湖上の流木
とある大きな大きな湖の真ん中に、小さな小さな流木が浮かんでいました。
その流木には、シロアリの三兄弟が住んでいました。
木が大好物の彼らにとって、流木は家であると同時に食べ物でもありました。
彼らは毎日毎日流木を食べて暮らしていました。
そんなある日のこと、いつものように長男のシロアリが流木を食べていると、
ピキッ!
床に小さなひびが入りました。
彼はびっくりして次男と三男のシロアリを呼びました。
「これを見て」
長男のシロアリは小さなひびを指差しながら、
「流木が傷んできているようだから、これからは食べるのを止めて、その代わりに少し味は落ちるけれど、流木から生えるキノコを食べることにしないか?」
と、次男と三男のシロアリに提案しました。
しかし、二匹は不満気です。
「先に産まれたお兄ちゃんはもう流木をたくさん食べたかもしれないけれど、僕達はそんなに食べていない。その意見には反対だ」
結局、話し合いはまとまらず、彼らはまた今までどおり流木を食べ始めました。
それからしばらく経ったある日のこと、
ピキッ!
今度は、次男のシロアリが食べていたすぐ近くの壁に小さなひびが入りました。
彼はびっくりして長男と三男のシロアリを呼びました。
「これを見て」
次男のシロアリは小さなひびを指差しながら、
「流木がだいぶ傷んできているようだから、これからは食べるのを止めて、その代わりに少し味は落ちるけれど、流木から生えるキノコを食べることにしてはどうだろう?」
と、長男と三男のシロアリに提案しました。
「そうしよう」
その意見に長男のシロアリは賛成しました。が、三男のシロアリは不満気です。
「先に産まれたお兄ちゃん達はもう流木をたくさん食べたかもしれないけれど、僕はそんなに食べていない。その意見には反対だ」
結局、話し合いはまとまらず、彼らはまた今までどおり流木を食べ始めました。
それからまたしばらく経ったある日、
ピキッ!
今度は、三男のシロアリが食べていたすぐ近くの天井に小さなひびが入りました。
彼はびっくりして長男と次男のシロアリを呼びました。
「これを見て」
三男のシロアリは小さなひびを指差しながら、
「流木がかなり傷んできているようだから、これからは食べるのを止めて、その代わりに少し味は落ちるけれど、流木から生えるキノコを食べることにしようよ」
と、長男と次男のシロアリに提案しました。
「そうしよう」
「そうしよう」
その意見に二匹も賛成しました。
ついに彼らの意見が一致したのです!
「じゃあ、さっそく今日からキノコを食べよう」
彼らはそう決めて、仲良くキノコの生えている所に向かおうとしました。
しかし、その時です。
ピキッ、……ピキッ、ピキピキピキピキ!
突然、床や壁、天井に無数のひびが入ったかと思うと、
バキバキバキバキ!!
と、大きな音を立てながら流木が崩れ始めました。
悲しいことに、流木は彼らが思っていたよりずっと傷んでいたのです。
「ああっ!!」
流木はばらばらになり、三匹のシロアリは湖に投げ出されてしまいました。
「アップ、アッププ」
彼らはおぼれそうになりながら、必死につかまるものを探しました。
でもここは大きな大きな湖の真ん中。そんなものはどこにもありません。
「アップ、アップ、アッ、プクブク………………」
とうとう彼らは力尽き、暗く冷たい湖の底へと沈んでいきました。
自分達の家である流木を食べ続ければ、いずれはこうなることくらいわかっていたはずなのに……。
こうして、流木と三匹のシロアリは、大きな大きな湖の上から姿を消しました。
ただ小さな小さな波紋だけを一つ残して。