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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月12日(水)

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77.参事会とオード

※20151206 改行位置修正

 扉が開く音に部屋にいた者たちが振り向くと、タンゲルが顔を出した。


「隊長」

「ドラジェさんからの指示だ。明日、王都に出発する」


 おお、と声が一部から上がる。やはり、とルーはほんのすこし眉を寄せた。


「まだ宿を引き払ってない者は?」


 部屋にいたほとんどの護衛が手を挙げる。


「ザジとルー以外は今から休憩を取って宿を引き払って来い。……一刻のちに戻ってこいよ。入れ替わりに俺たちが休憩に入る」


 いいな、と問うタンゲルに、ザジもルーもうなずいた。


「夜勤の者は?」

「夜勤の者たちも起きたら宿を引き払って来てもらう。出発は明日の早朝だ。忘れないようにな」


 おう、と再び声を上げ、護衛たちは部屋を出て行った。


「タンゲル、休憩の間に買い物に行っておきたいんだけど、構わない?」


 ルーの言葉にタンゲルはうなずく。


「王都までは半月かかる。途中で町にも寄るが、それほど自由時間は取れないからな。今のうちに必要なものは全部準備しておくといい。ついでで悪いんだが、俺の買い物も頼まれてくれるか? 宿を引き払ったらすぐ戻らなきゃならない」

「ええ、構わないわよ。ザジは?」

「いや、俺は宿を引き払ってから自分で行くよ。どうせ武器も受け取りに行かなきゃだし」

「武器?」

「ああ。この間、剣の手入れを頼んだんだ。ついでに投擲武器も仕入れておきたいし」

「わかった」

「俺の分はあとでメモに書いて渡すよ」


 了解、とルーは答えた。

 これでとりあえずの時間稼ぎはできる。オードに接触して、イーリンとあの黒角族ディードに出発を指示しなくては。


「タンゲル、そういえばお客様って王都からのお客様?」

「ああ、そうらしいな。この間の治癒師はドラジェ様の予定してたお客様じゃなかったんだそうだ。こっちに行くついでに大事な荷物を運ぶよう頼まれただけだそうでな」

「そう……」


 ルーは興味なさげにふぅん、と答えた。ならばやはりミリオンとドラジェの関係性はゼロなのか。トリエンテに赴く人間に護衛をつけて荷物を運ばせた。それだけなのか。

 タイミングが良すぎたんだよな。だからてっきりドラジェも予定していた王都からの客人だと思った。

 フェイントをかまされた、とも思った。もっと早くにこっちに合流していて、到着した客人を把握していれば、オードへの指示などももっとスムーズにやりとりできただろう。

 誰が客人なのか、情報は降りてこない。かなり慎重に情報が秘匿されている。ザジや他のメンバーにも聞いてみたが、誰も知らないし顔も見ていないという。

 護衛対象がいる部屋の中には誰一人入らせてもらえないのだという。

 知りたい。だが、無理はできない。この館の監視には魔術師がいる。この期に及んで尻尾を出すわけには行かないのだ。

 休憩に出て行った彼らが帰ってくるまで、三人は部屋の中でぐだぐだと要らぬ話を続けていた。





 交代して休憩に入ると、ルーは指示された品を探すのにあちこち歩き回った。その途中で酒場のトイレを借り、姿を地味な便利屋のそれに変えて監視の目をくらませる。

 まずはイーリンに出発の連絡を鳥の姿で飛ばした。怪しまれていなければ別に問題なく届くだろう。それとは別にメモを認めると、妖精のラベルを貼って店の前を通った老婆に預けた。

 そのまま参事会へと赴く。監視はついて来ていないようだ。

 便利屋の振りをして館の中へ足を踏み入れると、妖精のラベルを貼った手紙でオードへの取り次ぎを頼んだ。

 いつものように階段を上がると、オードは青い顔をして待っていた。


「オード殿、一体何があった?」


 オードはかさかさに乾いた唇を舐めながら、口を開いた。


「ピコット殿、遅きに失したやもしれませぬ。王都から、正式にこの地を直轄地にする旨の内示が降りたとの伝言が、王都にいる古き友人より飛んできました。余程のことがない限り、三ヶ月後にはこの内示はそのまま正式な通達となるだろう、という話です」

「……そうか」


 眉をひそめ、地味な便利屋に扮したままのピコはつぶやいた。


「オード殿、ドラジェのところに王都からの客人が来たのはご存知ですか」

「ああ、知っています。城壁の門兵から連絡がありました」

「それが誰だか分かりますか?」

「ええ、クラック子爵と名乗っておられました。私が記憶している限りでは、そのような子爵位を持つお方はいらっしゃらないはずです。もし新たに子爵位を賜る方がいたとしても、賜る前に触れが出るのが通例です」


 ピコは唇をかみしめた。子爵と名乗られれば一兵卒がそれ以上追求することはないと踏んでのことだろう。


「男性だったのですね? 容姿などはわかりませんか?」

「それが……馬車からお出にならなかったそうで。カーテンの隙間からちらりと見えたのが金髪だった以外は不明です。男性だったのかもわかりません。クラック子爵と主張したのは御者ですから」

「わかった。……これ以上は王都へ赴く間に探るしかなさそうだな。オード殿、明日の朝、ドラジェと王都からの客人は王都へ発つ。私も同行する。動きがあれば必ず知らせて欲しい」


 ピコがポケットから妖精のラベルを束ねて渡すと、オードはそれを机の鍵の閉まる引き出しに収めた。


「承知しました。どうぞ……お気をつけて」

「ええ。それから、教会にボクの代わりにテキーラという治癒師が赴任しました」

「存じております」

「この街のことで何かあれば、彼を頼って下さい。ただ――あまり信用しないように」

「……と、申しますと?」


 ピコの苦々しい口調にオードは首を傾げた。


「ボクは彼が苦手なんです。それに、ボクがここでやろうとしていることをあまりよく思っていないので」

「そうですか。無用な情報は与えないように気をつけましょう」

「お願いします」


 ピコは頭を下げると、部屋を出て行った。

出発前はあと一話。明日で1月12日は終わりです。

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