第4話
✿―✿―✿—✿―✿
アリシアは頭に猫版レオナールを乗せ、使者たちが待っている洞窟へと戻った。
「た、ただいま戻りました……」
「おかえりなさいませ。……では、さっそく洞窟の中へ。ここから先は、私達は入ることができませんので、お一人でお願い致します」
「へ?! は、はひ!」
アリシアの変な返事に使者たちは少しポカンとすると、そのままアリシアに頭を小さく下げ後ろへと下がる。アリシアはススス……と下がる使者たちを見て「はう……きっと、変な返事をしてしまったせいで引いたに違いないわ。……ひきこもりたい」と、思っていた。
そんなアリシアの頭を使者にバレないように小さく叩き猫版レオナールはボソリと呟いた。
「おい、さっさと行くぞ」
その言葉にアリシアは我に返ると洞窟を見る。
「聖女の資格……」
アリシアは悲しそうにレオナールにも聞こえない声で呟いた。その表情は残念そうな悲しそうな表情をしていたが、アリシアの今の表情を知る人も呟きが聞こえた人も誰もいなかった。
そしてアリシアは、洞窟の中へと歩き出した。
洞窟の中に入るとレオナールはアリシアの頭から飛び出した。
地面に華麗に着地すると、グググと背を伸ばす。アリシアはそんなレオナールを一瞥すると、洞窟の中を見渡した。
「すごいですねぇ……辺り一面、水晶だらけです」
「さすがに聖女がここで身を清めただけはあるな」
アリシアはレオナールを見る。レオナールも興味深そうに周りの水晶を見ていた。
「あの……体調とか本当に大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、これぐらいなら問題ない」
「そうですか……」
ほっと安堵の息を吐くアリシア。
アリシアとレオナールは歩みを進め洞窟の奥へ進む。一本道の洞窟の中は壁一面に天然でできた水晶が生えている。足元を照らす小さな光が水晶同士反射し、小さな光が大きな光へと変わり洞窟内を照らしていた。
そんな道をアリシアとレオナールはひたすら歩いていた。
「この洞窟、一体どこまで続くんでしょうね?」
「さぁな。だが、聖女がここにいたのなら、なるべく人が来ないよう人の気配が感じぬよう奥へ進むだろう」
「そう、ですよね。聖女が身を清めた場所ですし……」
アリシアはそう言うとそっと俯いた。
レオナールはそんなアリシアを横目で見る。アリシアはなぜだか沈んだ表情をしていた。
レオナールはそんなアリシアを見て「なにか訳ありそうな感じだな」と、内心思ったのだった。
やがてアリシアとレオナールは洞窟の奥へと辿り着いた。
アリシアとレオナールは感嘆な声を出すように洞窟の奥を見る。洞窟の奥は丸い円形状になり、上空は岩壁が無く開けていた。
奥には自然にできた滝と水晶、上空を見上げれば満月の光が射し込んでいる。それは神秘的で、どこまでも美しい風景だった。
「ここが、聖女様が身を清めた場所……なんて清らかな場所なんでしょう」
「これは……さすがの俺でも、この場所は美しいと思ってしまう」
レオナールとアリシアはそれぞれ思ったことを口に出すと滝の方へと進み、湖に顔を覗き込んだ。
滝だけでもすごいと言うのに、湖はどこまでも澄んで、とても綺麗だった。アリシアは手の平で水をすくい一口飲む。
「あ、美味しいです」
レオナールは、まさかアリシアが湖の水を飲むとは思わず唖然となっていた。
「おいおい、仮にもご貴族様だろうが……やれやれ」と、思ったことはレオナールの胸の内に秘めておく。
しかし、そんな野生じみた行動もレオナールは可愛いと思っていたのだった。
レオナールもアリシアも、もう一度湖を見る。あまりにも澄んでいるので、水面には鏡のように自分の姿が写っていた。
するとアリシアが「あれ?」と、呟いた。
「ん? どうしたんだ?」
「……今、誰かが写ったような」
「そりゃぁ、こんだけ水が綺麗なら写るだろう。自分の顔がな」
「いえ、そうじゃなくて――」
アリシアがなにかを言おうとした瞬間、洞窟内の水晶が突如光出した。
水晶同士が反射し、光は段々強くなる。あまりの輝きにアリシアは「はぅー!」と、その場でうずくまってしまった。
そしてアリシアはハッと我に返ると、隣にいるレオナールを見た。レオナールも同じく光の強さに呻いていた。しかし、それはアリシアよりも酷く辛そうな呻き声だった。
「ぐっ、ぐぁあっ!!」
「レオナール様!!」
アリシアは清浄な光に苦しむレオナールを抱き寄せ、光が当たらないようにコートの中に隠した。
猫の姿で苦しんでいるレオナールを見てアリシアは申し訳ない気持ちなり、心の中で「ごめんなさい……私のせいで……」と、謝ったあと、アリシアもその眩しさに耐えきれず、アリシアとレオナールの意識はプツリと消えたのだった。
一方その頃、アリシアとレオナールが洞窟内で倒れ気絶している中、洞窟にある全ての水晶は光り輝き、洞窟から大きな光の柱ができていた。
突然の光に使者たちは目を瞑ったが、その光が洞窟から射しているものだと知ると、まるで神を見たように感涙した。
「あ、あの光の柱は――!」
「おぉ、聖女だ……この国に、再び聖女がやってきたのだ!」
この光の柱はどこまでも伸び、それはプロセティアの女王の城まで見えていた。
城の窓辺で月夜酒を嗜んでいた女性は、持っていたワイングラスを落とす。グラスは音を立て割れ、絨毯には赤い染みができていた。
しかし女性はグラスが落ちたことに気づかず、ただただ外の光の柱を驚いた様子で見ていた。
女王と一緒にワインを飲んでいた女王の実弟――エリアス。彼は、女王がグラスを落としたことに驚き女王に声をかけた。
「ね、姉さん? 一体、どうしたのですか?」
ソファーに腰掛けていたエリアスには、その光は見えていない。だから、女王がなぜグラスを落としたのかわからなかった。
女王はエリアスの言葉が耳に届いていないのか、変わらず驚いた様子で外を眺めている。そして、小さく呟いた。
「この国に聖女が……聖女が舞い降りた……」