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69.テキーラ

※20151206 改行位置修正

「ピコ、面白いもの、隠してるでしょう?」


 地下牢から上がってきたところでテキーラに捕まった。この場所はピコとイーリン以外には見えないようにしてある。それをどうやって嗅ぎつけたものやら。


「別に。キミに見せるようなものはなにもないよ」


 じゃあ、と執務室の方へ向かおうとすると、肩を掴まれた。


「つれないなあ。せっかく君のためにわざわざ王都から来てるってのに」

「キミの役目はボクがいなくなったあとのボクの代わりだ。いかにキミでも見せられないものはいろいろある」

「はいはい。ちゃんと治癒師としての仕事はやってるよ。――そうだ、キミが保護してる可愛い子に会わせてくれるって話だったよね?」


 人好きのする笑顔でテキーラが言った途端、ピコは自分の肩に置かれたままの彼の手を払いのけた。剣呑な光を宿して彼を睨みつける。


「おお、怖い怖い。そんなにご執心なのは、君の彼女だからかい?」

「お前に教える義理はない」


 怒りを押し殺した声でつぶやく。テキーラは瞠目したあと、ふふ、と目を細める。


「あれ、違うんだ。わざわざ教会に隠してるからてっきりそう思ったんだけどなぁ、残念。振られでもした?」

「――教える義理はないと言った。それに彼らが会ってもいいと言えばって言ったよね? 無理やり会おうとしたって報告上がってるんだけど」


 なんでこんな面倒なのが派遣されてきたのだろう、とピコは頭を抱えたくなった。他にいくらでも力のある治癒師はいるだろうに。

 よりによって一番面倒ミリオンなのが来るなんて。


「あー、そういうことも言ってたっけ。いやさぁ、同じフロアだって聞いてさ。ピコが隠してる女の子ってどんなのかなーって興味が湧いちゃってねぇ。ま、そのうち紹介してよね。君を振った女の子の顔は見ておきたいしね」


 奴のにこにこ顔を見ていたらだんだん腹が立ってきた。なんというか……苛つく。


 ――こいつをへこませてやりたい。


 ピコは頭を巡らせて、そういえば、と疑問に思っていたことを口にした。


「それよりさ、ミリオン。――キミ、なんでドラジェの客として潜り込めたの? 本当はどこぞの子爵のボンボンが来るはずだったよね?」


 今度はテキーラが口を閉じ、笑みを一瞬だけ消した。それからいつもどおりのとろける笑みを見せる。


「ああ――それはね、知り合いから荷物の配達を頼まれたんだよね。よっぽど大事な荷物だったらしくて、護衛もつけてもらったんだけど。それがなにか?」

「ふぅん……知り合い、ねえ。依頼人は王都の商業組合の重鎮か」

「さぁね」

「封蝋と印章で分かるよ。ま、キミのことだ。自分に類が及ばないように手は回してるんだろうから心配はしないよ。あいつの捕縛には協力してもらうんだし」


 テキーラは笑いを浮かべたままだ。


「それから、テキーラ。――治癒師としての力以外は他の教会関係者には見られないように。ボクはまだここにこもっていたいんでね。荒らさないように」

「こもる、ねえ……父上からの手紙は届いてるんだろう?」


 父上、と言われてピコはあからさまに不快な顔をした。


「――帰る気はないよ。何度言われようとね。ボクにはボクの世界がある。父上の思うような生き方はできない」


 しかしテキーラは口角を上げ、笑った。そっとピコの髪に手を伸ばす。


「その割には王都のことによく首を突っ込むよね。だから……父上も簡単に諦めないってこと、わかってるかい? ピコット」

「ボクの居場所を守るためにやってるだけのことだ。それ以上は興味はない」


 一房つまんだテキーラの手を払いのけ、ピコは踵を返した。


「そうかな。君は気がついてないだけじゃないのかな」


 そうつぶやくテキーラの声だけがあとから追いかけてきた。

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