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【逃亡編】3.試練と熱

はいすみません、だだあま警報置いときます(汗

※20151206 改行位置修正

 幌に雨粒があたる音がする。

 今日は珍しく一日中降っていたらしい。馬たちの水を追加しないですんだけど、おかげで日も差さず気温は上がらない。

 あたしはリュウにかけた毛布をしっかりかけ直し、隙間がないように体の下に巻き込むようにした。

 結局あのあと今朝方までついうっかり一緒に寝てしまって、起きる前に現実に戻ってた。

 夜になって戻ってきたらリュウは寝込んでしまっていた。

 体が痛いのだろう、時々うめき声を上げながら眠っている。

 横になれるスペースがほとんどないところに無理やり寝ているし、しんどいに違いない。

 奥の方の荷物をなんとか動かして、少しスペースを広げる。あたしが座れるようにって確保してあった木箱の隙間をつぶして、物の配置を変えると、なんとかリュウが体を伸ばせるスペースができた。

 リュウをなんとか転がして、床に毛皮を敷き詰めて、それからリュウを元の場所に横にしてから毛布をかぶせた。


「リュウ、寒いの?」


 歯の根が合わないのか、がちがちと歯が鳴ってる。額は熱いのに、体は冷えきってる。

 額のタオルを取り替えてから、あたしはそっと毛布をめくるとリュウの横に潜り込んだ。せめて冷え切らないように。

 こんなことならもう一枚、毛布を入れておけばよかった。交代で眠るから、と一人分しか準備してなかったみたい。まあ、横になるペースもないほど荷物が山積みだし、これ以上は増やしたくなかったのかもしれないけど。

 そっとリュウの体に腕を回すと、寝返りを打ってリュウはあたしのほうに体を向けてきた。毛布がずれないように気をつけて、頭の下に腕を差し入れる。


「リュウ?」


 反応はない。額の布が落っこちてしまった。そのままリュウは額をあたしの頬に押し付けてきた。まだかなり熱い。

 今日もこのまま添い寝決定かな。

 仕方なくリュウの髪の毛をそっとなでて、額に唇をつけた。





 リュウが目覚めたのは夜が明ける前のことだった。

 同じ体勢で寝てたのが堪えたのだろう、反対側に体をねじろうとして、隙間がなくて唸った後、むくりと起き上がった。


「リュウ? 起きたの?」


 そっと起き上がる。点けておいたランプがジジと音をたてた。月がある夜なら天窓を開けてるだけでも明るいけど、今日はそういうわけにはいかない。

 ランプがリュウの影を作る。


「あ……サーヤ?」


 頭を振ったリュウは、あたしの方を振り返った。手を伸ばして額を触ると、ずいぶん熱はおさまってる。


「よかった、熱は下がったみたいね」

「え……熱?」

「うん、いくら声をかけてもぜんぜん起きなかったし。心配したよ」


 リュウはあちこち体を動かしたりして確かめてる。


「あ、横になれるように荷物動かしたけど、よかった?」

「え? ああ、構わないけど……ごめん」


 何に対してごめんなんだろう、と思ってる間にリュウの腕が伸びてきて抱き込まれた。


「ちょっと寝不足で……気持ちよく眠れた。ありがとう」

「えっ、いいけど、すっごい熱が出てたし、体も痛そうだったよ? 風邪とかじゃない?」

「ああ、病気じゃないから大丈夫。――この調子だとビリオラまで何日かかるかわからないな」


 ため息とともにリュウは吐き出した。


「調子が悪いなら、急がなくていいよ。ほら、この辺りは野盗とか出ないんでしょ? ここにしばらく駐めてても大丈夫じゃないかな」

「でも――」

「いいよ、ビリオラに急がなきゃならない理由、ないんだよね? 追っ手が来てるわけでもないんだろうし」


 あたしはにっこり笑ってみせた。リュウの目が細くなって――唇を塞がれた。


「ありがとな。これ……しばらくは続くと思う。動けるときに動くようにしよう」


 分厚い胸に顔を押し付けられる。あたしもリュウの体に腕を巻きつけた。


「やっぱり……試練なのね」


 あたしを抱き込むリュウの腕に力がこもった。


「――気にするな」

「だって……そうなんでしょう?」


 あたしを助けるために、リュウはこの世界を選んだんだ。そのための試練なのだから……気にしないはずがない。

 あたしはまだ――決断しきれない。何も返せない。現実あのこを切り離すことができないでいる。

 つんと鼻の奥が痛くなった。


「気にするな。俺の問題だ」


 あやすように、あたしの髪を指で梳く。ゆるゆると、溢れそうだった涙が静まっていく。

 あたしは顔を上げてリュウを見上げた。


「リュウ」

「ん?」


 口づけをねだるように顎を引き上げると、リュウはそっと唇に触れてくれた。


「――待っててくれる?」


 何を? とリュウは首を傾げている。


「あたしはリュウが好き。でも――あの子が運命の人を見つけるまで、待ってくれる?」


 リュウにだって現実のリュウはいたはずだ。それをあっさり切り離してあたしを選んでくれたのだとしたら。あたしだって覚悟を決める。

 ああ、と口角をあげてリュウはあたしにキスの雨を降らせてから口を開いた。


「ありがとう。サーヤ。……嬉しい」


 少し目尻を下げて、微笑んでくれるリュウは、体の力が抜けてしまいそうなほどなまめかしくて妖艶に見えた。心臓が高鳴る。

 しかし、リュウの続く言葉にあたしは衝撃を受けた。


「でもな。確かにアイツとは切り離されたけど、アイツと完全に縁が切れるわけじゃないぞ?」

「――え?」


 どういうこと? あたしがこちらを選べばもう向こうに戻ることはできないんじゃないの?


「夢の中でならアイツと会える。アイツの体験を俺の記憶として持つことはないけどな」

「そうなの?」


 それじゃ、むしろ今よりいいんじゃないの。今はあたしの言葉を伝える事はできないんだもの。

 でも、彩子をあたしとは別の存在とは思えない。あたしも彩子の一部なの。

 うつむいたあたしをリュウは強く抱きしめてくれた。


「――焦ることはない。俺はいつまでも待つよ」


 リュウの胸に寄りかかって、あたしは今度こそ涙を零した。

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