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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月11日(火)

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72.教会に居られない理由

※20151206 改行位置修正

 イーリンと買い物を済ませて戻ってきたリュウは、山ほどの買い物を両手に抱えていた。イーリンも同様に両手に袋を抱えている。


「付き合ってもらってすまなかったな。とても助かった」

「いえ」


 トリエンテに逗留するのはリュウも初めてだった。旅に必要な物品がどこで手に入るかなどまるで知らなかったリュウに、イーリンは比較的安くて信頼のおけるお店を紹介してくれたのだ。

 ついでに日持ちのする食料や飲料水の樽なども教会に送ってもらえるよう手配してくれた。

 おかげで持ち切れないほどの荷物を抱えることにならずに済んだ。というか、こんなに買うつもりはなかったのだが、数日分といわれると納得も出来る。

 これから向かうのは片道三日はかかる町。半日で行けるトラントンとは違うのだ、と思い知らされた。

 抱えている紙袋の中をちらりと見る。サーヤのために、とイーリンが買ってくれたものもいくつかある。女性でなければ気がつかなかった物だ。

 イーリンもピコも旅慣れているのだろう。森を離れるのが初めてのリュウにはさっぱり分からないことだらけだ。

 ずいぶん長くこの世界にいたつもりだったが、まだまだ知らないことが多い。森を出ただけでこれだ。先が思いやられる。

 ひそかに首を振りため息をつく。


 ――サーヤは便利屋だ。きっと彼女の方がこういうことには慣れているに違いない。足手まといにだけはなりたくない。今の自分では、彼女一人守ることだってできるかどうか……。


 護身用の剣か短剣を買っておくべきだったろうか。それに簡易な革鎧も。

 そんなことを考えていたら反応が遅れた。


「おや、お出かけだったんですか」


 裏口から入り、教会の建物に足を踏み入れたとたんに声が降って来た。リュウが声のほうを見ると、白に青いラインの入ったローブの人影がある。金髪を長く流した姿は、どことなくピコの姿に似ていた。


「リュウ様、どうぞ先にお部屋にお戻りください」


 イーリンが身構えて言う。それほど警戒する相手なのか、とリュウも若干警戒心を強くする。


「ひどいな、イーリン。僕はそちらのお客人に興味があるだけなんだけど」

「お早く」


 近寄ってくる青年を牽制してイーリンが鋭く声をかける。


「すまん」


 リュウはイーリンの手から袋を取り上げると、自分の部屋へと足を速めた。

 部屋に入ると扉を閉じ、袋を下ろしてしばらく外を伺う。誰かがくる様子がないのを確認して、降ろした荷物に歩み寄った。


 ――おそらくあれが、ピコが言わない『教会に匿っておけなくなった理由』だろう。こちらへの好奇心が剥き出しだ。妙な威圧感もあった。ピコとは違う形の能力者の可能性は高い。しかも、意識してるのかわからないが、言葉に力を込めている。サーヤなら簡単に絡めとられてしまうだろう。


 急ぐ理由はわかった。とっとと準備をして、出発に備えよう。

 リュウはてきぱきと荷造りを始めた。





「ひどいな、イーリン。ピコのお客人に声かけただけなのに」


 リュウの背中を見送って、テキーラは口を開いた。


「ピコ様より、お二人をあなたの毒牙から守るように言われておりますので」

「毒牙って……ピコは一体僕をどういう人間だと思ってるんだい?」

「お言葉の通りかと思いますが」


 イーリンの刺々しい返答にしかしテキーラはにこやかに笑顔を返す。


「別に挨拶ぐらい問題ないでしょう? 何も取って食うつもりはないんだし」

「ピコ様より、お二人に会わせるのはお二人がテキーラ様に会ってもいいと思った時のみと指示されております。偶然を装うのはおやめください」

「おお怖い。これ以上つきまとうと君の懐の暗器が飛んでくるってわけだ」


 テキーラの視線はイーリンの手の先に向けられている。


「お望みとあれば。……退いてください」

「じゃあ……イーリン、僕はピコのお客人たちと会ってみたいんだけれど、会ってくれるかどうか聞いてみてはくれないかい?」


 イーリンはじろりと目の前の治癒師を睨みつけた。


「あれ、君の言うとおりに正面から面会の申し入れをしたんだけど、これでもダメかい?」


 にこにこ、いや、ニヤニヤと笑いながら言う金髪の治癒師に一瞬殺気を迸らせる。


「おー、怖い怖い。でもそういう顔もいいね。ますます欲しくなるなぁ」

「ご冗談を」


 この男の言動はいちいち癪に障る。イーリンは赤い瞳を眇めた。


「で、どうなんだい? またしても不合格かい?」

「……いいでしょう。後ほどお二人に確認してお返事いたします。テキーラ様はお部屋からお出になりませんように」

「わかったよ。いい返事を待ってるよ」


 そう言って踵を返し、廊下を歩いていくテキーラに、イーリンは眉をひそめて立ち去った。

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