60.護衛任務
※20151206 改行位置修正
前を行く亜麻色の髪を眺めながら、ザジは頭の後ろで手を組んだ。
――まさかこいつが来るとはなぁ……。
ちらっと右に立つ傭兵に視線を送る。頬に傷のある傭兵はといえば、前を行く二人に従いつつ、周りへの警戒を怠らず、視線をあちこちに走らせている。ザジの表情には気づいてないらしい。
――そこまで警戒することなさそうだけどなぁ。監視いっぱいついてるし、護衛の魔法使いもいるし。まぁ、首が飛ばない程度には仕事するけどさ。
青いラインの入った白いローブに身を包み、腰まである髪を惜しげもなく風にばらまかせた男の顔は透けるように白い。ちらりとこちらを見る瞳は空を切り取ったような青。
「ねえ、君。ザジ、と言ったかな?」
「はい、なんでしょう――」
殿下、といいかけてザジは口を閉じた。今目の前にいるのは王都から派遣され、トリエンテの教会に赴任する教会付きの治癒師だ。王族じゃない。
「先ほどからずいぶん熱く見つめてるみたいだけど、僕の顔になにかついてるかい?」
――ええ、眼と耳が二つずつ、鼻と口が一つずつ。そう言いたいのをぐっと堪える。
「いえ、別に。長い髪の男性が珍しいと思っただけです」
「そうかな。こちらには僕と同じぐらい髪の長い風来坊の治癒師がいると聞いてるから、別に珍しくもないと思うけどね?」
――そりゃ隣にいるピコのことだろーがよ。ってか知ってるだろ、てめぇ。
後ろを振り向いて足を止めた治癒師の左手がルー=ピコの腕にかかってるのに気がついて、ザジは眉を寄せた。
「あの――ええと、テキーラ殿」
「なんでしょう。――ザジ殿」
「……俺の女に手ぇだすなって言ったろ」
つかつかと歩み寄ってルーの腕から奴の手を引き離す。やっぱりさっき一発入れとくべきだった。
「おい、ザジ」
後ろからタンゲルの腕が伸びてきてザジの腕を捻り上げた。
「護衛対象に手を挙げる奴がいるか。――後ろに下がってろ。テキーラ殿も、用心棒に不用意に手を触れないで頂きたい。護衛任務に支障が出る」
「おやおや、君のナイトが怖いねえ」
テキーラはふふふと笑ってルーの横に戻った。
「ナイトってほどじゃないけど。で、次はどこの視察?」
ルーはちらっと後ろの二人を見て肩をすくめ、テキーラに視線を戻した。
「スケジュールはあなたがご存知だとしか聞いてないんだけど、教会には行かないの?」
「もちろん行くよ。ただ、それまでは自由時間だからね。もっとこの町をあちこち見てみたいじゃないか。これから私が赴任する町なんだから、ね?」
「まあ確かに、せっかくだもんね。じゃ、次はどこ?」
「そうだなぁ……商業ギルドはもう行ったし……」
顎に指を当てて、空を見上げる仕草をする。自分が綺麗だと知ってる奴の行動だな、とザジはにらみつける。
「そうですねぇ、ドラジェさんはお忙しいらしいし」
テキーラの持ってきた手紙と荷物を受け取ると、追い出すように四人を視察に追い出した。
「あ、じゃあ市場に行かない? 今日はちょうど市の立つ日だし、いつもより賑わってるわよ」
「あ、それいいですね。ちょうど欲しい物もありますし。案内してもらえますか?」
「もちろんいいわよ。――ザジもタンゲルさんもこの街は不案内よね? ついでに買い物してったら?」
「あー、そりゃいいけど、仕事中だからな。護衛任務終わったら買い物に来るよ」
「そうだな」
「ああ、いいですよ」
と口を開いたのはテキーラだった。
「僕も多少は腕に覚えがあるからね。二人も買い物があるなら抜けていいよ。それに彼女とぶらぶらしたいしね」
ふふ、とまた笑ってテキーラは前を向いた。やはりその腕はルーの腕に絡められている。
「くっそ……」
「ザジ、慎め。――では、お言葉に甘えて一人ずつ抜けさせていただきます。いいな、ザジ」
「――了解」
ぶすっとふてくされた顔でザジは引き下がった。
なかなかヒロインが出てきません。すみません。
もうしばらくルーとザジのターンが続きます。とりあえずテキーラの町内視察が終わるまで(汗