未来視
暗闇の中を、どれだけの時間歩き続けただろう。途中、剥き出しのままになっていた岩に、何度も足を取られそうになった。
昨日立ち寄った街で商売上手な商人に上手く乗せられて、サイズの合っていないブーツを買ってしまったのは、やはり間違いだったと舌打ちをする。
「こんな事なら、ちょっと我慢して次の街まで歩けば良かった」
リアナはいい加減うんざりした様子で不満を漏らすと、不機嫌そうに視界に入った小石を蹴飛ばす。
地下三階ほどの深度に位置するこのダンジョンは、周囲に土の精霊が多数生息しているためか、ほとんどが岩場のフロアであり、一般的なものよりもかなり地形が悪い。
「壁に松明すら備えられていない……。この辺りのダンジョンはどこも整備が行き届いていないようね」
このダンジョンは全六層のフロアで構築されているダンジョンで、規模だけならばやや小さいぐらいだが、攻略難易度は十段階評価で上から四番目になっており、なかなかの難易度を誇る。
リアナが現在探索しているのは初期フロアから一層下に潜ったフロアⅡだが、このフロアに出現するモンスターも、攻撃力こそ大したことないものの、高い防御力と集団で襲ってくる習性を持っているため、他のダンジョンと比べて危険度が高い。
「でも、ここまで足場が悪いとは思わなかった。これは完全にリサーチ不足ね。近くに安全地帯があればいいけど……」
周囲に休めるような場所がないか、手にしていた松明を頼りに周囲を見渡すが、視界に入るのはどこも似たような岩肌ばかりで、リアナの表情が更に険しくなる。
ギシャアアーッ!
突然、暗闇の先からモンスターの叫び声が響いてくる。
「……!? モンスター……?」
リアナは咄嗟に身構えたが、叫び声の反響具合から推測して、モンスターと接触するにはまだ距離があると判断し、安堵する。
「……でも、休んでる暇があるわけでも無さそうね」
リアナは、手にしていた松明の火を消すと、それをバックパックに乱暴に詰め込み、代わりに背中のバッグに括りつけていた杖を取り出す。
照明代わりにしていた松明の火が消えたことで、すぐに周囲は暗闇に包まれ、すぐ横にあったはずの壁との距離感すら曖昧になる。
「なるべくマナは温存しておかないとだけど……」
リアナは松明の代わりに手にした杖に魔力を込めると、杖の根本で地面を軽く突く。数秒後、リアナの足元から小さな光の塊が現れた。
光の塊は少しずつ大きくなっていき、しばらくすると、周囲は完全に見渡せるほどの光量を持つようになった。