それをかわす俺、そして巻き添えを食らう周助。
周助と一緒に倒れ込む悠、周助…ドンマイ。
「ちょっ、悠ちゃんどけてくれない?」
「あ、ご免なさい周助さ…」
と、周助が悠にお願いして悠が慌ててどけようとするがあるところに手をついてしまった瞬間固まってしまった。
が、俺が直ぐに悠の手を掴んで周助の上からどかす。
悠が何か言おうとしていたが言う前に周助に手を伸ばして立たせようとする。
「周助、大丈夫か?」
「あ、あぁ。ビックリしたけど大丈夫だ」
周助が俺の手を掴んで立ち上がる。
今さらだけど、悠は周助が実は女の子だということは知らない。 まぁ、それもそろそろバレそうだけどな。
「お兄ちゃん?」
悠がいつもよりちょっと低い声で俺を呼んでくる。
「どうした?悠」
「周助さんってもしかして女性?」
と、悠はいきなり核心ついて来た。
どう答えようか、迷っている俺だったが周助が俺の前に立ち、
「そうだが、何か?」
と、何故か喧嘩腰に悠に言った。
何故そんなに喧嘩腰なの?ほら悠の顔を見て、額に青筋が浮かんでいるよ?
「そ、そうですか。何で黙っていたんですか?」
「さぁ、何でだろうな」
そう言いながら俺の腕に抱きついてくる。
やめて!悠の表情が鬼も裸足で逃げ出しそうな顔になっているから!それ以上煽らないで!
「お兄ちゃんから離れてください!」
そう言いながら反対の腕に抱きついてくる。
というか悠よ。何でお前まで抱きついてくる。
「悠ちゃんが離れたら僕も離れるよ」
「お兄ちゃんに抱きついたのは周助さんが先じゃないですか!」
うん、順番なんてどうでもいいから二人とも離れてくれないか?
それと、悠うるさいからな。もう少し声の音量下げてくれ。
「離れて!」「そっちが先に」など、むだな押し問答を繰り広げていると俺たちに声を掛けてくる人物が1人。
「優馬に悠、それに周助ちゃんは何をしているのかな?」
はは、おかしいな。声を掛けられただけなのに冷や汗が出てきたよ。
周助と悠も同じで冷や汗を流していた。
「何でこっちを向いてくれないの?」
そう聞かれた瞬間俺たちは油の切れたブリキのような緩慢な動きで声がした方向に向く。
そこに居た…いやおられたのはーー
「か、母さん」
俺と悠の母親である華月であった。
「そんな大声で喋って…近所迷惑になるでしょ?ね?」
「「はい、その通りです。スンマセン!」」「ごめんないです」
即座に謝る俺と悠と周助。
母さんは笑顔を浮かべているが騙されてはいけない。何故なら目がいっこも笑ってないからだ。
そして、薄く青筋が浮かんでいるのも俺には見える。
ヤバイよ。母さん超怒っているよ。
母さんは普段が温厚な分怒ると物凄く怖い。
どれくらい怖いかと言うと、全然泣いたことがない悠を怖さのあまり俺に助けを求めてながらガチ泣きするほどだった。
そのときの俺も怖くて何も出来なかった。
「後で悠は話し合いね?」
「は、はぃぃぃ」
悠は涙目で震えた。
周助は安心していたが「周助ちゃんも一緒だよ?」と言われた瞬間さっきまでの安心していた顔はどこへやら、体をガクガクと震わせて絶望した顔を浮かべた。
「返事は?」
「分かりましたです、はい!」
周助よ。言葉使いがおかしくなっているぞ?
それにしても良かった、俺は呼ばれー
「当然優馬もよ」
「何で!?」
何で俺もだよ。むしろ俺は被害者だろ!
「ちゃんと悠と周助ちゃんをやめさせなかったから」
母さん、それはないよ。理不尽だ。
「そこに立っていないで、中に入りましょ」
そう言って母さんは家の中に入っていくが、俺たちは死刑間近の死刑囚のような気分であった。
「うぅ~足が痛い~」
「華月さん…怖すぎです」
「何で俺まで…」
さっきまでの二時間正座させられて説教をされていた俺たちは、今は母さんが台所で晩ごはんの準備をしているなか手伝うことが無いので居間で悠たちと一緒にソファーに座ってテレビを見ているところだ。
悠は正座して痺れた足を擦り、周助はさっきまでの事を思い出しては震えてを繰り返し、巻き添えを食らった俺は「何で俺まで」と嘆いていたから誰1人としてテレビは見ていないけどな。
そしてその間でも悠と周助は俺の両隣に座って悠は俺の腕を周助は空いている腕の袖を摘まんでいた。
何故そうしているんですかねぇ。誰か教えて下さい。
「ふふっ、仲が良いわね」
そんなことをしていると、母さんが晩ごはんの準備を終えたのか俺たちの所に来て、微笑んでいた。
この状態がいつもの母さんです。
「仲良くいるのはいいけど、晩ごはん出来たよ。こっちに来なさい」
「「「はい」」」
と、返事をしてリビングに行った。
因みに周助は母さんが説教をして帰るのが遅くなったからついでに家でご飯を食べることになった。
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晩ごはんを食べ終えた俺たちはそのままお茶を飲みながら談笑をしていた。
「あ、そういえば悠」
「何?お兄ちゃん」
「俺も『ANOTHER WORLD』することにしたからソフトくれないか?」
「お兄ちゃんもするの!?いいよ。今すぐ取っ手来る!」
そう言って慌ただしく二階にある自室に戻って行った。
それから二分後に『ANOTHER WORLD』を片手に戻って来た。
「はい、お兄ちゃん」
「おう、ありがとう」
俺は渡されたソフトをまじまじと見る。
ゲームのソフトを久しぶりに見たからまじまじと見てしまった。
「設定の仕方とか分かる?」
「いや、分からん」
「じゃあ、私がしてあげようか?」
「お願いします」
悠は苦笑いを浮かべてから胸を張り「任せてよ!」と言ってからまた二階にある俺の部屋に走っていった。
俺の部屋は悠の隣だ。
「いつから正式サービスが始まるんだ?」
「明日の12時からだよ」
悠を見送ったあと、近くに座っていた周助にいつから正式サービスが始まるのか聞いたら明日の12時かららしいです。
五分くらい周助と明日はどうしするかと話し合っていると悠が設定が終わったのか俺たちの所に戻ってきて俺の隣に座った。
「終わったのか?」
「うん、私の所にヘッドギアが二つあったからその残った方を繋げて設定しておいたよ」
「ありがとうな、悠」
お礼を言いながら悠の頭を撫でると、悠は嬉しそうな顔を浮かべた。
おい、悠よ。今年で中学3年生になるんだから「もっとして」みたいに俺の手に頭をグリグリと押してくるな。
甘えん坊なところは変わらないな。
そして、周助はちゃんと気づいているからな?だから自分もしてほしいみたいな顔はやめてくれ。
少ししてから悠の頭を撫でるのをやめて、風呂に入った。
風呂から上がった俺は悠に風呂に入るように言ってから回りを見ると周助がいつの間にか家に帰っていて、自分の部屋に戻ってから窓を開けて、隣の家の窓を叩いた。
「何?優馬」
すると、周助が少し濡れた髪の毛を拭きながら窓を開けて出てきた。
「お前いつの間に帰っていたんだよ」
「優馬が風呂に入ってすぐくらいかな」
「そうか、それと何で頭が濡れているんだ?」
「そりゃあ、風呂に入ったからな。当然だ」
「早いな。そんなに時間がたってなかったろ」
「15分も有れば十分だ」
俺は女子は風呂は長いと訊いたことあるけど、それは嘘だったのだろうか?
それとも周助が早いだけか?
それから周助が少し頬を赤くしながら俺に、
「それと、もう窓閉めていいか?」
「?…いいけど、どうかしたのか?顔も赤いし」
「大したことじゃ無いんだが…僕まだ上がったばかりでブラジャーしていないんだ」
「スンマセンでした」
「いや、謝らなくてもいい。じゃあおやすみ」
「あぁ、おやすみ」
そのあと窓を閉めてから、この前買った小説を読んでから電気を消してベットに入った。
小説のタイトルは『幸せは簡単には手に入らない。だが手にいれる方法はいくらでもある』とタイトルはあれだが中々考えさせられる内容だ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
朝の9時に目が覚めた。
いや、言い方が違うな。起こされました。
せっかくの土曜日と言うのにうちの愚妹と周助がどちらが先に俺を起こすのかという馬鹿な事をしていたせいでこんな早くに起こされた。
俺は休みの日はいつも11時まで寝ると決めているのに。
それで、今絶賛説教中。
俺の目の前で悠と周助が落ち込んだ様子で正座をしている。
「優馬~、悠~、周助ちゃん。ご飯よ~降りてきなさい」
一階から母さんが俺たちを呼ぶ声が聞こえて来たため悠たちの説教はやめてご飯を食べに悠たちを連れて一階に降りた。
それにしても今日は遅い朝御飯だな。いつもなら俺をほっといて皆済ませているのにな。
「優馬、おはよ。遅いよ」
母さんのじゃない声がした。
しかし、知っている人の声だ。
「姉さん」
「久しぶりだね、優馬。全然変わってないねー」
俺に挨拶してきたのは俺の4つ上の姉で今は大学に通うために独り暮らしをしているはずの由夏姉さんだった。
というか、いつ帰ってきたの?いっこも帰ってくるとか行っていなかったじゃないか。
「姉さん、いつ帰ってきたの?」
「今朝の7時頃だよ?」
「帰ってくるとか何にも行っていなかったじゃないか」
「うん、驚かそうと思って言わなかった。お陰でさっきまでお母さんに怒られたけどね」
そう言って笑う姉さんは家を出てからもう、一年くらいたつのに突拍子も無いこととかして驚かそうとしてくるところとか全然変わっていなかった。
子供のころもこんな感じで俺たちを振り回し、良く母さんに叱られていた。
それで、巻き添えを食らう俺たちの身にもなってほしかった。
「まぁいいや、それで何で帰ってきたの?」
「優馬の顔を見たくなったから」
「本当は?」
「独り暮らしに疲れたからちょっと休憩の意味も込めて。四日くらい大学は休みだし」
俺をからかってくるのも相変わらずだ。
昔はいちいち反応して笑われいたけど、今ではスルーすればいいという対処法を知っているからなんともない。
「それと、優馬聞いたよ。優馬も『ANOTHER WORLD』やるんだって?」
「そうだけど…姉さんもするのか?」
「えぇ、私も悠と一緒でそれのβテスターやってたしね」
ふーん、そうなのか。
まぁ、もしゲームのなかで会うことが会ったら一緒にやってみたいな。
そんな感じで朝御飯を食べながら久しぶりに会った姉さんと談笑を楽しんだ。
朝御飯を食べ終えた俺たちは俺は洗い物をして、母さんと姉さんはリビングの椅子に座って学校は楽しいのかとか世間話と身の回りのことを話していた。
悠は自分の部屋に戻って、『ANOTHER WORLD』が始まるの間、ずっと公式サイトを見ているつもりらしい。
久しぶりに姉さんに会ったのだから会話をしろよ、悠。
周助は俺たちと朝御飯を食べたあとは流しに食器を持っていってから母さんたちに「ごちそうさまでした」と言って直ぐに家に帰っていった。
周助は姉さんの事が少し苦手なような気がするけど気のせいかな?
確かに俺たちと一緒に良く振り回されていたけどな。
それから洗い物が終わった俺は二階に上がり、自分の部屋に入って、この前買った本を読み始めた。
この本のタイトルは『何気ない日常の中に幸福は隠れている。そんな幸福を見つけるのが俺たちの仕事だ』と、前読んでいた本のタイトル同様タイトルはあれだがやはり考えさせられる内容になっている。
と、本を読んでいるといつの間にか12時になっていて、俺は一階に降りた。
しかし、一階に降りても母さんしか居かった。
「母さん、姉さんたちは?」
「自分の部屋でゲームが始まるからやると、言っていたわ」
「え?じゃあ昼御飯はどうするの?」
「2時頃に食べるからいい。って悠が言っていたわ」
マジか。
てっきり俺は食べてからゲームを始めるんだと思っていた。だってその方が、晩御飯になるまで中止せずに出来るのに。
まぁ、いいか。俺だけでも食べておこう。
「じゃあ、昼御飯は俺が準備するな」
「ゲームはいいの?」
「あぁ。昼御飯食べた後でいい」
そう言ってから台所に行き、チャーハンを作り始めた。ささっと出来て直ぐに食べれるのは俺の料理のレパートリーの中でチャーハンしか無かったんだ。
でも、チャーハンだけは家族の中で一番美味しいという自信はある。
チャーハンを作り、食べ終えた俺は食器を洗ってから母さんに一言「ゲームしてくる」と言ってから自室に戻り、悠が設定してくれていたヘッドギアをとり、頭に付けてからベットに寝転んだ。
それから数秒後…俺の視界が暗転した。