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6.猿猴の小屋

※20151206 改行位置修正

 ぼーっと天井を見上げながら、さっきまで見てた夢を思い出そうとしてみる。

 空を飛んでる夢じゃなかったみたい。なんか、すっごい怖い夢。思い出そうとすればするほどどんどん記憶から消えてって、なんだか怖かった夢、という印象だけが残った。

 スマホの時間を見る。もう日曜日の朝八時になってる。一度目が覚めてからよく眠れたみたい。寝汗はやっぱりすごいけど、すこしは熱が下がったかな。

 喉の痛みは全然引いてない。うーん、今日も流動食かなあ。体温計はまだ三十八度あるって言ってる。うーん、明日まで待っても下がらないようなら病院行ってこよう……。近くの内科がいつから休みになるか調べとかなきゃ。

 起き上がる。とたんにめまいが襲ってきた。部屋が斜めに見えてきて、体を起こしてられなくなって、ベッドに逆戻りする。

 やだ、寝間着着替えたい。シーツも替えて、お手軽氷嚢も作り直したい。よく冷えたスポーツドリンクも取りに行かなくちゃ。シャワりたい。髪の毛洗いたい。汗でぐちゃぐちゃだし。

 なんとか起き上がって、でも伝い歩き。気を抜いたらくたっと座り込んじゃいそう。冷蔵庫が遠い。こういう時、誰かにいて欲しい。親と同居の後輩とか、羨ましくなる。一人で病気して寝込んでたら、そのまま誰にも気付かれずに死んじゃうんじゃないかって気になる。

 ダメだ、すっごい気弱になってる。

 スポーツドリンク取ってきて、ベッドに戻るだけなのになんて重労働。布団に戻ってペットボトルを氷嚢代わりにする。なんかまた熱が上がったみたい。あ、お薬取りに行くの忘れた……。

 こんなんで明日、出勤できるかなぁ……。





 眼を開ける。開けても視界が白い。ああ、そっか。包帯したままんだっけ。

 それから左肩を触ってみる。一度現実に戻ってから再召喚されたら、この傷も治るんじゃないか――そんな淡い期待を抱いてたんだけれど、そんなに甘くはなかった。前に傷を受けた時もそうだったし、仕方ない。

 左肩に負担がかからないように、右に体を傾けて起き上がる。


「あの……リュウさん、いらっしゃいますか?」


 そっと声をかけてみる。あたしがこっちにきたのは朝になってからだから、多分リュウさんももういないはず。

 予想通り返事はない。

 他に猿猴――森の番人がいないかどうか、びくびくしながらもう一度声をかけてみる。

 返事がないのを確認して、あたしは包帯をすこしだけ上にずらした。目の下に隙間を作ろうとしたのだけれど、案外きちんと巻かれていた包帯はびくともしない。もう少しと思って右手に力を入れると、ばらっと包帯が解けてしまった。

 どうしよう……右手だけじゃ巻き直せない。リュウさんが帰ってきた時に取り外しのきくようにしてもらおうかな。……でも、いつまでも眼を隠したままじゃ失礼だよね。それに、包帯巻いてくださいっていうのもなんだか気が引ける。

 リュウさんは必要以上にはあたしに近寄って来なかった。食事の時と、その……おトイレの時ぐらい。ベルトの着脱も片手じゃ出来ないのね……。

 思い出して顔に血が昇ってきた。

 うん。

 決めた。リュウさんがいない間にもう包帯、外しちゃおう。今日の夜にリュウさんが帰ってきたら出発だろうし、移動中に目が見えないって、すごく危険だと思う。

 どう運ばれるのかはわかんない。でも、おぶっていくにしても抱っこするにしても、目が見えない人を連れて動くのはきっと、リュウさんにも負担になるはず。

 包帯を取り外すとあたしは周りを見回した。

 天井がとても高い。寝てる状態で見た時よりもずっと高いところにあった。ベッドはキングサイズ。あたしなら横に寝ても十分行けるわね。長さもすっごく長い。

 ベッドの側には椅子と机。リュウさんが食事で使ってたのはこれね。これもあたしが座ると足がつかないくらい高いの。座るのもちょっとむずかしい。ベッドも座らせてもらったら足が床につかなかった。

 部屋の入り口は扉じゃなくて、カーテンみたい。布で覆ってあるだけ。

 そーっとカーテンをめくると、広い部屋に出た。机と長椅子が置いてある。リュウさん、多分昨日はここで寝たのね。

 ぐるっと部屋を見回そうと思ったけど、床にいろいろ置いてあって、踏まないように歩くのは大変そう。壁際にはぐるりと本棚が置いてあって、本などが置いてある。薬の本とか魔法の本とかいろいろ。物置にもなってるみたい。道具がいっぱい置いてある。何か作りかけのものもある。なんだろう、これ。

 あんまり荒らしちゃ悪いと思って、好奇心を抑えて次の部屋へ。

 というか次のカーテンを開けたら、そこはすぐ外だった。床と屋根は作ってあるけど壁がなくて、机と長椅子がおいてある。炊事もここでやってるみたい。鍋とかかまどがある。

 片隅にはソファみたいなものとテーブルがおいてあって客間っぽい感じがする。村の人とかがやってきて話をするのかしら。

 手すりがなくて結構怖い。昨日の半狂乱な状態だったら……あたし、たぶんここから落っこちて死んでるるわ。……つくづくリュウさんのおかげよね。

 柱につかまってそーっと空を見上げる。太陽が燦々と輝いてるんだろうな。かなり明るい。生い茂った木々の葉に大部分は隠されてるけど、小さな青い空が見える。

 ラトリーはどうしただろう。たいていこっちに来るとすぐあたしを見つけてくれたけど、今回ははぐれっぱなしだ。それともやっぱり猿猴が怖いのかしら。

 あの目を思い出してぞくっと身が震えてくる。でも、お陰であたしは生きてる。そう思うことで恐怖を抑えこむことにする。

 ベッドの部屋に戻ると今度はあたしのカバンを探すことにした。あれを失っちゃったら、依頼も何もパーだもの。でも部屋の中にはなかった。といってもベッドの下と壁際のフックぐらいで、そもそも物が少ないのよね。

 もう一度隣の部屋へ行ってみる。置いてある道具に目を奪われて気が付かなかったけど、壁際にあたしのカバンが置いてあった。水袋もそのまま。拾い上げてみたら、まだ十分水が入ってる。口を開けようとして――片手で開けられないのに気がついた。うまく開けないと水が全部出ちゃう。

 とにかくカバンと水袋をベッドの部屋に持っていく。机……じゃ高すぎるから椅子の上に置いて、カバンの中身を確認する。うん、ちゃんとある。木の実の袋から姫リンゴを取り出してかじる。皮の甘さがとても嬉しい。果汁で喉の渇きは癒せそうだわ。

 動くのも左手以外はほぼ自由になったし、夕方までリュウさんが戻ってこないとなるといきなり時間ができてしまった。

 現実のあたしは……あの様子だとまた夜まで寝てそう。でも夜寝られなくなったらちょっと困るかな……。運んでもらってる時に消えるとか、やっちゃいそうだし。

 本棚に本が置いてあったことを思い出して、あたしは隣の部屋に舞い戻った。

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