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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月14日(金)

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87.平穏な日々

彩子のターンです。

※20151206 改行位置修正

 退院して二日目。昨日はあのあと水没したスマートフォンの修理に行って、水没だからってことで新品交換になった。もちろん自腹。入院でお金かかったうえにこれって……マジ泣きそうよ。

 でも、ないと仕事にも支障が出るし……。帰ってきて、パソコンにバックアップしてあったデータを復元して、洗濯やら何やらしてたら一日が終わっちゃった。

 来週から仕事に戻るわけだし、少し会社に顔を出しに行こうかな。思いっきり迷惑かけちゃったし、せめて差し入れを持って……。

 と思って恵美に電話してみたんだけど、来るなの一点張りだった。


「どういうこと?」

『忙しいから手短に言うわね。インフルエンザ患者が出ちゃってね。プロジェクトのメンバーみんな殺気立ってるの。ほら、明日が納期でしょ? 最悪引き伸ばせても日曜日いっぱいだから、あんたが来てもまともに相手できる余裕、ないのよ』


 あたしは黙り込んだ。恵美の話はすっごくよく分かる。そうだ、明日が納期だったんだ。そんな時に来られても迷惑以外の何者でもない。納期直前じゃ作業を手伝えるわけもないし。


「わかった。ありがと。そうよね。無神経だった」

『ごめんね。月曜日になればみんな元に戻ってるから。あんたの帰りを待ってる奴らも多いんだからね?』

「それは、仕事的な意味よね?」


 一応念押しで言うと、恵美に心底呆れたようにため息をつかれた。


『あんた馬鹿? 彼のこと、忘れてんじゃないでしょうね』


 えーえー。忘れてたかったわよ。月曜日に答えを出してって言われたの、今思い出した。


『とにかく、月曜日までにしっかり考えなさい。いいわね?』


 それだけ言って恵美はとっとと電話を切った。携帯をベッドに放り出して、あたしもベッドに転がった。天井を眺める。

 来週からは週一回のリハビリも始まる。リハビリが必要なほどあたしの体は弱ってるんだろうか。とてもそんな感じには思えないんだけどなぁ。

 昨日も恵美と一緒に街に出て、食事したり修理の時間待ちであちこち回ったりしたけど、手足がしびれたり、ふらついたりしたことはなかった……と思う。

 でも、帰ってきたらすっごく疲れてた。それは確かよね。単に入院してたから体がなまっただけじゃないかなぁ、と思ってるんだけど。階段を上がるのもかなり辛かった。

 こればかりは日にち薬だと山崎先生も言ってた。元の体力が戻るまで、一ヶ月以上かかることはよくあるらしい。きっといつもの日常に戻ればすぐに戻るだろう。

 そう……通勤も会社での座り仕事も意外と体力がいることを、あたしはすっかり忘れていた。





 せっかく金土日と三日も空いたので、食材の買い出しに出かけることにした。

 いつもなら通勤の途中にあるスーパーが夜遅くまでやってるのでそこで惣菜などを仕入れて帰るんだけど、今日はそういうわけにも行かない。

 仕方がないのでバスで駅前に出る。そこまで行けば大型スーパーも本屋も図書館もある。

 普段は早朝出勤深夜帰宅で自炊はしてないのだけれど、今日はなんだか料理をしたい気分だ。

 図書館で気になってた新刊を借り、本屋で技術書を漁る。最近はネットで何でも買えるけど、技術書に関しては相性がある、とあたしは思ってる。

 使いやすいホント読みづらい本なら使いやすい本を選ぶ。まあ、ただそれだけなんだけど。

 ここの本屋は比較的新しい技術本を置いてくれるので助かってる。

 雑誌と、それから新しい技術の入門本を買って、喫茶店に入る。

 人気の喫茶店なんだけど、平日のおかげかな、なんかすんなり入れた。客層を見ると大学はまだお休みなのかな。ちょうどそれぐらいの年代の人が多い感じ。

 平日の昼間なんて、子連れの奥様方か定年後のお年寄りしかいないんじゃないかと思ってたからちょっとびっくりする。

 コーヒーを飲みながら、借りてきたばかりの新刊を読み耽る。平日の昼間って他の人は仕事してる時間帯だよね。なんか心の中で罪悪感と優越感が共存してる感じ。

 切りのいい所でしおりを挟んでぬるくなったコーヒーを飲む。ふと顔を上げて周りを見ると、喫茶店の中でパソコンを広げてる人が結構いた。サラリーマン風のスーツ姿の人もいるし、普通にTシャツとGパンの人もいる。タブレットを触ってる人もいればスマートフォンをいじってる人もいる。

 病院で十日もスマートフォンを触れなかった。そのせいか、スマートフォンのない生活にずいぶん慣れていたみたい。禁断症状はガッツリ出たけど。でも、なかったらないで、ない生活を送るだけなんだよね。

 いろいろと本や雑誌を読んだり、物を考える時間ができた。こうやって喫茶店に来てもスマートフォンを出さずに本を読んでるなんて、入院前のあたしじゃ考えられない。

 中毒だったんだなぁ、と今なら分かる。

 もう少し、時間を有効に使おう。それだけでもなんだか前向きになれそうな気がする。

 腕時計はそろそろ夕方を示してる。

 食材買って、手の込んだ食事を作ろう。週明けからはそんな余裕もなくなる。だから今のうちに。

 あたしは席を立つとレジに向かった。

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