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76.合流

※20151206 改行位置修正

 商業ギルドの建物にたどり着くと、受付でドラジェへの取り次ぎを頼む。それから待つ間、館の中をぐるりと見回した。

 便利屋ルーとしてこの館に入るのは初めてだ。

 商業ギルドの執務の場として使われているのは館の半分で、残り半分はギルドメンバーの倉庫としての機能も担っている。商品倉庫をわざわざ別に借りるより遥かに格安の金額で広い部屋が使えるのだという。

 そちらへの入り口は別に設けられていて、ギルド側からの入り口はない。馬車から直接荷揚げできるようにできているので、もし護衛たちがいるとしたらドラジェの倉庫として割り当てられた部屋の方だろうとは思う。

 だが、直接ドラジェに会わなければならない。この失態だけは挽回しなくては。

 ややあって受付の男がメモを手に降りてきた。


「ドラジェさんは来客の対応中らしくて、伝言を預かってきました。ギルド倉庫への入り口は外から回ってくださいね」


 メモを見るとやはりドラジェの倉庫で他の護衛と合流するように、とある。

 とりあえずは首がつながっているようだ。受付の男に礼を言うとルーは外の入り口へ回った。

 なんとか間に合った。もしかしたら見限ってすでに王都へ出発しているのではないか。そうなると最悪のパターンだ。追いついたとしても合流はできない。目論見が崩れるが先回りして王都に行くしかない。

 その覚悟もしていた。その分心が緩む。

 ギルド倉庫の入り口で受付の男に場所を尋ねるとルーは階段を上がっていった。さすがにギルド長だけあって、最上階の一番広い部屋を抑えているらしい。

 ドラジェとしては店の裏手に大きな倉庫があるし、どちらかと言えばそれ以外の用途に使うのだろう。この最上階だけは、商業ギルド側との通路を閉鎖されずにそのまま通れるようになっている。商業ギルド側の最上階はドラジェの執務室だ。

 部屋にたどり着いてノックをすると、誰何されることなく扉は開いた。


「……おま、今までなにしてたんだよ!」


 顔を出したのはザジだった。目を丸くしたかと思うといきなり怒鳴りつけられた。ばこっと頭も殴られる。ルー=ピコは頭を下げるしかなかった。


「ごめん、店番からドラジェさんの手紙を受け取ったの、今朝なのよ」

「どんだけ心配したと……思ってんだよっ」


 またぽかり。頭にたんこぶできる勢いで叩いてくる。ルーは涙目で顔を上げた。


「あたしだって知らないわよっ! 昨日は店番のやつにこき使われてトラントンまで日帰り往復したんだからっ! こっちにいるって知ってたらとっくに来てたってのっ!」

「あンの馬鹿……。ドラジェさんには?」

「取り次ぎ頼んだら来客中だって追い出されたわよ。一体誰が来てるの?」


 するとザジは素早く廊下のあちこちに目をやり、ルーを引っ張りこんだ。


「とりあえず、中で話そう。――タンゲル、すまん。ようやくルーが合流した」


 扉を後ろ手に閉めて部屋の中に目をやると、傭兵姿の男たちがざっと十名ほどたむろしていた。その中でも頭一つ大きく体も大きいタンゲルがこちらを向いたのがわかった。


「タンゲル隊長……ごめんなさい」


 近寄ってくるタンゲルに、ルーは頭を下げる。視界に彼の靴が入った。

 と、下げている頭がぽんぽんと軽く叩かれた。


「無事戻ってきてよかった。休みを取って前の宿を引き払ってくるって聞いただけだったから、何かあったのかと思ってた」


 頭をあげると、いつもあまり感情を見せないタンゲルの目が少しだけ優しかった。


「ほんと、ごめん。あの日は帰ってきたのが夜中だったから、ドラジェさんのところには寄らなかったの。昨日はあのバカのおかげで一日こっちにいなかったし……」

「戻ってきたんだから気にするな」

「ま、もう一日帰ってこなかったら見限られてたろうけどな」


 ザジの容赦ない言葉にルーは顔をしかめる。


「――うん、半分覚悟はしてた。もう皆行った後かもしれないって。だから間に合ってよかったよ」


 ルーはほんの少しだけ微笑みを浮かべた。


「バーカ。お前に誘われたのにお前がいないんじゃ、意味ねぇだろが。今日も顔出さないようなら無理やりにでも探しにいくところだったっての。……ちゃんと弁えとけよ」


 ザジはそう言うとごつんと額にげんこつを当ててさっさと部屋の奥へ行ってしまった。

 タンゲルはその様子を見てため息をついた。


「君たち……まだ喧嘩してるのか? それとも」


 ルー=ピコは首をかしげた。


 ――今のザジとのやり取りを聞いてもまだ喧嘩継続中だと思うんだろうか? 結構なおニブさんなのかもしれない。まあ、ボクは男だからアレだけど。


「え……と、そういうわけじゃ……」

「俺らのことはほっといていいっすよ、タンゲル隊長。いつものことっすから」


 部屋の奥から声が飛んで来る。


「そういえば、ふたりとも夜勤じゃなかったの? メモにはそう書いてあったけど」

「ああ。……君が休んだ日は夜勤だったんだ。その後宿には戻っていない。交代で護衛に当たってるから、仮眠室があるんだ。町を出る前の日には宿も引き払う」

「じゃあ、今日のうちに引き払うことになるのかしら」

「ん?」

「ドラジェさんからのメモでは、あたしの合流を待ってすぐ出発、となってたから。今日の夜出るにしても、今日引き払わないと、でしょ?」

「ああ、なるほど。いつ出るとはまだ聞いていないんだが、そうだな。聞いてこよう」


 タンゲルはそう言うと部屋を出て行った。

 ルーは他の傭兵たちと軽く言葉を交わしながらザジのところまで行った。擦り寄りながら、耳元で聞こえるくらいの小声でささやく。


「知らないうちに傭兵がまた増えてるな」

「ああ、半分は仮眠中だから、総勢二十人ってところか。今起きてる連中はほとんどこの三日で増えた奴らだ」

「なるほど。後でちゃんと挨拶しとこう。……で、護衛対象はドラジェか? それともいま来てる客か?」

「どっちも、かな。お客さんが来てからずっとドラジェはここを離れてない。誰かから狙われているわけじゃないだろうけど、よっぽどのVIPなんだろうよ。――そっちは?」

「残念ながら、あの店番に翻弄されたお陰で時間を無駄にした。来る途中で参事会からの緊急呼び出しが来たんだが、行く時間がなくてな……今日のうちに一度抜けられるといいんだが」

「ふぅん……参事会ね。お前、なんか変なことに首つっこんでねぇか?」

「ボクはこの町を守りたいだけさ。そのためならなんでもするって前に言わなかった?」


 ピコはいたずらっ子のように瞳をきらめかせる。ザジはため息をついた。


「わかった。――もし宿を引き払う時間がもらえるようなら、宿の方は俺が行く。もともと俺が借りた部屋だしな。だからその間にお前は買い物をするとでも言って抜けろ。次は遅れるなよ」

「ん、わかってる」


 ザジの頬にキスをして、ルーは身を離した。周りに視線をやると、ぱっと他所を向くのが何人かいる。


 ――とりあえず、男の中の女一人。立ち位置は確保しなくちゃね。


 にっこり笑うとルーは傭兵たちの群れへ歩み寄った。

無事合流できました。

置いて行かれるといろいろ面倒なんですよねぇ(ーー;

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