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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月10日(月)

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65.狼亭とピコ

※20151206 改行位置修正

 まだ朝も早い時間だ。予想通り狼亭はまだ閉まっていた。店の方は夕方からの営業だが、宿屋の方から入ると扉はすんなり開いた。

 からん、と鳴る鐘の音に出てきたのは狼亭の大将だ。


「大将、いろいろごめん」


 ルーはピコの声で声をかける。大将は首を振り、笑った。飲み屋ではあまり口を開かず、しかめっ面でひたすら注文をこなしてるイメージが定着している大将だが、本来は朗らかで口数も多く、大口を開けて笑う。


「いいってことよ。あんたの頼みだからな」

「で、あの箱なんだけど……」


 うんうん、と大将は首を縦に振った。


「あれ、お前さん宛の荷物だったらしい。俺のいない間に娘が受け取っちまってな。いない間に部屋に置いておいたらしい」

「ふぅん。送り主は?」

「わからん。娘は受け取った時のことをほとんど忘れてたし」


 術でもかけられたか……。ルーは唇を噛んだ。大将はともかく、彼の娘はピコの協力者ではない、普通の娘だ。


「大将……ごめん。彼女にまで迷惑かかるとは思ってなかった」

「いや、ああ見えても娘は気丈だからな。心配するな。で、箱なんだが……指輪が入っていた」

「……指輪?」


 そんなものを贈られる思い当たりは一切ない。というかルー宛というのがあやしすぎる。


「まあ、そのまま預かってるが……魔封じの指輪だな。お前の魔力を封じようって魂胆だったらしい。女は装飾品に目がないからな。ルーも贈られれば一度は身につけようとするだろうと思われたんだろうな」


 その言葉にルーは苦笑する。女の姿をしていても中身は男だ。装飾品に興味はない。それに、魔封じを仕掛けられると姿替えの魔法も封じられる。素の姿を晒すことになる。それを知っている人物からの贈り物、と考えるのが正しいだろう。そういう人物をピコは知っていた。


 ――ミリオンかザジか? いや、ザジがそんな手のこんだことをするとは思えない。わざわざ呼び出したボクに応じてくれた彼じゃない。となると一体誰だ……? ルーが魔力を持っていると知っている人物。


「その指輪、いつものように預かっておいてくれる?」

「ああ。任せろ」

「さて、じゃあすこし教会に行ってくるよ。戻るまでカモフラージュよろしく」


 ピコは久々に治癒師の姿に戻り、姿を消すと、店の裏口から出る。大通りを進み、教会の裏木戸を開けて進入すると、すぐにイーリンが駆け寄ってきた。姿を表す前だというのに、やはり鋭い。


「お帰りなさいませ、ピコ様」


 赤毛を垂らし、目を伏せてイーリンは主を出迎えた。


「イーリン。いろいろ押し付けてごめんね。――テキーラ殿は?」

「昨夜のうちに部屋に結界を張り巡らせておきましたので、夜の間は出られなかったはずです。それから、サーヤ様のお部屋は移動させました。同じフロアに部屋が設定されていて、サーヤ様の居場所を知られてしまいましたので」

「……それは多分、テキーラが手配させたんだろう。イーリンのせいじゃないよ。じゃあ、サーヤはリュウと一緒に?」

「はい。先ほどまで一緒にいらっしゃいました。今はリュウ様だけです」


 ああ、とルーは頭を巡らせた。もう日が出ている。サーヤはすでに向こうに帰ったのだろう。


「リュウ様は解毒剤の調合をなさっておいでです。あの薬自体はもう完成しています」

「そっか。今日の夜には試せそう?」


 しかしイーリンは首を振った。


「本日、サーヤ様のいない間にテストは行いたい、と」


 リュウがいるであろうあたりに目を走らせる。サーヤは聴覚が戻ったという。無くした順番ではないが、徐々に機能は戻ってきている。その目の前で、自分が受けたのと同じ薬の副作用を耳にしたくはないだろう。はずみで何か嫌なことを思い出して泣くサーヤをもう見たくはない。


「わかった。――黒角族ディードは?」


 その単語を聞いた途端、イーリンは肩を揺らした。


「そのことですが……ピコ様。彼をどうするおつもりですか?」


 ピコはじっとイーリンの瞳を見つめた。その赤色に迷いが見える。


「何か言われた?」

「はい。……いつまで飼い殺しにするつもりなのか、と。殺すつもりがないならここから出せとも」


 ピコは押し黙った。

 サーヤを傷つけた張本人だ。ピコの中でもまだ答えは見えていない。殺したいと思っている反面、その能力を買ってもいるのだ。


「ピコ様……」

「わかった。ボクが話すよ。……イーリン」

「はい」

「キミにあれを預けたとして、完全に制御できそう?」


 少しの間が開いて、イーリンは唇を開いた。


「少し手にあまるかもしれません。ああ、それと――食事を三食出せ、と。フルコンディションの状態で私と一戦やりたいと申しております」

「一戦?」

「はい。――ピコ様、お許しいただけますか?」


 ピコはもう一度イーリンの目を見た。そこには諜報員としてではない暗殺者としての炎が宿っている。彼女のフルパワーを見るのも楽しそうだ。


「わかった。――ボクも立ち会うよ。じゃあ、ご飯は要求するだけ出してやって。せっかくだからフルパワーのいい勝負にしよう」

「承知しました。では、明日でよろしいですね?」

「ほんとは一週間ぐらい調整が欲しいところだけど、無理だもんねえ。いいよ。明日の日没後にね。じゃ、リュウのところに行こうか。いつ始めるとかは聞いてる?」


 イーリンは頭を振った。


「ピコ様がおいでになってから、と聞いてますので」

「分かった。――記録係、頼むよ」

「はい、心得ております」


 二人は互いに頷くと、教会の建物へと入っていった。

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