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【逃亡編】2.寝不足

えー、すみません。だだあまです。

※20151206 改行位置修正

 街道から少し外れた木陰に馬車を止め、馬を軛から外し、木に繋いでリュウは荷台に乗り込んだ。

 日が昇る前に潜り込んだはずのサーヤの姿はもうなかった。寝床にと思って置いておいた毛皮と毛布は山に積まれた箱と箱の隙間に押し込んである。体を横にできるスペースが取れなかったため、せめて座るスペースをと作った場所だ。

 向こうの世界に戻っている間に馬車を動かした場合、サーヤが馬車の中に戻ってこれるかどうかわからない。そう思ってサーヤがいない間は馬車を動かさないことに決めた。

 奥からバケツを持ってきて水を満たすと、外に出て馬の足元に置く。幸いこの辺りは下生えも多い。念のため持ってきた牧草は出さなくてもよさそうだ。

 幌をきっちりと閉めてリュウは別の木箱にもたれかかるようにして座った。

 トリエンテから馬車で四刻はちじかんは走った。砂が多いトリエンテの風景から一変して低木の密集地が点々と見られるようになってきた。

 この辺りは野盗は少ないはずだ。そもそも、トリエンテからビリオラへの定期便はなく、それぞれの街から王都への街道はよく利用されるが、横の移動はあまり使われていない。

 ろくに馬車の通らないルートなら安全だろうと言うのがビリオラ行きを決めた理由でもある。

 森にいた頃なら多少の野盗は簡単に往なせる。だが、今の自分は――ただの薬師だ。

 ひ弱になってしまった自分の手を眺め、皮肉な笑いが浮かぶ。

 大切なものを守るための選択だった。それを後悔はしない。

 だが……そのために大切なものを守れなくなるのは計算外だ。

 彼女の怯える顔や泣き顔を二度と見たくないのに。

 リュウは目を閉じ、両手で顔を覆うと深くため息をついた。

 彼女と思いを通じることができた。それだけが今の自分の心の拠り所だ。

 サーヤの声と光と音が戻るまで、夜も昼もほぼ眠らずに薬の分析と調合を続けたせいだろう、目を閉じるとあっという間に睡魔はやってきた。

 夜になって戻ったサーヤに起こされるまで、リュウは一度も起きることはなかった。





 目を開けると暗かった。左右を木箱に挟まれていることに気がついて、体がこわばる。嫌な記憶が浮上してくるのを必死で追いやり、あたしは立ち上がった。

 幌が閉められてるせいであまり荷台の様子は見えない。何かにつまづかないようにすり足で進むと何かに当たった。しゃがみこんで触ると、布に巻かれた何かのようだ。――何だろう? こんな荷物あったっけ?

 膝をついて形をたどると、不意に手を掴まれた。


「きゃっ……何っ!」


 ぐいと引っ張られ、体のバランスを崩して前のめりに倒れそうになる。あわてて両手を突き出すと、「ぐえっ」と潰れたような声が手の下から聞こえた。


「えっ……り、リュウなの?」


 びっくりして体を起こそうとしたが、伸びてきた腕に抱き込まれて動けなくなった。


「ちょ、リュウ? 起きてるの?」


 ぎゅうと抱き込まれて仕方なくあたしは腕の力をゆるめた。草の匂いとお日さまの匂いがする。

 脇の下に差し込まれた腕があたしを引っ張りあげる。ようやく腕の力がゆるめられた時には、目の前にリュウの肩があった。

 リュウは木箱を背に座ったまま寝てるみたいで、そこに抱き込まれたあたしは背中を反らした形で固定されている。この体勢は正直言って……つらい。それに、全体重がリュウにかかってるんだけど……重くないの?


「ねえ、起きてってば」


 両腕を突っ張ってみたけどびくともしない。服越しにリュウの体温が伝わってくる。……なんだかとても熱い。

 はっと気がついてあたしはリュウの頬に自分の頬を当てた。熱い。呼吸は荒くない。


「リュウ……熱出てる?」


 返事はなかった。その代わり、額にキスが落とされる。……起きてるでしょう、絶対!


「薬っ」

「……眠いだけだ」


 寝たふりは諦めたようで、それだけ耳元で言うとリュウは体をずらして床に横になった。あたしは抱き枕状態のまま。なんでがっちりホールドしてんのよっ。

 そのうち規則正しい寝息が聞こえてきた。

 仕方ない。

 位置がずれて目の前に来たリュウの髪の毛を優しく指で梳いて、あたしも目を閉じた。

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